質問者:
会社員
メタボタニカル
登録番号6139
登録日:2025-04-14
自宅で植物の培養をしてみようと考え、色々調べながらはじめ、黄緑色のカルス形成までは作ることができました。みんなのひろば
カルス形成後の萌芽の条件について
(2㎜くらいの芽を植え付け、1か月くらいで3㎝くらいのカルスができています。)
しかしながら、ホルモン剤の濃度を変えながら植え付けをしているのですが、カルスまではできても、その後の萌芽や根が出てこないので困っております。
一部のカルスの中に濃い緑色のものがあるのですが、発芽には至らない状況です。(カルスに飲み込まれているような感じです)
現在の培養条件は
1)ホルモン剤は、NAA、BA、2,4ーDを使用しています。
2)室内で植物用のLEDを12時間照射しています。
3)温度は20~25℃くらいで管理しています。
4)300mlのマヨネーズ瓶のふたに小さな穴をあけタイペストシートを貼り付けています。
5)殺菌のため希釈した次亜塩素酸カルシウム水溶液を噴霧しています。(培地上にうっすら水分が残る程度)
となります。
これらを打開するためのヒントがございましたらご教示をお願いいたします。
メタボタニカル様
Q&Aコーナーヘようこそ。歓迎いたします。
植物の組織培養は中・高校での自由実験や、一般の方が家庭で試みられるなど、興味深い植物人工繁殖技術の方法として取り上げられていますね。本コーナーでもこれまでに多数の関連質問が寄せられています。
組織培養についての文献は沢山ありますが、登録番号3885の回答の中で紹介されている「植物の組織培養方法」中島哲夫、化学と生物6(No.3) 1967はネット上で見られますので、読んでください。
植物の組織を構成している細胞は、それぞれに分化した細胞ですが、動物細胞と異なって条件さえ整えば未分化の細胞に戻ることができます(脱分化)。カルス細胞がそれです。カルスはいわば未分化で不定形の細胞の塊で、原則そのまま培養・増殖を続けることができます。しかし、培養条件を変えると、根、葉条(茎・葉)を分化させることができ(再分化)、親植物の形態に復元します。このような植物細胞の再生能を「全能性」と読んでいます。
ご存知のように、植物組織(細胞)の脱分化/再分化を司るのは植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンです。天然のオーキシンはインドール酢酸で代表されます。天然のサイトカイニンはイソペンテニルアデニンとその誘導体の trans-ゼアチンです。
実験では合成オーキシンの1-ナフタレン酢酸(NAA)や2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)が、合成サイトカイニンのカイネチン(KIN)やベンジルアデニン(BA)がよく使われます。
これらのホルモンはそれぞれ働きが異なっており、また作用を発現する濃度も異なっています。どんな植物組織にも同じ条件が適用されるわけではありませんが、基本的な条件を説明しますと、以下のようになります。
植物組織(切片)をオーキシンとサイトカイニンが同濃度の培地で培養するとカルスが形成される。
カルスをオーキシンの濃度がサトカイニンよりも高い培地に移すと、根(不定根)が分化する。
カルスをサイトカイニンの濃度が高い培地に移すと、シュート(葉条)が分化する。
全個体を再生するには、例えば、不定根を分化させたカルスからシュートを分化させてやる。
カルス組織でなくても、個体レベルでも、オーキシンはもともと不定根の分化誘導にも関わっているホルモンです。挿木の植物から不定根を分化させるのにオーキシンが使われます。サイトカイニンは芽の分化・成長に必要なホルモンです。
以上のことを踏まえて、ご質問の内容に直接関連した事柄に触れます。
1 植物というと、十把一絡げに、どれも同じように考える方が多いようですが、厳密にいうと、一つの種に適正である条件(生育環境、栄養などなど)が他の植物にもそのまま当てはまるとは限りません。お使いになっている植物がなにであるかがわかりませんが、特殊な植物であれば、培養条件は1つ1つチェックする必要があるでしょう。一般的な植物であれば、既知のこととして、文献やネットで資料を調べることができるでしょう。
2 カルスが緑色になるのは再分化とは関係ありません。カルス細胞がクロロフィル/葉緑体を作る能力を保持していれば起きうることです。再分化は形態的な現象です。カルス細胞を大量培養(懸濁培養が一般的)して特定の二次代謝産物を作らせる方法は一般化されています。
3 カルスの誘導と成長には通常、光照射は必要ありません。
4 実際に実験されている手順や条件(培地、ホルモン濃度、などなど)がはっきりしません。
5 滅菌操作の条件がはっきり分かりません。全操作過程をどのように無菌かされているのでしょうか。
培地に希釈した次亜塩素酸溶液を噴霧する意味と必要性がわかりません。
培地表面に薄ら残るということは微量の塩素イオンが残存するということでしょうか。
再分化それじたいに影響するとは思いませんが、培養組織の成長への影響はないのだろうかと思います。
6 本コーナーで次の登録番号を検索して読み、参考にしてください。
登録番号5469, 3208, 2088, 4795, 2435
なお、さらにいろいろ調べたい時は、Q&Aコーナーで「カルス」と入力すれば多くの情報が得られます。
植物の組織・細胞培養についての成書もいくつかあります。少し旧いですが、以下の本を挙げておきます。
駒嶺 穆 『植物組織培養の生物学』ー植物バイオテクノロジーの基礎ー 朝倉書店 1993
鎌田博、原田宏 『植物のバイオテクノロジー』 中公新書 1985
参考:小柴共一・神谷勇治 『新しい植物ホルモンの科学』第2版 講談社 2010
さらにお知りになりたいことがあれば、改めてご質問ください。
Q&Aコーナーヘようこそ。歓迎いたします。
植物の組織培養は中・高校での自由実験や、一般の方が家庭で試みられるなど、興味深い植物人工繁殖技術の方法として取り上げられていますね。本コーナーでもこれまでに多数の関連質問が寄せられています。
組織培養についての文献は沢山ありますが、登録番号3885の回答の中で紹介されている「植物の組織培養方法」中島哲夫、化学と生物6(No.3) 1967はネット上で見られますので、読んでください。
植物の組織を構成している細胞は、それぞれに分化した細胞ですが、動物細胞と異なって条件さえ整えば未分化の細胞に戻ることができます(脱分化)。カルス細胞がそれです。カルスはいわば未分化で不定形の細胞の塊で、原則そのまま培養・増殖を続けることができます。しかし、培養条件を変えると、根、葉条(茎・葉)を分化させることができ(再分化)、親植物の形態に復元します。このような植物細胞の再生能を「全能性」と読んでいます。
ご存知のように、植物組織(細胞)の脱分化/再分化を司るのは植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンです。天然のオーキシンはインドール酢酸で代表されます。天然のサイトカイニンはイソペンテニルアデニンとその誘導体の trans-ゼアチンです。
実験では合成オーキシンの1-ナフタレン酢酸(NAA)や2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)が、合成サイトカイニンのカイネチン(KIN)やベンジルアデニン(BA)がよく使われます。
これらのホルモンはそれぞれ働きが異なっており、また作用を発現する濃度も異なっています。どんな植物組織にも同じ条件が適用されるわけではありませんが、基本的な条件を説明しますと、以下のようになります。
植物組織(切片)をオーキシンとサイトカイニンが同濃度の培地で培養するとカルスが形成される。
カルスをオーキシンの濃度がサトカイニンよりも高い培地に移すと、根(不定根)が分化する。
カルスをサイトカイニンの濃度が高い培地に移すと、シュート(葉条)が分化する。
全個体を再生するには、例えば、不定根を分化させたカルスからシュートを分化させてやる。
カルス組織でなくても、個体レベルでも、オーキシンはもともと不定根の分化誘導にも関わっているホルモンです。挿木の植物から不定根を分化させるのにオーキシンが使われます。サイトカイニンは芽の分化・成長に必要なホルモンです。
以上のことを踏まえて、ご質問の内容に直接関連した事柄に触れます。
1 植物というと、十把一絡げに、どれも同じように考える方が多いようですが、厳密にいうと、一つの種に適正である条件(生育環境、栄養などなど)が他の植物にもそのまま当てはまるとは限りません。お使いになっている植物がなにであるかがわかりませんが、特殊な植物であれば、培養条件は1つ1つチェックする必要があるでしょう。一般的な植物であれば、既知のこととして、文献やネットで資料を調べることができるでしょう。
2 カルスが緑色になるのは再分化とは関係ありません。カルス細胞がクロロフィル/葉緑体を作る能力を保持していれば起きうることです。再分化は形態的な現象です。カルス細胞を大量培養(懸濁培養が一般的)して特定の二次代謝産物を作らせる方法は一般化されています。
3 カルスの誘導と成長には通常、光照射は必要ありません。
4 実際に実験されている手順や条件(培地、ホルモン濃度、などなど)がはっきりしません。
5 滅菌操作の条件がはっきり分かりません。全操作過程をどのように無菌かされているのでしょうか。
培地に希釈した次亜塩素酸溶液を噴霧する意味と必要性がわかりません。
培地表面に薄ら残るということは微量の塩素イオンが残存するということでしょうか。
再分化それじたいに影響するとは思いませんが、培養組織の成長への影響はないのだろうかと思います。
6 本コーナーで次の登録番号を検索して読み、参考にしてください。
登録番号5469, 3208, 2088, 4795, 2435
なお、さらにいろいろ調べたい時は、Q&Aコーナーで「カルス」と入力すれば多くの情報が得られます。
植物の組織・細胞培養についての成書もいくつかあります。少し旧いですが、以下の本を挙げておきます。
駒嶺 穆 『植物組織培養の生物学』ー植物バイオテクノロジーの基礎ー 朝倉書店 1993
鎌田博、原田宏 『植物のバイオテクノロジー』 中公新書 1985
参考:小柴共一・神谷勇治 『新しい植物ホルモンの科学』第2版 講談社 2010
さらにお知りになりたいことがあれば、改めてご質問ください。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-04-15