質問者:
会社員
純一郎
登録番号6118
登録日:2025-03-06
以前、カンヒザクラは(その他のサクラの花もそうかもしれない)それぞれの花の蜜の量を調節して、鳥や蜂にたくさんの花をめぐってもらい受精する機会をふやしているということを聞きました。どこかの大学の先生が1個1個の花の蜜の量を測ってそのようなことがわかったそうです。花の蜜の量
本当でしょうか。また、サクラの仲間は皆そうなのでしょうか。そして他の植物の花でも同じようなことがいえるのでしょうか。
純一郎様
この度は日本植物生理学会・みんなのひろばにご質問をお寄せくださりありがとうございました。また回答までお待たせいたしました。
いただきましたご質問につきまして、訪花性昆虫による植物の繁殖生態学などがご専門の北海道大学地球環境科学研究院 准教授・工藤岳先生にご回答いただきました。
【工藤先生からの回答】
花が蜜を作る理由は、ご存じの通り花粉を運んでくれる昆虫や鳥(ポリネーター)を引き寄せるためです。蜜生産自体は植物の成長とは関係なく、単なるポリネーターへの報酬です。ポリネーターは蜜を目当てに花を訪れ、意図せずに花粉を運んだり受粉をさせられている訳です。多くの糖分が含まれる蜜生産には、かなりのコストがかかります。すべての花にたっぷりと蜜を用意するのは、植物には大きな負担です。そこで、最小限の蜜生産でうまく花粉を運ばせるように蜜量を調節しています(いわゆるコスパ)。サクラのように大量の花を咲かせる植物では、すべての花の蜜量を少なく絞ってしまうと、その植物はポリネーターにとって魅力的ではなくなってしまい、敬遠されてしまう可能性があります。そこで蜜量の多い花も混ぜることで、ポリネーターを引きつけているのでしょう。
同じ株の花間で蜜量が異なる理由は他にもあります。もし植物がすべての花に同じ量の蜜を用意できたとすると、ポリネーターは長くその株に留まるでしょう。どの花からも安定的に蜜が得られるからです。そうすると、同じ株の花間で花粉が運ばれ、自家受粉が頻繁に起こるようになります。植物がポリネーターに花粉を託すのは他家受粉のためですが、その目的が達成されなくなります。しかし、蜜のない空花が混ざると、ポリネーターは蜜にありつけない空振りを経験することになります。何度か空花への訪花が続くと、その株には蜜が少ないと判断して、別の株に移動します。株毎に蜜の状況が変わると、ポリネーターは頻繁に株間を移動して、蜜の多い株を探索しようとします。そのような行動は、植物に取って他家受粉の成功度を高めるのに好都合です。
自ら動けない植物は、花にやってくるポリネーターの行動をうまく操作して効率的に他家受粉を行っています。ポリネーターを引きつけるだけでなく、やってきたポリネーターを早く立ち去らせることも、とても重要です。動物媒花でみられる多様な花形態、色、香りなどはすべて、ポリネーターをコントロールして花粉を効率的に運ばせるための植物の繁殖戦略と関係しています。蜜量の調節もそのひとつと考えられます。
=====
以上、ご参考になりましたでしょうか。植物の繁殖戦略としての蜜量の調節もいろんなパターンがありそうです。
本コーナーでは植物のふしぎに関する質問を受け付けております。また不思議に思われたことがありましたらQ&Aコーナーをお訪ねください。
この度は日本植物生理学会・みんなのひろばにご質問をお寄せくださりありがとうございました。また回答までお待たせいたしました。
いただきましたご質問につきまして、訪花性昆虫による植物の繁殖生態学などがご専門の北海道大学地球環境科学研究院 准教授・工藤岳先生にご回答いただきました。
【工藤先生からの回答】
花が蜜を作る理由は、ご存じの通り花粉を運んでくれる昆虫や鳥(ポリネーター)を引き寄せるためです。蜜生産自体は植物の成長とは関係なく、単なるポリネーターへの報酬です。ポリネーターは蜜を目当てに花を訪れ、意図せずに花粉を運んだり受粉をさせられている訳です。多くの糖分が含まれる蜜生産には、かなりのコストがかかります。すべての花にたっぷりと蜜を用意するのは、植物には大きな負担です。そこで、最小限の蜜生産でうまく花粉を運ばせるように蜜量を調節しています(いわゆるコスパ)。サクラのように大量の花を咲かせる植物では、すべての花の蜜量を少なく絞ってしまうと、その植物はポリネーターにとって魅力的ではなくなってしまい、敬遠されてしまう可能性があります。そこで蜜量の多い花も混ぜることで、ポリネーターを引きつけているのでしょう。
同じ株の花間で蜜量が異なる理由は他にもあります。もし植物がすべての花に同じ量の蜜を用意できたとすると、ポリネーターは長くその株に留まるでしょう。どの花からも安定的に蜜が得られるからです。そうすると、同じ株の花間で花粉が運ばれ、自家受粉が頻繁に起こるようになります。植物がポリネーターに花粉を託すのは他家受粉のためですが、その目的が達成されなくなります。しかし、蜜のない空花が混ざると、ポリネーターは蜜にありつけない空振りを経験することになります。何度か空花への訪花が続くと、その株には蜜が少ないと判断して、別の株に移動します。株毎に蜜の状況が変わると、ポリネーターは頻繁に株間を移動して、蜜の多い株を探索しようとします。そのような行動は、植物に取って他家受粉の成功度を高めるのに好都合です。
自ら動けない植物は、花にやってくるポリネーターの行動をうまく操作して効率的に他家受粉を行っています。ポリネーターを引きつけるだけでなく、やってきたポリネーターを早く立ち去らせることも、とても重要です。動物媒花でみられる多様な花形態、色、香りなどはすべて、ポリネーターをコントロールして花粉を効率的に運ばせるための植物の繁殖戦略と関係しています。蜜量の調節もそのひとつと考えられます。
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以上、ご参考になりましたでしょうか。植物の繁殖戦略としての蜜量の調節もいろんなパターンがありそうです。
本コーナーでは植物のふしぎに関する質問を受け付けております。また不思議に思われたことがありましたらQ&Aコーナーをお訪ねください。
工藤 岳(北海道大学地球環境科学研究院)
JSPP広報委員長
藤田 知道
回答日:2025-04-03
藤田 知道
回答日:2025-04-03