一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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シダに地上茎がないことについて

質問者:   一般   なかりん
登録番号6104   登録日:2025-02-09
シダ類の茎は地下茎のみで地上部分は葉であると理解していますが、ウラジロ科のシダには葉軸の先端に休止芽ができて毎年無限成長を重ねることを知りました。葉のなかにそういった成長点があることは、種子植物ではあまりないことではないでしょうか。考えてみれば、シダの葉は胞子まで作れるわけですから、そんなに不思議なこととは言えないのかもしれませんが。そこで改めてお聞きしたいのですが、一般に、植物のある部位が葉であるのか茎であるのかはなにをもって決定されているのでしょう。根と茎のような構造の違いなのか、あるいは機能的な違いなのでしょうか。ご教示いただければ幸いです。
なかりん 様

興味深い質問ありがとうございます。葉の研究の世界的な第一人者である東京大学の塚谷裕一教授に回答をお願いしました。先生は、様々な植物について、分子生物学や形態学の立場から葉の研究を精力的にすすめられています。

【塚谷先生の回答】
ご質問をありがとうございます。

 何をもって葉とみなすか、あるいは枝とみなすかは、種子植物の場合、古典形態学的には以下の諸点で判断してきました。つまり葉は(1)原則として背腹性(裏表の区別)を有する、そして(2)腋芽(脇芽)をその基部にしか持たない、です。これにより、サンショウの葉やバラの葉、あるいは何度も分岐するタラノキの葉も、複葉タイプの葉とみなし、枝とはみなさないわけです。これは特に上記の定義(2)によります。タラノキの葉の分岐点には、腋芽はできませんし、逆にその葉の付け根には、茎との境目に腋芽がありますから。

 さてシダの方ですが、これはちょっと事情が違います。シダの葉は、種子植物が葉を獲得したのとは独立に、進化上獲得されたと考えられていて、いろいろと種子植物の葉と違うからです。ご指摘のように、シダ類ではコシダやカニクサなどのように、頂部に分裂組織(芽)を持ち、何年も成長し続けられるものが多くあります(種子植物でも、実はわたしたちが研究しているセンダン科GuareaやChisocheton属のように、葉の先端に分裂組織を保って何年も成長する種類もありますが、稀です)。

 またシダの場合、種子植物と違って、葉の最基部の、茎との境目には腋芽を作りません。葉との境目と離れた位置に腋芽ができます。そのため、腋芽の存在をもって葉の最基部とみなすことができません。ですので、シダの場合はざっくり言えば、分岐しながら永続的に成長するのが茎(多くの場合は根茎)、そこから派生して数ヶ月から数年間、分岐なしに成長を続け、平たく背腹性のある構造を作るのが葉、ということになります。シダの葉には、頂芽はあるものの腋芽はないからです。

 ちなみに地上茎の話に移ると、Oleandra属のように根茎が半分着生しながら立ち上がり、枝分かれして低木のように見える姿となるシダもあります。これなどは立派な地上茎と言えると思います。なおOleandra属の葉は切れ込みのない単純な形で、何の変哲もない葉です。

 さらにまたご質問では、シダの葉での胞子の形成に触れられておられますが、葉の上に胞子を作るのは、シダの特権ではありません。種子植物の雄しべはまさに、葉が変形した葯の中に胞子を作った胞子嚢ですし、雌しべも葉が変形した心皮の縁に胞子嚢を作った構造です。

 ご参考になれば幸いです。
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
長谷 あきら
回答日:2025-02-18