一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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葉の凸凹

質問者:   一般   イトウ
登録番号6194   登録日:2025-06-13
東南アジアの河岸や水中に自生するクリプトコリネ属内でアフィニス、ウステリアーナ、バランサエなどの数種は葉の凸凹が顕著です。凸凹ですと水流の抵抗も増し、増水時には泥などが凹みに溜まって光合成面積を減らすなどして不利な形態のように思えるのですが、何か適応上、有利な理由があるのでしょうか?
凸凹は何に対して有利な形態なのか、ご教示ください。
イトウ 様

日本植物生理学会「みんなのひろば」植物Q&Aに質問をお寄せくださり有難うございます。最初にお断わりしておきますが、以下は煮え切らない回答です。

この構造はundulationとよばれるものです。Cryptocoryne undulataと、種名にも使われています。日本語訳は、波動(物理学)、うねり、波打ち、起伏などです。水中だけではなく、たとえばチヂミザサなど陸上植物にも見られます。ちなみにチヂミザサの学名はOplismenus undulatifoliusで、種小名の意味は「波打つ葉」です。ネットの写真からの判断は難しいですが、「波打ち」ではなく、縦と横の葉脈の四角に囲まれた部分が凸凹している葉をもつ種もあるようですね。

これらの波打ちや凸凹の機能についてはどのようなものが考えられるでしょうか?

イトウさんもご指摘のように、波うちや凸凹は、渓流植物にみられる「流線形で抵抗を小さくする」という一般的な性質とは異なります。流線形で抵抗を小さくするすると、強い流れによる抗力(dragging force) に堪えやすくなります。一方で、波打ちや凸凹には、流速が緩やかな場合でも葉面に渦が生じやすく、栄養塩やCO2取り込みの際のバリアとなる葉の表面のよどみ(境界層)を薄くするというプラスの面もあります。

また、葉の投影面積よりも実際の面積の方が大きくなりますので、明るい場所では強光を避ける性質と言えます。ガス交換や養分吸収のための表面積を増やすことにもなります。

陸上植物の葉には大きな波打ちをもつものがあります。平たい板よりも波板の方が丈夫であるのと同じ原理で、波打ちのある葉の方が構造上丈夫だと思われます。一方、クリプトコリネ属の植物の示す波うちや凸凹の大きさは、葉脈の幅によって規定されているように見えますので、凸凹や波打ちのある方が丈夫だとは言えないでしょう。

もし、波打ちや凸凹が、ある環境において非常に有利な性質なら、同じ環境下で生育する植物の多くがそういう性質を示すようになると思われます。一方、波打ちや凸凹のない葉をもつ種と共存している場合には、波打ちや凸凹構造に特段に有利な点はないと判断できます。Wikipedia(英語版、2025年7月1日参照)によると、Cryptocoryne属の植物の生育環境は、緩やかな流れの河川をはじめとして、多様なようですね。

隣接する全ての植物が波打ちや凸凹をもつことはないと思われますので、特段有利というわけではないでしょう。逆に、特段不利ではないとも言えると思います。

・・・水中で泥がたまったままになりますか? アクアリウムで観察なさっていて、このような可能性があるとお考えでしょうか。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-07-03