質問者:
教員
FI
登録番号6122
登録日:2025-03-13
シイ類やカシ類の種子(いわゆるどんぐり)をペットボトルに密封していたところ、膨張しエタノール臭がしました。また、BTB液を添加した水中に密封したところ気泡が発生しBTBは黄色く変色しました。アルコール発酵が起こったと言えると思っており、この点について研究を進めていきたいと考えています。お伺いしたいのは、このような先行研究があるのか、どんぐり自身がアルコール発酵を行なっている可能性があるのか、どんぐりに付着した酵母などが行なっているのでは無いことを示すにはどのようにすればよいのか、という点です。みんなのひろば
どんぐりのアルコール発酵について
お手数をおかけいたしますが、どうかよろしくお願いいたします。
PI様
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
ドングリと聞くと、戦時中の国家総動員というプロパガンダのもとに、当時国民学校と呼んだ小学校の生徒だった私は、ドングリを集めて「お国のために」役立とうという学校の指導で、多量のドングリを拾い集めたことを思い出します。ドングリは皮を鞣すタンニンの抽出、発酵させてアルコールの製造などに使われ、残り滓は家畜の飼料に使われるということでした。アルコールは飲料というよりは航空機などの燃料にすることも考えられていたようです。
と言うことで、ドングリがアルコール発酵の材料になることは、別に珍しいことではありません。ドングリはカシ、シラカシ、シイ、マテバシイ、コナラ・ミズナラ、クヌギ等々のブナ科の堅果の一般的総称で、主成分はデンプンです。従って、食用にも使われてきました。ただし、タンニンが多いので、いわゆる渋抜きが必要です。また、ドングリ酒も作られています。
ネットで調べてみると、現在でも、ドングリを発酵させて酒を作っておられる方が多いですね。FI様と同じような経験が、「椎の実が自然にアルコール発酵 知らぬ間に『酒の実』に変身していました」というタイトルで、詳しく報告してあります(すでに、読まれたかもしれませんが)。
アルコール発酵には主として酵母菌が必要です。酵母菌は自然には至る所にあります。植物にはさまざまな酵母菌が付着していますし、地上の落葉にはたくさん付着しています。地上に落ちたドングリは間違いなく酵母菌に塗れているでしょう。
付着した酵母菌が発酵に必要かどうかは、ドングリを殺菌してから密封無菌容器にいれて適当な温度に置き様子をみることでしょう。殻斗(一番外の硬い皮)とその下側の薄い渋皮を取り除き、子葉を二つに分けてから、よく水洗いしてしたのち、70%〜80%のエタノール液にさっと浸けるかスプレーして殺菌します。それを滅菌水で洗浄してから、滅菌した容器にいれ密封します。それで発酵してきたら、酵母菌が子葉内部にいたと考えらます。しかし、子葉の組織内に酵母菌が入り込んでいるとは想像しにくいですが。
もし穀斗の外側についている酵母菌や微生物を除去したいのなら、ドングリをそのまま上記の手順で滅菌すればよいでしょう。
こう言うことを研究した論文は一つだけみつかりました。原著はロシヤの論文です。残念ながら手元では要旨しか読めませんでしたので、それを下記に引用しておきます。これによると「穀斗を取り除かないそのままのドングリ(Quercus robur L:ヨーロッパ・ナラ)の子葉にはCandida railenensisという酵母菌が1種だけ含まれている」と書かれていますが、どのような状態で存在しているのかは、論文の内容が読めないのでわかりません。もしかすると、閉じた子葉に間に(つまり表皮)付着しているのかもしれません。
Microbiology (00262617), 2009, Vol 78, Issue 3, p355
https://link.springer.com/article/10.1134/S002626170903014X
O. V. Isaeva, A. M. Glushakova, A. M. Yurkov & I. Yu. Chernov
Abstract: The cotyledons of whole intact acorns were shown to contain yeasts; their number increased sharply before acorn germination. The yeasts in the cotyledons are mainly represented by one species, Candida railenensis, with the number in the germinating cotyledons reaching 107 CFU/g. After germination or exocarp destruction, the cotyledons were colonized by the usual epiphytic and litter yeasts Cryptococcus albidus, Rhodotorula glutinis, and Cystofilobasidium capitatum.
なお英語の論文を探せばまだ関連したものがあります。例えば「bioethanol from acorns」で検索して見てください。
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
ドングリと聞くと、戦時中の国家総動員というプロパガンダのもとに、当時国民学校と呼んだ小学校の生徒だった私は、ドングリを集めて「お国のために」役立とうという学校の指導で、多量のドングリを拾い集めたことを思い出します。ドングリは皮を鞣すタンニンの抽出、発酵させてアルコールの製造などに使われ、残り滓は家畜の飼料に使われるということでした。アルコールは飲料というよりは航空機などの燃料にすることも考えられていたようです。
と言うことで、ドングリがアルコール発酵の材料になることは、別に珍しいことではありません。ドングリはカシ、シラカシ、シイ、マテバシイ、コナラ・ミズナラ、クヌギ等々のブナ科の堅果の一般的総称で、主成分はデンプンです。従って、食用にも使われてきました。ただし、タンニンが多いので、いわゆる渋抜きが必要です。また、ドングリ酒も作られています。
ネットで調べてみると、現在でも、ドングリを発酵させて酒を作っておられる方が多いですね。FI様と同じような経験が、「椎の実が自然にアルコール発酵 知らぬ間に『酒の実』に変身していました」というタイトルで、詳しく報告してあります(すでに、読まれたかもしれませんが)。
アルコール発酵には主として酵母菌が必要です。酵母菌は自然には至る所にあります。植物にはさまざまな酵母菌が付着していますし、地上の落葉にはたくさん付着しています。地上に落ちたドングリは間違いなく酵母菌に塗れているでしょう。
付着した酵母菌が発酵に必要かどうかは、ドングリを殺菌してから密封無菌容器にいれて適当な温度に置き様子をみることでしょう。殻斗(一番外の硬い皮)とその下側の薄い渋皮を取り除き、子葉を二つに分けてから、よく水洗いしてしたのち、70%〜80%のエタノール液にさっと浸けるかスプレーして殺菌します。それを滅菌水で洗浄してから、滅菌した容器にいれ密封します。それで発酵してきたら、酵母菌が子葉内部にいたと考えらます。しかし、子葉の組織内に酵母菌が入り込んでいるとは想像しにくいですが。
もし穀斗の外側についている酵母菌や微生物を除去したいのなら、ドングリをそのまま上記の手順で滅菌すればよいでしょう。
こう言うことを研究した論文は一つだけみつかりました。原著はロシヤの論文です。残念ながら手元では要旨しか読めませんでしたので、それを下記に引用しておきます。これによると「穀斗を取り除かないそのままのドングリ(Quercus robur L:ヨーロッパ・ナラ)の子葉にはCandida railenensisという酵母菌が1種だけ含まれている」と書かれていますが、どのような状態で存在しているのかは、論文の内容が読めないのでわかりません。もしかすると、閉じた子葉に間に(つまり表皮)付着しているのかもしれません。
Microbiology (00262617), 2009, Vol 78, Issue 3, p355
https://link.springer.com/article/10.1134/S002626170903014X
O. V. Isaeva, A. M. Glushakova, A. M. Yurkov & I. Yu. Chernov
Abstract: The cotyledons of whole intact acorns were shown to contain yeasts; their number increased sharply before acorn germination. The yeasts in the cotyledons are mainly represented by one species, Candida railenensis, with the number in the germinating cotyledons reaching 107 CFU/g. After germination or exocarp destruction, the cotyledons were colonized by the usual epiphytic and litter yeasts Cryptococcus albidus, Rhodotorula glutinis, and Cystofilobasidium capitatum.
なお英語の論文を探せばまだ関連したものがあります。例えば「bioethanol from acorns」で検索して見てください。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-03-21