一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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あさがお

質問者:   その他   いちご
登録番号0620   登録日:2006-04-30
冬の終わりの戸外の温室で発芽させ育てると、秋と同じ気温となる初夏になっても葉ばかり茂り、花芽が出来ない(開花しない)。
肥料や土の状態、また水やりなどを適切に行っても同じ結果となります。
これはどうしてでしょうか?
いちごさん

アサガオの開花生理を専門に研究されている新潟大学 竹能清俊先生に伺ったところ、次のような詳しい説明を頂きました。アサガオが花を咲かせるための自然条件はなかなか厳しいですね。アサガオとは反対に、夜の時間がある一定時間より短くならないと花を咲かせない植物もあることも序でに知っておいて下さい。


 正しくお答えするには、もう少しくわしいお話を聞かせてほしいのですが、いろいろな場合を考えてみます。
 初夏になっても花芽が出来ないということですが、もう少し季節が進めば出来るのでしょうか?それとも、その後も全然花芽が出来ないのでしょうか?

 もう少し季節が進めば花芽が出来る場合を考えてみましょう。アサガオは、普通は、初夏にはまだ花芽は出来ないものなので、早めに花を咲かせたいと考えて、温室で発芽させ、早めに育て始めたのでしょうか?それにもかかわらず、やはり、初夏にはまだ花芽が出来なかった。それはなぜですか、という質問ならば、次のようなことが考えられます。

 植物の多くは、自分が花を咲かせるべき季節を知っていて、ちょうどよい時期に花を咲かせます。そうすることで、同じ仲間の植物は一斉に花を咲かせ、お互いに花粉を交換して、種子を作ることが出来ます。植物たちは日長時間をはかって、季節を知り、花を咲かせるかどうかを決めます。日長時間は季節の移り変わりに従って正確に変化していきますから、植物が花を咲かせる時期も正確に決まっています。ですから、種子を早くまいても、その時期が来なければ花芽は出来ませんし、遅くまけば、まだ小さくても、その時期が来れば花芽が出来てしまいます。冬に温室で発芽させて、早く育て始めても、初夏に花芽が出来なかったのは、このためかもしれません。

 いちごさんは中学生なので、もう少し難しい質問をしたのかもしれません。植物たちは日長時間をはかって、花を咲かせるかどうかを決めるのですが、日長時間が何時間になったら花を咲かせるかは、植物の種類によってちがいます。日長時間がある時間より長くなったときに花芽をつくるものと、逆に、ある時間より短くなったときに花芽をつくるものとがあります。アサガオは、品種によって違いますが、だいたい日長時間が15時間より短くなると花芽をつくります。ところで、私たちにとっては昼の時間の方が大切なので、日長時間という考え方をしがちですが、植物たちは、本当は、日長時間ではなく、夜の時間をはかっています。ですから、本当は、アサガオは夜の時間が9時間より長くなると花芽をつくるという言い方が正しいのです。日本では、夏至の頃に夜の時間が8時間とちょっとになり、その後、夜の時間はだんだん長くなります。夏至を過ぎてしばらくすると、夜の時間は9時間をこえ、アサガオは花芽をつくるようになります。アサガオが夏に花を咲かせるのはこのためです。

 いちごさんはまだなっとくしていないかもしれません。夏至の頃の夜の時間が一番短いということは、それより前は夜の時間はもっと長いわけで、夏至のしばらく前までは、夜の時間は9時間より長いはずです。そこで、早めに育て始めれば、初夏の頃には花が咲くと思ったのに、アサガオは花芽をつくらなかった。それはなぜなのですかというのが、いちごさんの聞きたかったことでしょうか?アサガオは夜の時間の長さをはかって、花芽をつくるかどうかを決めているのですが、気温が低いと花芽をつくりにくいという性質ももっています。25度くらいの夏の気温では、夜の時間が9時間より長ければ花芽をつくるのですが、気温が低くなればなるほど、花芽をつくるのに必要な夜の時間は長くなっていきます。15度くらいになると、どんなに夜の時間が長くても、もう花芽は出来ません。初夏の頃の気温は、アサガオにとって、花芽をつくるには低すぎるのです。いちごさんの家の温室は暖房ができますか?もし、暖房の設備があるなら、種子をまく時期から、25度に暖房してみましょう。きっと初夏には花が咲くでしょう。真冬に咲かせることも出来るはずです。

でも、初夏と同じ気温の秋には咲くのです、という声が聞こえそうです。たしかに、アサガオは夏の花というイメージが強いのですが、本当は、かなり秋が深まって、気温が低くなっても咲き続けます。これは、植物の体が大きくなると花芽をつくりやすくなるためと、いちど花芽をつくる状態になると、しばらくはその状態が続くためです。また、花芽が育って、開花するまでには何週間もかかるので、秋に咲いているものは、実は、夏の間につくられた花芽であることにもよります。

いいえ、そういうことではなく、夏を過ぎても全然花芽が出来ないのです、ということでしょうか?もし、そうならば、次のようなことが考えられます。
 アサガオは夜の時間が9時間より長くなると花芽をつくります。夜の時間というのは、本当に真っ暗な時間ということです。温室に夜間照明をつけていたり、住まいのすぐ近くにあって、夜になると部屋の明かりが温室に届いていたりすると、夜でも、アサガオはそれを昼と判断してしまいます。そうなれば、アサガオにとっては夜の時間が9時間より短くなって、花芽をつくることはできません。都会では、外灯や、24時間営業の店の明かりに一晩中てらされる機会が多いので、正しい季節に花を咲かせることができない植物たちがいます。
 また、葉ばかり茂るということですが、普通以上によく茂っているようですと、肥料のやりすぎが考えられます。植物は、成長できる間はできるだけ大きく成長しておいて、成長がむずかしくなると花を咲かせる傾向があります。そうすれば、たくさんの花を咲かせ、たくさんの種子をつくり、たくさんの子孫を残せるというメリットがあります。ですから、成長によいようにと、たくさん肥料を与えると、たしかに成長はよくなるのですが、花は咲かないということがあります。しかし、肥料を適切に与えても同じ結果となるとのことですので、これはあてはまらないかもしれませんね。

和田 清俊(ペン・ネーム竹能清俊)(新潟大学理学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-05-08
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