一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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根の光屈性について

質問者:   高校生   ATP合成酵素最推し
登録番号6176   登録日:2025-05-18
根は光に対して負の屈性があると言われていると思うのですが(言い方が違ったらすいません)どのようなメカニズムで根は負の光屈性を行っているのでしょうか?JAXAの質問ページには最適濃度の違いを利用してオーキシンの不均等分布が起こりまがっていると書いてありますがhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jscrpanb/48/0/48_KJ00009087973/_pdf/-char/ja
この論文にはオーキシン不均等分布パターンが形成されなかった。
と書いてあります。僕の調べ不足ではあるのですが、結局根の光屈性はどのようなメカニズムで起こっているのでしょうか?よろしくお願いします。
ATP合成酵素最推し 様

Q&Aコーナーにまた質問していただきありがとうございます。植物の根の屈性について長年研究され、宇宙生物学にも詳しい千葉大学園芸学研究院・特任教授の高橋秀幸先生に回答をお願いしました。

【高橋先生の回答】

 ご質問ではもっともな疑問を提示されていると思います。先に結論を述べますと、「これまで根の光屈性に関する研究が少なかったために、そのメカニズムはよくわかっていなかったのですが、最近の研究で重力屈性とは違う制御のしくみがみえてきた」状況です。
 茎頂の正の光屈性では、一方向から光照射されると、青色光を感受してオーキシンの濃度勾配を形成し、オーキシン濃度が高くなった陰側の伸長が促進されて光照射側に屈曲することがよく知られています。根は一般的に光照射側と逆方向への屈曲(負の光屈性)を示しますが、植物種によって異なり、また、まれなケースとして青色光だけでなく赤色光による屈性も知られています。
 重力屈性で説明されることの多い、「オーキシンに対する組織感受性(オーキシンの至適濃度)は茎頂と根で異なり、オーキシン濃度勾配が形成されて、茎頂では高濃度側で伸長促進、根では高濃度側で伸長抑制が生じる」ことを考慮しますと、根の光屈性の場合も陰側に多く分布するオーキシンが伸長を抑制して負の光屈性を誘導すると考えるのは容易です。それを支持するような実験結果も少ないながらありましたが、仮説は十分に証明されていませんでした。
 そうした状況下で、最新の手法を用いた酒井先生の研究グループの解析は、根の光屈性にオーキシンの濃度勾配形成を必要としないことを示しています。オーキシンでないとすれば、光受容後に何が最終的に根の光屈性(偏差成長)を誘導しているのかについては、わかっていません。
 根は重力屈性や光屈性だけでなく、水分勾配や電場や磁場などにも応答して屈性を発現します。シロイヌナズナの根の水分屈性でも、オーキシンは直接的な制御因子ではないことがわかっていて(オーキシンの濃度勾配は形成されません)、一方、水分屈性に必須の遺伝子(MIZ1)が同定され、それがアブシジン酸やサイトカイニンとともに機能することが報告されています。また、シロイヌナズナの根の電気屈性でもオーキシンの濃度勾配を形成することなく、根は陰極側に屈曲します。最近、これにサイトカイニンが重要であることを示す論文がでています。ただ、これらの屈性に伴うアブシジン酸やサイトカイニンの濃度勾配の形成については、必ずしも明確でありません(水分屈性では、サイトカイニンの濃度勾配形成が報告されています)。
 興味深いのは、根の重力屈性で重力感受やオーキシン輸送パターンを支配する根冠を切除しても、水分屈性と電気屈性は正常に発現することです。つまり、これらの屈性では伸長領域で刺激を感受し、屈曲を誘導すると考えられます。また、根の重力屈性ではオーキシンが主役ですが、オーキシン輸送・作用の阻害剤処理や突然変異や根冠切除によって重力屈性を抑制すると、根の光屈性・水分屈性・電気屈性が促進される場合があることからも(お互いに干渉し合っていると考えられます)、これらの屈性には、オーキシンを介した重力屈性の場合とは異なる制御機構が働くと考えられます。今後の研究展開が楽しみですね。
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高橋 秀幸(千葉大学園芸学研究院)
JSPPサイエンスアドバイザー
長谷 あきら
回答日:2025-06-09