一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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茎頂栽培の摘出部位について

質問者:   会社員   osapee
登録番号6181   登録日:2025-05-29
現在、小学5年生になる息子が、ネットで茎頂培養キット(熱湯でインスタント培地が作れるようなキットです)というものを買い、私が趣味で育てているアガベ(チタノタ)や塊根植物のグラキリスやアデニウムの株を増やしてあげる!と熱心に自由研究をしています。

ネットの情報やキットの説明書から培地の作り方はわかったみたいなのですが、肝心のアガベやグラキリスから組織を取り出す方法がわからないと嘆いています。

私も極力協力しようとネットを漁ったのですが、成長点を取り出す。というアバウトな情報しかわかりませんでした。

専門の業者の動画等を見るとどうやら実体顕微鏡で葉っぱや茎?を分解して組織を取り出しているように見えます。

そこで、質問なのですが

①茎頂培養をする際に植物によって、取り出す場所(アガベであれば葉の部分、グラキリスであれば根の部分など)は違うのでしょうか?

②アガベやグラキリスはどの部位のどんな形状(実体顕微鏡でどんな形に見える部分)を摘出すれば良いのでしょうか?


※実体顕微鏡は持っています。
osapee様

 Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
 息子さんが、お父さんが趣味で育てておられる植物の繁殖を茎頂培養の技法で手伝おうということですね。小学5年生で茎頂培養に目をつけるとはすごいことです。そういう培養キットが購入できることは知りませんでした。植物の繁殖に培養組織/細胞を使う方法は研究や商業目的に広く使われています。しかし、その利用は、培養土に種子を撒くのとは違って、家庭で簡単にできるとはかぎりません。植物組織の無菌培養についてある程度の基礎的なことを学んでおく必要があります。また、植物の作りについても正しい理解が望まれます。
 培養のことを説明する前に、植物の作りのことを簡単に説明しておきます。植物(ここでは種子植物を念頭にして)は大きく分けて、栄養器官として茎と葉(葉条、シュート)および根が、生殖器官として花、果実があります。植物体が大きくなる(成長する)のは、ふつう、茎(幹)の伸長によります。樹木の場合は茎の肥大成長もあります。単純化して、茎と根を地上と地下につながった一つの軸性器官として見ることができます。そして、成長はこの軸性器官のどこでも起きるのではなく、茎と根それぞれの先端(以前、成長点と呼ばれていました)、つまり茎頂と根端で行われます。ここには絶えず細胞分裂がおきている分裂組織があり、ここで作られる細胞は未分化の細胞、つまり幹細胞のようなものです。これらの細胞はそれぞれの軸に沿って先端から下方へ押しやられていくに伴って、それぞれの細胞の構造と機能が決められていきます。細胞分化といいます。茎頂はドーム状をしていて先端中央の分裂組織からは茎の構造を作る各種の細胞が作られるほか、ドームの裾の表面に将来の葉になる葉原基が分化します。(ネットで、「茎頂の形態」で検索し、「画像」を選ぶと、沢山の図、写真がみられます。)生殖成長期にはいると、この葉原基は花原基に変わります。葉の上側の茎との付け根には新しい茎頂(腋芽、側芽)ができ、これが枝となります。茎と枝は主軸と副軸の関係にあります。根端の方は同じように主根から側根が分化し、根系が広がります。以上のことは、みんなの広場の「解説エッセイ」の中の「植物のかたちづくり」と、本コーナーで登録番号0926 (成長点の細胞分裂)、登録番号3055 (茎頂と根端の分裂組織)、登録番号1012 (葉が交互に出るメカニズムについて)を参考に読んでください。
 植物の細胞は動物の細胞と異なって、一旦分化した細胞でも、植物ホルモンの処理により、あたかも動物の幹細胞のように他の細胞に再分化することができます。つまり全能性があるといわれています。全能性については本コーナー登録番号2196 (植物細胞の全能性と動物細胞)を読んでください。
 この全能性という性質故に、植物は原則的にどの器官のどの組織からも個体を再生することができるのです。一個の細胞からも再生は可能です。このようにして再生して作った植物は、勿論クローン植物です。
 組織培養による繁殖は希少植物や珍しい変種などの繁殖の手段として使われます。また、遺伝子組み換え植物を作ったりする場合に便利です。植物の組織/細胞培養に基づくバイオテクノロジーについては、古い本ですが中公新書『植物のバイオテクノロジー』鎌田・原田著が分かりやすく解説してあります。図書館にあるかもしれません。
 
 さて、前置きが長くなりましたが、ご質問について触れることにします。
 まず、茎頂培養をされる目的ですが、今育てておられる植物の繁殖のためということですね。もしそうだとすると、ふつうの組織培養にも経験がない全くの初心者にとって、茎頂培養が最適な手段かどうかは、ちょっと心配です。茎頂培養は、メリクローン培養(meristem:分裂組織とclone:クローンの合成語)ともよばれ、ウイルスフリーの個体を作出する手段として使われてきました。厳密なメリクローン培養をする場合は、茎頂分裂組織を切り出すことになりますが、茎頂のサイズは植物種によって異なり、ふつう1mm の1/5から1/2 位の大きさです。勿論立体顕微鏡を使う必要があります。
 OSAPEE様たちがご使用のキットはヴィトロプランツの製品だと思いますが、youtubeを見る限り培地作りまでは簡単で、特に問題がないと思います。問題はご質問にあるように、小さな茎頂分裂組織をどうやってとりだすかだとおもいます。すでにご覧になっているとはおもいますが、ヴィトロプランツの動画に【茎頂培養】いちごの成長点の切り出しから置床までの流れ <4678" shorten="1" >https://www.youtube.com/watch?v=-gT3JydxkR8&t=333s>というタイトルのがあって、ウイルスフリーのイチゴの茎頂の切り出しをしています。簡単ではないようですね。 本コーナーでも、登録番号4678に「分裂組織の切り出し方」が説明されていますので、読んでください。
 育てておられる植物で茎頂培養が試みられたという例は見当たりませんでした。ふつうの組織培養でも実践例は少ないのではないかと思います。現在のところ、多分これらの植物を茎頂/組織培養で増やさなければならない状況ではないからだと思います。アガペは株分けで、アデニウムは挿木または種子ができれば種子から増やすことが比較的簡単にできるようです。グラキリスについては種子繁殖以外に挿木などができるかどうか分かりませんが、試みられてはどうですか。
 いずれにしろ、茎頂培養をやってみてください。ただし、茎頂は一本の茎/枝に1個しかありませんので、注意してサンプリングなさってください。

 息子さんが植物のこういう扱い方に関心を持っておられるのは、とても頼もしいことです。お父様も励ましてあげてください。また、分からないことがありましたら本コーナーヘ質問してください。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-06-05