一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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針葉の数が違う訳は?

質問者:   一般   不思議いっぱい子
登録番号6140   登録日:2025-04-15
松には2葉、3葉、5葉があり、それぞれ断面を合わせると円になることを知り驚き、感心しています。

また、アカマツには葉が1本4や3本になる園芸品種もあるとのこと。ということは、変異しやすい性質があるのでしょうか?

松が地球上に出現した時は、1葉だったものが、進化の過程で増えていったのでしょうか?

それとも環境の違いなどで色々に変化していったのでしょうか?

カイヅカイブキを強剪定すると、先祖返り(針葉が出る)しますが、そういうことと関係ありますか?

不思議がいっぱで楽しくもありますが、もやもやが晴れません!
不思議いっぱい子 様

日本植物学会、みんなのひろば「植物Q&A」に質問をお寄せくださりありがとうございます。私にも大変興味のある問題ですがほとんど知識がないので、シダの分類・系統・進化学の専門家で、加えて「ゴヨウマツ」などの研究もなさってきた千葉大学理学研究院・綿野 泰行 教授に回答を依頼いたしました。綿野教授は最新の論文まで調べてくださり、以下の回答を寄せられました。

【綿野先生の回答】
マツの葉の数に関心を持っていただき、ありがとうございます。この問題を説明するには、まずマツの葉が複数枚でセットになっている理由をお話しする必要があります。マツの葉束は、短い枝に葉がついたもので、形態学的には“短枝”に相当します。非常に稀なことですが、この葉束の間から新たな枝が伸びることがあると、学生時代に先生から教わった記憶があります*。2葉・3葉・5葉のマツの葉の断面を合わせると円形になるのは、葉束全体が円柱状のまま発生・成長するためと考えられます。私もこれを初めて知ったときはとても感動し、自分の講義でも毎年紹介していますが、学生の反応は残念ながら今ひとつです。

次に、マツの葉数が進化的にどのように変化してきたかについてです。祖先の形態を推定する際には、近縁な他のグループの形態との比較が役に立ちます。マツ属(/Pinus/)に近縁な植物としては、一属一種の/Cathaya/やトウヒ属(/Picea/)がありますが、これらはマツのような葉束を持たず、比較的扁平な針葉が1枚ずつ枝に付きます。実は、マツ属でも実生(種子から発芽したばかりの若い個体)では葉束を作らず、針葉が1枚ずつ茎に付いています。したがって、マツ属はこのような祖先的形態から進化したと考えられます。

次に、葉束の葉数が変異しやすいかどうかについても考えてみましょう。一般に、葉束の葉数はマツ属の種内や亜節(属より下位の分類階級:属>亜属>節>亜節)レベルでは一定であることが多く、比較的安定した形質といえます。たとえば、日本の高山帯に多く見られるハイマツや、盆栽で親しまれるゴヨウマツなどが含まれるストローブス亜節には約20種が分類されており、いずれも5葉です。

一方、アメリカ南西部からメキシコにかけて分布するセンブロイデス亜節では、葉束の葉数がきわめて多様で、5葉から単葉(1葉)の種まで存在します。単葉のマツは極めて珍しく、この亜節にしか見られません。興味深いことに、単葉の種(/Pinus monophylla/や /P. californiarum/)の葉の断面形状も「合わせると円」というルールに従っており、円形になっています。

これらの単葉種は、2葉性の/P. edulis/と分布を接しており、境界域では種間交雑が確認されています(論文1)。雑種の中には、1個体内に単葉と2葉の2種類の葉束を持つものも見られ、環境条件に応じて葉束の葉数の比率が可塑的に変化することが知られています。たとえば、降水量が少ない年に伸びた葉束では、単葉の比率が相対的に高くなることから、乾燥に応じて2葉のうち片方の発生が停止する可能性が考えられています(論文2)。

さらに最近の研究では、これら単葉種の進化史も明らかになってきました。以前は、2葉性の/P. edulis/から、夏季に乾燥する地中海性気候に適応する過程で単葉種(/P. monophylla/や/P. californiarum/)が派生したと考えられていました。しかしながら、/P. monophylla/は/P. edulis/よりも、むしろ4〜5葉性の/P. quadrifolia/に近縁であることが判明しました(論文1)。この結果が正しければ、/P. monophylla/と/P. edulis/では、センブロイデス亜節に一般的な3〜5葉という形質状態から、独立に葉数の減少が生じたことになります。葉束の葉数がどのような選択圧のもとで減少するのかという問いについては、現時点ではまだよく分かっていません。

1)Buck, R., Ortega-Del Vecchyo, D., Gehring, C., Michelson, R., Flores-Renteria, D., Klein, B., Whipple, A.V., Flores-Renteria, L. (2023) Sequential hybridization may have facilitated ecological transitions in the Southwestern pinyon pine syngameon. New Phytologist 237: 2435–2449. doi: 10.1111/nph.18543.

2)Cole, K.L. (2008) Geographical and climatic limits of nedle types of one- and two-needled pinyon pines. J. Biogeogr. 35(2): 257–269. doi: 10.1111/j.1365-2699.2007.01786.x

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* 寺島付記:短枝がついている長枝の先端を切ると、頂芽優勢が失われ短枝の基部で休眠状態にあるシュート頂分裂組織が活性化され長枝化することがあり、剪定されたマツの木を観察すると見つかる場合があります。原 襄 (1981)には、アカマツの長枝を短枝のすぐ上の位置で切った実験結果の写真が載っています。写真を参考にして図を描いてみました。まんなかのまるい部分が長枝の切除あと、右側には2枚の針葉の間に、短枝を沢山つけた長枝が成長しています。左側の2つの短枝のシュート頂分裂組織も活性化されたようで、2つの針葉の間にシュートが見えます。

原襄(1981)植物のかたち:茎・葉・根・花 培風館

綿野 泰行(千葉大学理学研究院)
JSPPサイエンスアドバイザー
寺島 一郎
回答日:2025-04-28