質問者:
一般
jojo
登録番号6130
登録日:2025-03-23
CAM型光合成の植物が夜間に気孔を開くというのは理解しておりますが、植物にとって夜間とは何をもって反応しているのか詳しく知りたいです。みんなのひろば
何をトリガーにしてCAM型光合成の植物の気孔が開くのか?
自然界では当然、日が落ちて、温度が下がり等のサイクルがあって夜間としているのはわかりますが、
人工の栽培環境において、CAM型光合成の植物が気孔を開くタイミングに関して、極端な話、24時間光を照射した場合でもCAM植物が夜間と認識して気孔を開くのか?
もしその場合に気孔を開くとしたら、光だけがトリガーではないと思われるので、この場合は何をもって夜間だと認識しているのか?
それとも、光が当たらない時間帯があることがCAM植物にとって重要なのでしょうか?
また、光の照射時間に関わらず、植物自体の体内サイクルである程度、気孔が開くタイミングというのもあるのでしょうか?
jojo 様
日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&Aに質問をおよせくださり有難うございます。
気孔が開くのは、光が当たるとき、葉の内部のCO2濃度が低いとき、水分が十分で湿度が高いとき、です。このうち、CAM植物の気孔はC3植物の気孔に比べて、光への感受性が相対的に弱く、CO2濃度への感受性が高いという特徴があります。乾燥に強いとされるCAM植物ですが、乾燥が厳しくなると、夜も気孔を閉じてしまいます。
CAMの性質を規程する重要要因は概日性のリズムです。昼・夜のある環境で栽培するとリズムがきちんと刻まれます。とくにCO2を一旦有機酸の形に固定する酵素、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、の活性のリズムは明確です。夜、この酵素の活性が上昇しCO2を固定するので、葉の内部のCO2濃度が低くなり、光は当たっていないのにもかかわらず気孔が開くのです。朝、CAM植物は炭素代謝系の切り換えでちょっとモタモタしますが、やがてホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性が抑えられる一方で、液胞に蓄えたリンゴ酸の脱炭酸系が活性化されるので、葉の内部のCO2濃度が高まり光は存在するにも関わらず気孔が閉じます。全てのリンゴ酸を脱炭酸しきると、葉の内部のCO2濃度が下がるので、気孔は開きC3植物と同じように、カルビン・ベンソン・バッシャム経路のルビスコが直接CO2を固定します。
教科書のCAM光合成炭素代謝の模式図には、細胞1個が時間差でCAMをやるように描かれています。しかし、実際には葉全体のCO2濃度が高まるので、脱炭酸が行われた細胞とルビスコによるCO2再固定を行う細胞とは同じである必然性はありません。
jojoさんと同じ疑問をもった研究者があり、ベンケイソウ科のKalanchoe tubiflora (Wikipediaによると、現在はKalanchoe delagoensisと呼ばれるようです。2025年3月29日参照)を夜昼のリズムのある条件で栽培した後、連続明期にさらしました。すると、もちろん徐々にメリハリが効かなくなりますが、CAM光合成のリズムが7日間観察されました。ガス交換だけではなく、放射性同位体の固定パタン(14CO2の14Cが、リンゴ酸に入るか、カルビン・ベンソン・バッシャム回路の中間体に入るか)や、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性の周期も持続したそうです。
Ritz D and Kluge M (1987) Circadian rhythmicity of CAM in continuous light: Coincidences between gas exchange parameters, 14CO2 fixation patterns and PEP-carboxylase properties. Journal of Plant Physiology 131: 285-296.
なお、乾燥が厳しくなり、夜間も気孔が閉じると、夜は呼吸によって発生したCO2をホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼで固定し、昼間はこれを脱炭酸し再固定します。一見無駄のようですが、このように経路を回すことで、エネルギーがたまり過ぎないのです。特に光が当たっている場合には、このようなエネルギー消費が光によるダメージ軽減に役立ちます。CAMアイドリングとよばれる現象です。
CAM植物の気孔については、最近(とは言っても8年前ですが)の総説が自由にダウンロードできます。Tallman (2004)を引用しつつ、昼間の気孔閉鎖には、昼間に光合成がCO2飽和条件で行われるのでNADPHが消費され、植物ホルモンのアブシシン酸が分解されにくいことも効いている可能性なども指摘されています。
Males J, Griffith H (2017) Stomatal biology of CAM plants. Plant Physiology 174: 550-560.
https://academic.oup.com/plphys/article/174/2/550/6117326?login=false
日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&Aに質問をおよせくださり有難うございます。
気孔が開くのは、光が当たるとき、葉の内部のCO2濃度が低いとき、水分が十分で湿度が高いとき、です。このうち、CAM植物の気孔はC3植物の気孔に比べて、光への感受性が相対的に弱く、CO2濃度への感受性が高いという特徴があります。乾燥に強いとされるCAM植物ですが、乾燥が厳しくなると、夜も気孔を閉じてしまいます。
CAMの性質を規程する重要要因は概日性のリズムです。昼・夜のある環境で栽培するとリズムがきちんと刻まれます。とくにCO2を一旦有機酸の形に固定する酵素、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、の活性のリズムは明確です。夜、この酵素の活性が上昇しCO2を固定するので、葉の内部のCO2濃度が低くなり、光は当たっていないのにもかかわらず気孔が開くのです。朝、CAM植物は炭素代謝系の切り換えでちょっとモタモタしますが、やがてホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性が抑えられる一方で、液胞に蓄えたリンゴ酸の脱炭酸系が活性化されるので、葉の内部のCO2濃度が高まり光は存在するにも関わらず気孔が閉じます。全てのリンゴ酸を脱炭酸しきると、葉の内部のCO2濃度が下がるので、気孔は開きC3植物と同じように、カルビン・ベンソン・バッシャム経路のルビスコが直接CO2を固定します。
教科書のCAM光合成炭素代謝の模式図には、細胞1個が時間差でCAMをやるように描かれています。しかし、実際には葉全体のCO2濃度が高まるので、脱炭酸が行われた細胞とルビスコによるCO2再固定を行う細胞とは同じである必然性はありません。
jojoさんと同じ疑問をもった研究者があり、ベンケイソウ科のKalanchoe tubiflora (Wikipediaによると、現在はKalanchoe delagoensisと呼ばれるようです。2025年3月29日参照)を夜昼のリズムのある条件で栽培した後、連続明期にさらしました。すると、もちろん徐々にメリハリが効かなくなりますが、CAM光合成のリズムが7日間観察されました。ガス交換だけではなく、放射性同位体の固定パタン(14CO2の14Cが、リンゴ酸に入るか、カルビン・ベンソン・バッシャム回路の中間体に入るか)や、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性の周期も持続したそうです。
Ritz D and Kluge M (1987) Circadian rhythmicity of CAM in continuous light: Coincidences between gas exchange parameters, 14CO2 fixation patterns and PEP-carboxylase properties. Journal of Plant Physiology 131: 285-296.
なお、乾燥が厳しくなり、夜間も気孔が閉じると、夜は呼吸によって発生したCO2をホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼで固定し、昼間はこれを脱炭酸し再固定します。一見無駄のようですが、このように経路を回すことで、エネルギーがたまり過ぎないのです。特に光が当たっている場合には、このようなエネルギー消費が光によるダメージ軽減に役立ちます。CAMアイドリングとよばれる現象です。
CAM植物の気孔については、最近(とは言っても8年前ですが)の総説が自由にダウンロードできます。Tallman (2004)を引用しつつ、昼間の気孔閉鎖には、昼間に光合成がCO2飽和条件で行われるのでNADPHが消費され、植物ホルモンのアブシシン酸が分解されにくいことも効いている可能性なども指摘されています。
Males J, Griffith H (2017) Stomatal biology of CAM plants. Plant Physiology 174: 550-560.
https://academic.oup.com/plphys/article/174/2/550/6117326?login=false
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-03-31