質問者:
一般
クレハ
登録番号6147
登録日:2025-04-23
さくらんぼ農家のものです。みんなのひろば
胴吹き、ひこばえの貢献度
今まで胴吹きやひこばえは、葉が展葉して直ぐに芽かきの要領でもぎ取っていました。
しかし、最近、樹木医の方々は、胴吹きは、秋の落葉後まで切らずに光合成をさせて、母体の回復を促す手段をとっていると知りました。
胴部きは、母体の栄養を横取りするイメージがあるのですが、
「胴吹きの光合生産物による母体への貢献度」は、いかほどなのでしょうか?
胴吹きの貢献度>栄養の横取り度合
なのでしょうか?
詳しい比率や、これらに関する検証結果があれば、ご教示いただきちいです。
クレハ様
日本植物学会、みんなのひろば、植物Q&Aに質問をお寄せくださり有難うございます。回答が大変遅れてしまい申し訳ありません。まず、ひこばえや胴吹きに関して、みんなのひろば「植物Q&A」にいくつかのすぐれた回答があります。登録番号1928, 3844, 4399, 4508をご覧ください。
ご質問の内容は、胴吹きやひこばえが、母体(と仮によぶことにします)の栄養を搾取するのか、母体の成長に貢献するのか? ということですね。実際にサクランボを栽培なさっているクレハさんにとってどの程度役立つ回答になっているかはこころもとないですが、以下が一般的な回答となります。
まず、胴吹きやひこばえとは異なりますが、最近登録番号6127にテイカカズラのつるが取り上げられていましたので、これを例にとって考えてみましょう。幹をよじ登っているテイカカズラの茎(つる)についている葉と、地面を這って宿主を探索する茎についている葉とでは大きさがまるで違います。「探索つる」の葉は小さく、また、葉と葉との間隔(節間)の長さが非常に長くなっています。しかも暗い地面を這っていますから光合成生産はあまり期待できません。探索つる自体は太いです。ですから、地面を這う「探索つる」は、「短期的には」母体からの完全な持ち出しといえます。しかし、これが大きな木に辿りつくことができれば、つるはその木を上り多くの光合成生産をあげますので、母体にとって儲けとなるはずです。また、いずれ個体として独立することも可能でしょう。昔、野外実習を担当していた際に、テイカカズラのつるは大きな木を探し当てることができる、という仮説を提唱した学生さんがいました。この問題に決着はついていませんが、母体からランダムにのびて探索するとすれば、茎が樹木の幹に当たる確率は幹の根本直径に比例することになります。私はこの仮説は正解だと思っています。暇があったら調べてみたいです。
ひこばえ:暗い地面近くからかなりのバイオマス(乾燥重量)の枝が出ます。葉は低く暗い場所に展開するわけですから、ひこばえが出た年だけを考えると、母体の持ち出の可能性が大きいと思います。しかし、比較的短命の樹種にとっては、ひこばえにによるクローン繁殖の方が種子からの繁殖より重要な場合があります。これは萌芽更新とよばれます。下草刈などが行われて地面近くも明るい雑木林、山火事などの攪乱のある地域では、非常に重要な更新様式です。登録番号3844は、ひこばえについて東大日光植物園の園長だった舘野正樹さんが自身の観察に則って詳しく解説したものです。萌芽更新については古くから重要性が認識され、調査がすすんでいます。たとえば、シウリザクラの根萌芽については、小川みふゆさんの一連の研究があります。
小川みふゆ・福嶋司(1996)奥日光のオオシラビソ林におけるシウリザクラの根萌芽および実生の動態.日本林学会誌 78:195-200.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfs1953/78/2/78_2_195/_article (どなたでもダウンロードできます)
小川みふゆ(1997)シウリザクラの生活史とその特性 生態環境研究 4:87-92.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ecohabitat/4/1/4_KJ00007936259/_article/-char/ja/ (どなたでもダウンロードできます)
胴吹きやひこばえの貢献度:日本の落葉樹林の純生産量(光合成によって得られた光合成産物量から植物の呼吸によって失われた量)は、1年あたり1m2あたりで、植物体の乾燥重量(バイオマス)として1000g程度です。立派な森林では、呼吸を差っ引く前の総生産量はこの倍以上になります。森林には土地面積の5~8倍程度の面積の葉が存在します。葉面積比(積算葉面積/土地面積)が5~8ということになります。サクランボ農園はどのくらい葉面積比でしょうか? 明るい場所の葉の光合成は多く、暗い場所の葉の光合成速度は少ないのですが、エイヤッと平均します。総生産量を2000g/m2/年として葉面積比を5とすれば、10cm x 10cmの葉が行う総光合成生産は年間2gと計算できます。総生産の約25%が植物体となりますので0.5gです。胴吹きやひこばえの葉の面積を合計して、100cm2あたり0.5gを掛けます。これ以上の乾燥重量(バイオマス)をもつシュート(葉と茎)だとすると、母体からの持ち出している、これ以下だと(もちろん葉自体の成長も初期は母体に依存するわけですが)母体に貢献できる可能性があるという勘定になります。胴吹きは太くて長い茎をもたない場合が多いので、母体に貢献できるのではないでしょうか?少し調べてみましたが、このような観点から胴吹きの生産を検討した例はないようです(さらに調べてみますが・・・)。
損得の目安:個体の生存や繁殖を考える場合には長期的な視点が必要。1年程度ならば上記の「乱暴な」計算が目安になると思います。
日本植物学会、みんなのひろば、植物Q&Aに質問をお寄せくださり有難うございます。回答が大変遅れてしまい申し訳ありません。まず、ひこばえや胴吹きに関して、みんなのひろば「植物Q&A」にいくつかのすぐれた回答があります。登録番号1928, 3844, 4399, 4508をご覧ください。
ご質問の内容は、胴吹きやひこばえが、母体(と仮によぶことにします)の栄養を搾取するのか、母体の成長に貢献するのか? ということですね。実際にサクランボを栽培なさっているクレハさんにとってどの程度役立つ回答になっているかはこころもとないですが、以下が一般的な回答となります。
まず、胴吹きやひこばえとは異なりますが、最近登録番号6127にテイカカズラのつるが取り上げられていましたので、これを例にとって考えてみましょう。幹をよじ登っているテイカカズラの茎(つる)についている葉と、地面を這って宿主を探索する茎についている葉とでは大きさがまるで違います。「探索つる」の葉は小さく、また、葉と葉との間隔(節間)の長さが非常に長くなっています。しかも暗い地面を這っていますから光合成生産はあまり期待できません。探索つる自体は太いです。ですから、地面を這う「探索つる」は、「短期的には」母体からの完全な持ち出しといえます。しかし、これが大きな木に辿りつくことができれば、つるはその木を上り多くの光合成生産をあげますので、母体にとって儲けとなるはずです。また、いずれ個体として独立することも可能でしょう。昔、野外実習を担当していた際に、テイカカズラのつるは大きな木を探し当てることができる、という仮説を提唱した学生さんがいました。この問題に決着はついていませんが、母体からランダムにのびて探索するとすれば、茎が樹木の幹に当たる確率は幹の根本直径に比例することになります。私はこの仮説は正解だと思っています。暇があったら調べてみたいです。
ひこばえ:暗い地面近くからかなりのバイオマス(乾燥重量)の枝が出ます。葉は低く暗い場所に展開するわけですから、ひこばえが出た年だけを考えると、母体の持ち出の可能性が大きいと思います。しかし、比較的短命の樹種にとっては、ひこばえにによるクローン繁殖の方が種子からの繁殖より重要な場合があります。これは萌芽更新とよばれます。下草刈などが行われて地面近くも明るい雑木林、山火事などの攪乱のある地域では、非常に重要な更新様式です。登録番号3844は、ひこばえについて東大日光植物園の園長だった舘野正樹さんが自身の観察に則って詳しく解説したものです。萌芽更新については古くから重要性が認識され、調査がすすんでいます。たとえば、シウリザクラの根萌芽については、小川みふゆさんの一連の研究があります。
小川みふゆ・福嶋司(1996)奥日光のオオシラビソ林におけるシウリザクラの根萌芽および実生の動態.日本林学会誌 78:195-200.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfs1953/78/2/78_2_195/_article (どなたでもダウンロードできます)
小川みふゆ(1997)シウリザクラの生活史とその特性 生態環境研究 4:87-92.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ecohabitat/4/1/4_KJ00007936259/_article/-char/ja/ (どなたでもダウンロードできます)
胴吹きやひこばえの貢献度:日本の落葉樹林の純生産量(光合成によって得られた光合成産物量から植物の呼吸によって失われた量)は、1年あたり1m2あたりで、植物体の乾燥重量(バイオマス)として1000g程度です。立派な森林では、呼吸を差っ引く前の総生産量はこの倍以上になります。森林には土地面積の5~8倍程度の面積の葉が存在します。葉面積比(積算葉面積/土地面積)が5~8ということになります。サクランボ農園はどのくらい葉面積比でしょうか? 明るい場所の葉の光合成は多く、暗い場所の葉の光合成速度は少ないのですが、エイヤッと平均します。総生産量を2000g/m2/年として葉面積比を5とすれば、10cm x 10cmの葉が行う総光合成生産は年間2gと計算できます。総生産の約25%が植物体となりますので0.5gです。胴吹きやひこばえの葉の面積を合計して、100cm2あたり0.5gを掛けます。これ以上の乾燥重量(バイオマス)をもつシュート(葉と茎)だとすると、母体からの持ち出している、これ以下だと(もちろん葉自体の成長も初期は母体に依存するわけですが)母体に貢献できる可能性があるという勘定になります。胴吹きは太くて長い茎をもたない場合が多いので、母体に貢献できるのではないでしょうか?少し調べてみましたが、このような観点から胴吹きの生産を検討した例はないようです(さらに調べてみますが・・・)。
損得の目安:個体の生存や繁殖を考える場合には長期的な視点が必要。1年程度ならば上記の「乱暴な」計算が目安になると思います。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-05-19