一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

つぼみについて

質問者:   教員   あさがお
登録番号6191   登録日:2025-06-05
小学校1年生の国語の教科書(光村図書)に「つぼみ」という説明文があり、6月に学習する予定になっています。それには、「あさがお」「はす」「ききょう」のつぼみの開き方、花の特徴についてひらがなで小学1年生にわかりやすく書かれています。そこで質問です。どうして、つぼみの開き方、花の特徴が違うのでしょうか。自分で調べてみると、あさがおは、合弁花、自家受粉で一年生植物。はすは、離弁花、他家受粉、多年生水草であること。ききょうは、自家受粉を避けるようにできている、多年草であることなどは、分かったのですが、答えが見つかりません。
以下、つぼみの文章です。教科書には、写真があわせて掲載されています。

つぼみ

いろいろな はなの つぼみを みてみましょう。

さきがねじれた つぼみです。
これは、なんの つぼみでしょう。
これは、あさがおの つぼみです。
ねじれた ところが ほどけて だんだんと ひろがっていきます。
そして、まるい はなが さきます。

おおきく ふくらんだ つぼみです。
これは、なんの つぼみでしょう。
これは、はすの つぼみです。
いちまい いちまいの はなびらが、はなれて いきます。
そして、さまざまな ほうこうに ひろがって、はなが さきます。

ふうせんのような かたちを した つぼみです。
これは、なんの つぼみでしょう。
これは、ききょうの つぼみです。
さきの ほうから いつつに わかれて、ひらいて いきます。
そして、とちゅうからは つながった まま、はなが さきます。
あさがお 様

この度は日本植物生理学会・みんなのひろばにご質問をお寄せくださりありがとうございました。また回答までお時間を頂戴しお待たせいたしました。
いただきましたご質問は、植物の各器官の形づくりの研究がご専門の神奈川大学理学部教授 岩元明敏先生にお引き受けいただきました。

【岩元先生からの回答】

 大変興味深いご質問ですが、結論から言うと種類ごとにつぼみの開き方、花の特徴が異なることには一言で答えることができるような明確な理由はありません(知られていません)。あえて答えるのであれば、進化の結果、様々な開き方をするようになったということになります。

 少し専門的な話になりますが、つぼみは通常は花芽とよばれ、花芽内部での花器官(萼片、花弁、雄蕊、雌蕊)の配置のことを花芽内形態(aestivation)と言います。特に花弁の花芽内での配置についてはよく観察されていて、主に瓦重ね状(imbricate, imbricative)、敷石状(valvate)、片巻き状(convolute)の3パターンに分類されています。瓦重ね状は文字通り瓦のように花弁と花弁の端が重なる形で花芽内に花弁が配置している状態で、今回教科書にあげられている3種の植物でいうとハスがこれに該当します。敷石状は、花弁と花弁の端が重ならず、敷石のように配置している状態で、今回教科書にあげられているキキョウがこれに該当します。片巻き状も文字通り、一方向に重なって花弁が折りたたまれるようにして配置している状態で、今回教科書にあげられているアサガオはこれに該当します。つぼみ(花芽)の開き方は、この花芽内形態に依存していて、イメージ的には、瓦重ね状だと花弁同士の重なりが解消されていくにしたがって1枚1枚開いていき、敷石状であれば最初から開いた状態で少しずつ開き、片巻き状はほどけるように開きます。教科書にかかれている記述は概ねこのイメージに沿っているようです。

 おそらくお尋ねになりたいこととしては、それではどのようにこうした花芽内形態のパターンが生じるのか、そしてその理由は何かということだと思います。まず、どのようにということですが、これは花器官の発生様式に依存しています。花は非常に若い段階では全く花器官がつくられておらず、通常は一番外側の萼片から少しずつ、つくられていきます。このように花がつくられる過程のことを花発生といいます。花発生のパターンは植物種ごとにさまざまですが、概ね系統を反映していると考えられています。花芽内形態はこの花発生に依存していて、例えば瓦重ねになる花は多くが花弁のもとが近接した位置に形成されていて、重なりが起きやすいようになっています。次に、理由ですが、これは進化の結果としか現状ではお答えのしようがありません。探した限りでは特定の花芽内形態が、例えば受粉に有利であるというようなことを示す論文は見つかりませんでした。しかし、可能性としては花芽内形態(つぼみの開き方)が、植物の生殖に何らかの形で関連していることはあると思います。今後の研究テーマとしておもしろいかもしれません。

 なお、かなり専門的な内容となりますが、被子植物における花芽内形態の多様性(パターン)については以下の論文(総説)に比較的詳細に書かれています。ご興味があればご参照下さい。

"Evolutionary diversification of the flowers in angiosperms" Peter K. Endress
American Journal of Botany. Vol. 98, 370-396. (2011)
https://doi.org/10.3732/ajb.1000299
(フリーアクセスで読むことができます)
=====

つぼみをはじめとして、葉や茎の形、さらにはそれぞれの大きさなど、「どうして(なぜ Why)」そうなったのでしょうか、こうした理由に対する答えはまだまだわからないことだらけです。私たちヒトの器官についても同じ疑問が湧きますね。他方、「どのようにして(How)」についてはゲノムにある遺伝子などの働きを調べることで徐々に答えられるようになってきています。

本コーナーでは植物のふしぎに関する質問を受け付けております。また不思議に思われたことがありましたらQ&Aコーナーをお訪ねください。
岩元 明敏(神奈川大学理学部)
JSPP広報委員長
藤田 知道
回答日:2025-08-07