一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の呼吸と光合成のやりかたについて

質問者:   一般   nanny
登録番号6208   登録日:2025-06-29
植物は空中から呼吸用の酸素だけとか、光合成用の二酸化炭素だけをとりいれるのでしょうか?
なんとなくそう思っていたのですが、人間の吐く息も二酸化炭素だけではなく、酸素も入っていると知り、植物はどうなのだろうと不思議におもいはじめました。
空気をとりいれるのだと、光合成をした植物から出る空気は酸素濃度の濃い空気ということなのでしょうか?
どのような仕組みで、酸素や二酸化炭素をわけて二つのことができるのか、不思議でなりません。
nanny さま

みんなのひろば、植物「Q&A」に質問をお寄せくださりありがとうございます。

植物の葉に細胞がぎゅうぎゅうに詰まっているのではなく、細胞と細胞の間に隙間(細胞間隙、さいぼうかんげき)があります。葉の体積の約半分は細胞間隙です。細胞間隙は、気孔を介して外気とつながっています。光合成で使われる二酸化炭素(CO2)、呼吸で使われる酸素(O2)、水蒸気(H2O)など、外気に含まれている気体は、内外の濃度差に従って気孔を通ります。もちろん、大気中に高濃度(78%)で存在する窒素(N2)も、気孔から取り込まれます。気孔の通りやすさは気体分子によって異なり、分子が大きいほど通りにくくなります。水蒸気に比べると、CO2は気孔を通りにくい分子です(専門用語では、気孔の拡散抵抗が大きい=気孔コンダクタンス(伝導度)が低い)。

大気中のCO2(0.04%)は、気孔から取り込まれ、細胞の細胞壁と細胞膜を透過して細胞内に入り、葉緑体内に到達します。細胞壁・細胞膜の透過、細胞質内の移動、葉緑体の膜の透過にも拡散抵抗があります。より多くのCO2を光合成で利用するため、細胞内の葉緑体の多くが(条件によってはほぼすべて)が、細胞間隙に接する面に配置されています。顕微鏡写真をみると、平べったく伸びた葉緑体が細胞間隙側に隙間無くべったり張り付いています。

O2は光合成で産生され、ミトコンドリアでの呼吸で消費されます。細胞に取り込まれたO2は、溶存酸素の形で細胞質中のミトコンドリアの表面に到達し、次いでミトコンドリア膜を通って内部に取り込まれます。昼間、光合成が活発であれば、光合成で産生されたO2も溶存酸素としてミトコンドリアに取り込まれ、呼吸に使われます。光合成の行われない暗所では、呼吸で使われるO2は気孔から取り込まれます。

光合成で産生されたO2はどうなるかですが。サイエンスアドイザーの寺島一郎さんが計算してくださいました。12時間光合成を行った場合、光合成で産生されるO2の量は、葉の水相に溶解可能なO2の量より5桁多いという結果になりました。光合成をしている葉では、O2はほぼすべて気孔から排出されると考えていいでしょう。

水蒸気は状況が異なります。根で吸収した水は道管を通って葉に運ばれます。細胞間隙内では水蒸気はほぼ飽和しているので(湿度100%)、気孔が開いていると水蒸気は外気に放出されます(蒸散)。蒸散は、葉の温度を下げる働きをもっています。

なお、大気中に含まれる汚染物質も、当然気孔から取り込まれます[自動車の排気ガスに含まれる窒素酸化物(Nox)や一酸化炭素(CO)]。

呼吸で使われるO2については、過去の回答(登録番号2633, 1853, 1712, 1256)も参照してください。
宮尾 光恵(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-07-14