一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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黒葉で赤色の色素を持つ植物が育つ環境とは?

質問者:   一般   meme
登録番号6119   登録日:2025-03-08
趣味でブセファランドラを育てているのですが、同じ種(同じ地方の同じ流域内の同系統種)でも色合い等の差があることに興味を持ちました。ここのQ&Aで黒い葉を持つ種と持たない種の差、アントシアニンがでる理由など拝見させて頂きました。
その上で「黒い葉、赤の軸や紫の葉裏の葉脈」を持つ種のブセファランドラがあることに疑問を持つ事になりました。
黒い葉と赤色色素は正反対の環境下で生じる特徴なのではないか?黒葉の植物が赤色色素を生成する理由が分かりませんでした。

※上記の特徴を持つブセファランドラの例
モトレイアーナ チョムラー
モトレイアーナ 紫凛愛 等

黒い葉ですが、林床に生える植物として少ない光量のため光合成を効率よく行う為にクロロフィルが蓄積し黒色に見えるという所には納得出来ます。
赤色色素が太陽光のフィルターとしての役割なら、同系統で明るい葉を持つ物個体もあるため、葉の色が明るくなってしまうのでは無いか、陰性の草なので対応しきれない強い光では葉焼けを起こしてしまうだけなのではないかと思います。また、環境要因が原因となるのであれば育成下ではアントシアニンの生成はされず赤色の色素は生まれないのではないかと思いました。
単なる遺伝的要因が大きいのかもしれませんが、育成環境でアントシアニンが生成される環境またはアントシアニンの生成を促進するような成分はあるのでしょうか?
meme さま

日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&Aに質問をおよせくださり有難うございます。

Bucephalandra: Wikipediaによると主にボルネオに産するサトイモ科の渓流植物で、水中でも陸上でも生育可能のようです。アクアリウム植物として人気が沸騰しているようですね(2025年3月27日英語版参照)。
Wikiではこの属で記載された種の数は30。Green-Aquaという別のサイトでは、2018年現在で31種が記載されているとあります(2025年3月27日英語版参照)。

モトレイアーナ チョムラー
モトレイアーナ 紫凛愛

もネットで調べてみました。チョムラーは「超紫」なのですね。確かにアントシアニンが美しいです。・・・それにオークションなどを見ると、これらが非常に高い値段で売買されているのも印象的です。

写真から判断するに、これらの植物の葉の葉身は黒く見えますが、クロロフィルもさることながら大量のアントシアニンをもっているようです。memeさんはクロロフィルをたくさん持っていることと、アントシアニンを蓄積することが同時に見られる点に疑問をお持ちです。もっともなことです。

葉の色に限らず植物の「やっていること」の意味を考察する場合、究極にはその性質が「適応度」を高めているかどうかを判断します。適応度とは、ある個体が残す「生殖可能」な子の数、です。多くの健全な種子を残すためにはその原料となる光合成産物の生産は必須です。したがって、光合成の効率を高める性質は適応度を高めると判断できます(と光合成学者は考える)。お気づきのように、これは植物の生育する環境に依存します。Aという環境で有利だと判断できる性質がBという環境でも有利だとは限りません。ですから、暗い環境では有利、明るい環境では有利という具合に、環境を限定する必要があります。

しかし、これはあくまで自然環境下で自然選択を論じる場合の姿勢です。園芸品種の場合は異なります。美しい変異体が得られたら、ヒトが生育や繁殖を助けることができるからです。植物Q&Aで「枝垂れ」を検索していただきますと、これらは植物ホルモンに関する変異体で、あて材の形成ができない植物だと解説されています。光をめぐる競争がおこる自然界では、枝垂れの変異体は自然淘汰されてしまうでしょう。枝垂れのサクラやウメの場合には、適した場所に孤立木として植える必要があります。森の中に植えたらどうなるかは簡単に想像できます。春先からアントシアニンを持ち続けるカエデの変異体がありますが、これも森の中に植えたら、自然淘汰されると思われます。一方、枝垂れでも、シダレヤナギは揚子江沿岸に自然分布するそうです(シダレヤナギ Wikipedia 2025年3月27日日本語版を参照)。このような競争相手のいない場所(ハビタット)なら自然分布も可能なのですね。川面や水辺では枝垂れは受光にも有利だし、風や雪にも強いかもしれません。煮え切らない議論になってしまいますが、これも場合や環境によるということでしょうか。

「葉のアントシアニンがどのような場合に誘導されるのか」という質問については、植物Q&Aの検索機能をつかって「アントシアニン」で調べてみてください。多くの回答をご覧になれます。

今回は、「ヒトが生育や繁殖を助ける園芸品種の性質に関しては、自然環境下でおこる自然選択の観点からの考察があてはまらない場合がある」ということを回答とさせてください。
Bucephalandraに関しては、30種に満たない原種からすでに500を超す品種がうまれている(上記のGreen-Aquaによる)とのことです。自然環境下では淘汰される運命にあるかもしれない多くの変異が園芸品種となっているようですね。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-03-28