質問者:
会社員
NJMFG
登録番号6149
登録日:2025-04-26
いつも楽しく質問を拝見させて頂いております。みんなのひろば
オーキシン合成阻害系統の除草剤の選択性について
私は普段の業務で公園等の芝生の管理をしています。
その際に芝用除草剤で芝地に生えている雑草を防除しているのですが、その中の一つにオーキシンの合成を阻害する作用機構をもった除草剤(商品名:MCPP)を使用することがあります。
その作用機構は、除草剤の合成オーキシンによって雑草内のオーキシン濃度を過度に高めることで雑草の生育を阻害するものと理解しています。
しかし、これらの除草剤はスギナやシロツメクサなど広葉性の雑草を選択的に枯殺し、イネ科の雑草には活性を示しません。
オーキシンを合成する機構はあらゆる植物に含まれているのであろうとなんとなく考えていましたが、それでは二種の雑草間で選択性が生まれることに説明がつきません。
そこで以下の5点の疑問が生まれました。
・オーキシンを合成する機構がイネ科の雑草では広葉性のそれとは異なるのか
・イネ科雑草ではオーキシンに依らない成長機構を有しているのか。
・二種の雑草の成長点の違い(茎頂か地際か)から選択性が生まれているのか。
・そもそもなぜ芝生はオーキシン合成の阻害を受けないのか。
・それは芝生が匍匐するように生育していくことと関係があるのか。
とりとめのない質問となってしまいましたが以上の内容がずっと気になっています。
一つでも明らかなものがあれば是非回答を頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。
NJMFG様
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。ご質問の趣旨はオーキシン系の除草剤はなぜ単子葉植物には効果がないのかという事だとおもいます。まず、ご質問の中の「その中の一つにオーキシンの合成を阻害する作用機構をもった除草剤(商品名:MCPP)」という理解は正しくありません。もし、言うとすれば「内生オーキシン(インドール酢酸、IAA)の作用を撹乱する」でしょう。また、お考えの5つの理由は残念ながどれも当てはまりません。すでにご存じのこともあるかも知れませんが、一応、基本的なことから説明いたします。
植物の成長を調節する植物ホルモンとしてインドール酢酸が見つかり、その作用機序研究のため、分子構造と作用との関係を調べる目的で多種類の類似化合物が合成されました。その一つに2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)があります。これらの化合物は「合成オーキシン」とよばれます。2,4-D は高濃度で与えるとかえって成長が抑えられ、生育が異常になって枯死することがわかったので、1946年に除草剤として商品化されました。
このようなオーキシンの毒性作用は高濃度のIAAでも起こり得ますが、IAAは分解され易く、非毒性の化合物に転換されます。他方、合成オーキシンは通常そのまま体内に止まるので、内生オーキシンのIAAと相まってオーキシン濃度は高く保たれることになります。
合成オーキシンはフェノキシカルボン酸系統以外にも何種類かありますが、それらについてはここでは触れません。フェノキシカルボン酸系の合成オーキシンは2,4-D 以外に2,4-DB (4-(2,4-ジクロロフェノキシ) 酪酸、MCPA (2-メチル-4-クロロフェノキシ酢酸)、MCPB(4-(4-クロロ-o-トリルオキシ)酪酸エチル、そして使用されたMCPP ((RS)-2-(4-クロロ-o-トリルオキシ)プロピオン酸、メコプロップ)などが使われています。
これらの合成オーキシンは双子葉植物には除草剤として働くとされていますが、1957年にSwitzer とHilton が それぞれ Daucus carota (wild carrot, ノラニンジン)とCommelina diffusa (シマツユクサ)の 2,4-D 耐性を論文で発表しました。2020年の時点で、オーキシン系除草剤に耐性ある双子葉植物は41種あることが22カ国で報告されているそうです。2,4-D を使い、6種類の双子葉植物の耐性を調べた研究によると、これらの耐性植物では2.4-D の代謝が活性が高い。つまり、植物体内に入ると例えば糖などの分子と結合して配糖体となり、いわば解毒化される。分子骨格に、例えば水酸基(OH)が導入されて、活性が低下またはなくなる。そのほかの分解的な反応が起きる。さらに、植物体内のオーキシン輸送が抑えられている。などの特性があるようです。
さて、単子葉植物にオーキシン系除草剤への耐性がみられるということは、上記の耐性を持った双子葉植物と同じ様なメカニズムを持っていると考えて良いのではないかと思います。以下にまとめておきます。
双子葉植物に欠けており、単子葉植物にみられるオーキシン系除草剤への耐性は主に次のような理由によると考えられる。
1.体内に入った除草剤を迅速に解毒化する作用力が高い。
2.維管束系での除草剤の輸送が制限されており、分裂組織などオーキシンの作用点に障害を与えるほど多量の除草剤が届かな
い。単子葉植物と双子葉植物は維管束系の配置構造が異なり、前者ではオーキシンの移動は後者に比べて効率的ではない。
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。ご質問の趣旨はオーキシン系の除草剤はなぜ単子葉植物には効果がないのかという事だとおもいます。まず、ご質問の中の「その中の一つにオーキシンの合成を阻害する作用機構をもった除草剤(商品名:MCPP)」という理解は正しくありません。もし、言うとすれば「内生オーキシン(インドール酢酸、IAA)の作用を撹乱する」でしょう。また、お考えの5つの理由は残念ながどれも当てはまりません。すでにご存じのこともあるかも知れませんが、一応、基本的なことから説明いたします。
植物の成長を調節する植物ホルモンとしてインドール酢酸が見つかり、その作用機序研究のため、分子構造と作用との関係を調べる目的で多種類の類似化合物が合成されました。その一つに2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)があります。これらの化合物は「合成オーキシン」とよばれます。2,4-D は高濃度で与えるとかえって成長が抑えられ、生育が異常になって枯死することがわかったので、1946年に除草剤として商品化されました。
このようなオーキシンの毒性作用は高濃度のIAAでも起こり得ますが、IAAは分解され易く、非毒性の化合物に転換されます。他方、合成オーキシンは通常そのまま体内に止まるので、内生オーキシンのIAAと相まってオーキシン濃度は高く保たれることになります。
合成オーキシンはフェノキシカルボン酸系統以外にも何種類かありますが、それらについてはここでは触れません。フェノキシカルボン酸系の合成オーキシンは2,4-D 以外に2,4-DB (4-(2,4-ジクロロフェノキシ) 酪酸、MCPA (2-メチル-4-クロロフェノキシ酢酸)、MCPB(4-(4-クロロ-o-トリルオキシ)酪酸エチル、そして使用されたMCPP ((RS)-2-(4-クロロ-o-トリルオキシ)プロピオン酸、メコプロップ)などが使われています。
これらの合成オーキシンは双子葉植物には除草剤として働くとされていますが、1957年にSwitzer とHilton が それぞれ Daucus carota (wild carrot, ノラニンジン)とCommelina diffusa (シマツユクサ)の 2,4-D 耐性を論文で発表しました。2020年の時点で、オーキシン系除草剤に耐性ある双子葉植物は41種あることが22カ国で報告されているそうです。2,4-D を使い、6種類の双子葉植物の耐性を調べた研究によると、これらの耐性植物では2.4-D の代謝が活性が高い。つまり、植物体内に入ると例えば糖などの分子と結合して配糖体となり、いわば解毒化される。分子骨格に、例えば水酸基(OH)が導入されて、活性が低下またはなくなる。そのほかの分解的な反応が起きる。さらに、植物体内のオーキシン輸送が抑えられている。などの特性があるようです。
さて、単子葉植物にオーキシン系除草剤への耐性がみられるということは、上記の耐性を持った双子葉植物と同じ様なメカニズムを持っていると考えて良いのではないかと思います。以下にまとめておきます。
双子葉植物に欠けており、単子葉植物にみられるオーキシン系除草剤への耐性は主に次のような理由によると考えられる。
1.体内に入った除草剤を迅速に解毒化する作用力が高い。
2.維管束系での除草剤の輸送が制限されており、分裂組織などオーキシンの作用点に障害を与えるほど多量の除草剤が届かな
い。単子葉植物と双子葉植物は維管束系の配置構造が異なり、前者ではオーキシンの移動は後者に比べて効率的ではない。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-05-10