質問者:
一般
ひかり
登録番号6106
登録日:2025-02-15
夜光キリン (ユーフォルビア・フォスフォレア Euphorbia phosphorea)という植物を手に入れました。みんなのひろば
夜光キリンのりん光の成分
この植物の樹液はりん光を発して夜に光るため夜光キリンという和名があるそうです。
りん光を発する樹液の成分が具体的に何なのかわかっているのでしょうか。
お答えいただけたら幸いです。
ひかり様
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「夜光キリンのりん光の成分」にお答えします。
夜光キリンという植物は知りませんでしたので、いろいろ調べてみました。しかし、なかなか納得のいく情報が得られず、「樹液がりん光を発して夜に光る植物」が実在するのかどうか疑問になりました。そこで、夜光キリンが実際に光るかどうかご自分で調べて頂ければと思います。
まず、お手元の夜光キリンが光るかどうか見てください。樹液が燐光を発するということですので、光るとすれば、植物体を傷つけて滲み出させた樹液に紫外線を当てた時だろうと思います。この時に光るならば、本Q&Aコーナーの登録番号3950(アオダモの蛍光物質は何のため?)で取り上げられている現象と同じようなものかもしれません。登録番号3950は蛍光の話ですが、もし夜光キリンの光が燐光ならば、興味深い結果だと思います。しかし、人工的に紫外線を照射した時だけ光るのならば、樹液が光るということにはなりません。また、紫外線照射無しに光るならば、蛍光または燐光ではないことになり、ホタルのような生物発光などが想定されます。しかし、この場合の発光は樹液ではなく植物体で起こるものです。いずれにしても、樹液が光るというのは考えにくいです。
もし実際には光らないのならば、「樹液は燐光を発して夜に光る」という話にはどのような根拠があるのでしょうか?ここまでは、燐光を、ある物質が紫外線照射で励起状態に遷移し、これが基底状態に戻るとき放出される光として考えてきましたが、古くは別の現象が燐光と呼ばれていたことがあります。生物の遺骸由来の燐が酸化する際に青白い光を発するとされていたようです。この植物で似たような現象がかつて目撃されたことがあって、そのような話が広まり、今日まで言い伝えられてきたのかもしれません。
かなり古いものですが、1898年のNature 誌に次のような記事が出ていました。「傷つくと出血して生きた火を流すように見える植物があるそうだが、そのようなphosphorescent sap(燐光を発する樹液)を持つ植物が実在するだろうか。もし、本当なら、生理学的に興味深い」という内容の投稿です。これに対して「1838年の雑誌にEuphorbia phosphorea のmilk-juice(乳汁)のphosphorescence(燐光)についての信頼できる記事がある」という手紙が掲載されていました。ごく短い文章なので詳細は分かりませんが、E. phosphoreaは乳汁(樹液)が燐光を発する植物だということのようです。夜光キリンにまつわる話と辻褄が合います。この植物の種小名がphosphoreaであることもphosphorescenceと関係がありそうです。
この植物が実際に光るか光らないかの観察結果も待たずに勝手な考察をしてしまいました。私としては否定的な予測をしているのですが、もし本当に光るのならば重要な問題提起になりそうです。一方、Nature 誌上のやり取りも興味深いので、もっと深掘り出来ると面白いと思います。
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「夜光キリンのりん光の成分」にお答えします。
夜光キリンという植物は知りませんでしたので、いろいろ調べてみました。しかし、なかなか納得のいく情報が得られず、「樹液がりん光を発して夜に光る植物」が実在するのかどうか疑問になりました。そこで、夜光キリンが実際に光るかどうかご自分で調べて頂ければと思います。
まず、お手元の夜光キリンが光るかどうか見てください。樹液が燐光を発するということですので、光るとすれば、植物体を傷つけて滲み出させた樹液に紫外線を当てた時だろうと思います。この時に光るならば、本Q&Aコーナーの登録番号3950(アオダモの蛍光物質は何のため?)で取り上げられている現象と同じようなものかもしれません。登録番号3950は蛍光の話ですが、もし夜光キリンの光が燐光ならば、興味深い結果だと思います。しかし、人工的に紫外線を照射した時だけ光るのならば、樹液が光るということにはなりません。また、紫外線照射無しに光るならば、蛍光または燐光ではないことになり、ホタルのような生物発光などが想定されます。しかし、この場合の発光は樹液ではなく植物体で起こるものです。いずれにしても、樹液が光るというのは考えにくいです。
もし実際には光らないのならば、「樹液は燐光を発して夜に光る」という話にはどのような根拠があるのでしょうか?ここまでは、燐光を、ある物質が紫外線照射で励起状態に遷移し、これが基底状態に戻るとき放出される光として考えてきましたが、古くは別の現象が燐光と呼ばれていたことがあります。生物の遺骸由来の燐が酸化する際に青白い光を発するとされていたようです。この植物で似たような現象がかつて目撃されたことがあって、そのような話が広まり、今日まで言い伝えられてきたのかもしれません。
かなり古いものですが、1898年のNature 誌に次のような記事が出ていました。「傷つくと出血して生きた火を流すように見える植物があるそうだが、そのようなphosphorescent sap(燐光を発する樹液)を持つ植物が実在するだろうか。もし、本当なら、生理学的に興味深い」という内容の投稿です。これに対して「1838年の雑誌にEuphorbia phosphorea のmilk-juice(乳汁)のphosphorescence(燐光)についての信頼できる記事がある」という手紙が掲載されていました。ごく短い文章なので詳細は分かりませんが、E. phosphoreaは乳汁(樹液)が燐光を発する植物だということのようです。夜光キリンにまつわる話と辻褄が合います。この植物の種小名がphosphoreaであることもphosphorescenceと関係がありそうです。
この植物が実際に光るか光らないかの観察結果も待たずに勝手な考察をしてしまいました。私としては否定的な予測をしているのですが、もし本当に光るのならば重要な問題提起になりそうです。一方、Nature 誌上のやり取りも興味深いので、もっと深掘り出来ると面白いと思います。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-02-28