一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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バラの棘

質問者:   一般   マル
登録番号6167   登録日:2025-05-13
2018年6月山形県に旅行し、友人宅から薔薇の枝を貰い受け、自宅でさし木にして育成様した。
芽が出た枝4本の内1本を地植え、残りを鉢植えにして育成しています。
親木(山形県:友人宅)には棘があります。
地植えした薔薇には棘が有りません。
鉢植えした薔薇には棘が有ります。
地植えした薔薇は突然変異で棘の無い薔薇へと変化したのでしょうか?
ネットで調べてみましたがよく分かりません。
可能性をご教授頂けますでしょうか?
又、今後地植えの薔薇をさし木により孫がどの様になるか、観察する手はあるかと考えます。
宜しくお願いします致します。
マル 様

興味深い質問、ありがとうございます。大きなバラ園を有する京都府立植物園で園長をされている京都大学名誉教授の戸部博先生にお話を伺いました。

戸部先生によれば、バラの棘は、葉や枝が変態した棘ではなく茎の表皮細胞が発達してできたものなので、環境条件等によりできたりできなかったりすることがあるそうです。例えばほとんど棘のないバラの品種も知られていますが、それでも棘をつくることがあるそうです。バラの棘は遺伝的には弱い制御しか受けていないのかもしれません。

一方、棘のないバラの品種があるということは、棘の多寡がある程度遺伝的な影響を受けることを示しています。本件が枝変わり等の変異によるものかどうかは不明ですが、継続的に栽培すれば何か分かるかもしれません。ぜひ、挑戦されると良いと思います。

さて、バラに棘を作らせる遺伝子ついて、戸部先生から最新の情報を教えていただきました。分子生物学や遺伝学に馴染みの無い方には少し難しいかもしれませんが紹介します。

2024年に発表された論文によると、植物は、植物ホルモンであるサイトカイニンを合成するLOG遺伝子を「流用」することで棘を作るとのことです(原著論文は英語ですが、”LOG遺伝子”、”トゲ”などをキーワードに検索すると、日本語の解説記事を見ることができます)。

サイトカイニンは、細胞分裂や分化において重要な役割を果たす植物ホルモンで、植物は同じ働きをするLOG遺伝子を複数持っています。そしてそのうちの一つが、進化の過程で何度も独立に、棘を作るための遺伝子に変化したようです。この研究は主にナス科の植物を対象としてますが、バラ属のテリハノイバラで当該遺伝子を操作することにより棘を無くすことにも成功しています。

さすがにマル様のバラで今すぐ遺伝子診断を行うことは現実的ではありませんが、棘のないバラを自由に作れる時代がやがて来るかもしれません。
長谷 あきら(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-05-28