一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ヘチマの苗が伸びる方向

質問者:   一般   ジャンボヘチマ
登録番号6189   登録日:2025-06-03
学校の花壇にヘチマとスイカの種を播きました。
どちらも発芽し伸び始めました。
スイカもヘチマもほぼ同じ位置で校舎から2~3mほど離れています。
どちらにも支柱などはせず地這いです。
スイカは校庭側(南)の方向に伸び始めました。
ヘチマは、なぜか校舎側(北)側に伸びています。
児童さんから何故伸びる方向が違うのかとの質問がありました。
偶然なのでしょうか?
ヘチマとスイカでは光を感じる力や育つ仕組みが違うのでしょうか。
ご教示いただけると助かります。
ジャンボヘチマ 様

Q&Aコーナーに、興味深い質問をしていただきありがとうございます。回答が遅れて申し訳ありませんでした。

ジャンボヘチマさんの観察結果、大変興味深く読ませていただきました。ご存知の通り、ヘチマとスイカは両方ともツル性のウリ科植物ですが、ヘチマが巻きひげを使って上に伸びようとするのに対してスイカは地面を這って広がろうとします。そのような違いにより光に対する応答が異なるのかとも思い、ツル植物を専門に研究されている森林総合研究所の森英樹先生に話をうかがいました。

森先生によると、一部のツル植物では暗い環境にむかって成長する性質(負の光屈性)が知られているそうです。ただし、このような性質が報告されているツル植物は、いずれも付着根などで樹木を張り付いてよじ登るツル植物(張り付き型)だそうです。張り付き型の場合、よじ登り始めた樹木を途中で変更できませんので、よじ登り始める前にできるだけ大きな樹木に向かって成長する必要があるため、このような性質があると考えられているとのことです。

一方、自身の茎を直接巻き付けるツル植物(巻き付き型)や巻きひげを用いるツル植物(巻きひげ型)では、実生がそのまま大型の樹木個体に巻き付くわけではなく、また、あとから樹木を乗り換えることができるので、最初の段階で暗い環境に向かって成長するという戦略は効果的とは言えず、実際、そのような報告は見たことがないそうです。ヘチマは巻きひげ型の草本植物ですので、張り付き型のツル植物で報告されている様な負の光屈性がそのまま当てはまるとは考えにくいということです。なお、つる植物の進化について興味深い記事がありますのでそちらも参照ください(本コーナー;登録番号1826)。

さて、この現象が大変興味深かったため、知合いの小学校の先生からヘチマを譲り受けて少し観察してみました。残念ながらあまりはっきりとした結果にはなりませんでしたが、一度垂直に伸びた茎が倒れるとき、より暗い方向に倒れる傾向があるようにも見えました。もしかすると、生育の特定の時期(例えば上に伸びた茎を倒す時)に負の光屈性を示すのかもしれません。観察を続けていただければと思います。

最後に、生理学者の立場から一般論を述べさせていただきます。植物が明るい方向に茎を曲げるということは、植物が「光の方向を感知する」という能力と「茎をある方向に曲げる」という能力を持っていることを意味しています。このような条件のもとで応答を逆転させるには、「二つの能力をつなぐ仕組み」の一部を逆転すれば十分ですので、それほど難しいことでは無いように思います。実際、根は負の光屈性を示します。とはいえ、負の光屈性の仕組みを茎で詳しく調べた研究例は寡聞にして知りません。今後の研究に期待したいと思います。
長谷 あきら(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-07-22