質問者:
高校生
Y
登録番号6204
登録日:2025-06-23
こんにちは、ある高校生です。みんなのひろば
植物の圧力の知覚のメカニズムについて
ある時、植物(おそらくタンポポ)が何かに巻き付くように成長してるのを見て、調べたところ接触屈性という現象だとわかりました。
そこで私は、つる植物などの様々な植物がどのようにその接触を感知して、どのように情報を伝導・伝達するかというメカニズムが気になりました。
自分では見つけられなかったので、このことに関して、なにか分かっていることがあったり、論文があったら教えていただけるとありがたいです。
Y 様
Q&Aコーナーに質問、ありがとうございます。
植物の茎(ツル)や巻きひげが何かに巻きつく様子は本当に不思議ですよね。このコーナーでも、ツルの巻き方(登録番号5131ほか)や接触刺激(登録番号3743ほか)について様々なやり取りがありました。接触刺激応答に植物ホルモンのエチレンなどが、接触屈性にはオーキシンなどが関わることについては、ネット上にも様々な情報があるかと思います。
さて、ここからは、まだ情報が少ない分子・細胞レベルでの接触刺激の感知メカニズムについてかいつまんで説明します。少し難しいところがあるかも知れませんがご容赦ください。
「接触刺激」あるいは「機械的刺激」の感知メカニズムの中核をなすのが、細胞にかかった物理的な力を感知するセンサー分子(タンパク質)です。植物細胞においては、大きく2種類のセンサーが想定されています。一つは細胞膜にかかる張力を感知する機械刺激受容イオンチャネルで、もう一つが細胞壁の状態を感知する受容体様キナーゼです。以下、それぞれについて簡単に説明します。なお、これらの因子の下流の情報伝達メカニズムについては煩雑なので説明は省略させていただきます。興味があればご自身で調べてみてください。
機械刺激受容イオンチャネルは、植物のみならず細菌や動物にも見られる機械刺激のセンサーで、細胞膜に張力がかかるとチャネルが開きイオンが透過します。複数種類が知られ、中でも大腸菌のMscSについて最も研究が進んでいます。植物では、MscSと似た分子(MSL)に加え、MCAという別のタイプのチャネルも機能していると言われています。植物においても機械刺激に応じて細胞内のCa2+イオン濃度が上昇する現象が多数報告されており、これらの現象には上記のチャネルが関与している考えられていますが、詳細については不明な点が多く残されています。
植物細胞は細胞壁で囲まれており、細胞壁で起きた変化を感知するための分子が細胞膜上に存在します。これらの分子は受容体様キナーゼ(RLK)の一種で、細胞外ドメインが細胞壁成分と相互作用することにより、細胞壁の状態を細胞内に伝えます。細胞同士が細胞壁で繋がっている植物では、発生や成長の過程で細胞壁にかかる力が重要な役割を果たすと考えられており、受容体様キナーゼがその感知に関わることが提唱されていますが、はっきりとしたことはまだ不明なようです。
以上、植物における機械刺激センサーの概要を説明しました。おおまかに言うと、有力な候補分子は判明しているが、不明な点が多々残されているというところです。また、これらの知見の多くはシロイヌナズナに代表される少数のモデル植物から得られたものであり、あまり一般的ではないツル植物における研究例はまだ無いと思います。とはいえ、任意の植物で分子レベルの研究を行うための技術が発展しつつありますので、今後の進展を期待したいと思います。
Q&Aコーナーに質問、ありがとうございます。
植物の茎(ツル)や巻きひげが何かに巻きつく様子は本当に不思議ですよね。このコーナーでも、ツルの巻き方(登録番号5131ほか)や接触刺激(登録番号3743ほか)について様々なやり取りがありました。接触刺激応答に植物ホルモンのエチレンなどが、接触屈性にはオーキシンなどが関わることについては、ネット上にも様々な情報があるかと思います。
さて、ここからは、まだ情報が少ない分子・細胞レベルでの接触刺激の感知メカニズムについてかいつまんで説明します。少し難しいところがあるかも知れませんがご容赦ください。
「接触刺激」あるいは「機械的刺激」の感知メカニズムの中核をなすのが、細胞にかかった物理的な力を感知するセンサー分子(タンパク質)です。植物細胞においては、大きく2種類のセンサーが想定されています。一つは細胞膜にかかる張力を感知する機械刺激受容イオンチャネルで、もう一つが細胞壁の状態を感知する受容体様キナーゼです。以下、それぞれについて簡単に説明します。なお、これらの因子の下流の情報伝達メカニズムについては煩雑なので説明は省略させていただきます。興味があればご自身で調べてみてください。
機械刺激受容イオンチャネルは、植物のみならず細菌や動物にも見られる機械刺激のセンサーで、細胞膜に張力がかかるとチャネルが開きイオンが透過します。複数種類が知られ、中でも大腸菌のMscSについて最も研究が進んでいます。植物では、MscSと似た分子(MSL)に加え、MCAという別のタイプのチャネルも機能していると言われています。植物においても機械刺激に応じて細胞内のCa2+イオン濃度が上昇する現象が多数報告されており、これらの現象には上記のチャネルが関与している考えられていますが、詳細については不明な点が多く残されています。
植物細胞は細胞壁で囲まれており、細胞壁で起きた変化を感知するための分子が細胞膜上に存在します。これらの分子は受容体様キナーゼ(RLK)の一種で、細胞外ドメインが細胞壁成分と相互作用することにより、細胞壁の状態を細胞内に伝えます。細胞同士が細胞壁で繋がっている植物では、発生や成長の過程で細胞壁にかかる力が重要な役割を果たすと考えられており、受容体様キナーゼがその感知に関わることが提唱されていますが、はっきりとしたことはまだ不明なようです。
以上、植物における機械刺激センサーの概要を説明しました。おおまかに言うと、有力な候補分子は判明しているが、不明な点が多々残されているというところです。また、これらの知見の多くはシロイヌナズナに代表される少数のモデル植物から得られたものであり、あまり一般的ではないツル植物における研究例はまだ無いと思います。とはいえ、任意の植物で分子レベルの研究を行うための技術が発展しつつありますので、今後の進展を期待したいと思います。
長谷 あきら(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-07-22