一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物のは光が強すぎても光合成を行わないのでしょうか?

質問者:   自営業   朝倉
登録番号6212   登録日:2025-07-07
現在、趣味で気候変動についての考察を行っています。

近年、日光がより強くなっている様で。晴れて前日に雨も降っていたのに対して家で育てている植物や近隣の木木がしおれている現象をよく見る様に成りました。日光が強くなっている原因についても考察を行っていますが、質問の主ではないので省きます。

植物についての質問が有ります。

植物は日光が強すぎる場合光合成の効率が悪く成り、逆に二酸化炭素を放出する様になるという事が有る様なのですが、これは事実でしょうか?

それとも気功が閉じて光合成を行わなくなるという事が有るのでしょうか?
朝倉様

日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&Aに質問をおよせくださり有難うございます。出張続きで回答が遅くなって申し訳ありません。

私も気候には興味があります。太陽からの日射量は多くの気象台で計測されていて、気象庁が詳細なデータを公表しています。

https://www.data.jma.go.jp/env/radiation/diag_rad.html

気象庁のこの解説によると、近年の日射量は安定しているようですね。一方、近年の気温の上昇は実感できるほどです。

葉の気孔の開きが一定だとすると、葉からの蒸散量は葉の温度の飽和水蒸気濃度と外気の水蒸気濃度の差に比例しますので、一般には葉の温度が高い方が蒸散量が多くなります(もちろん外気の水蒸気濃度にもよります・・・)。雨のすぐあとの土壌は「過湿」状態です。通常は気相である土壌間隙に水が入りこみ酸素の拡散が抑えられます。根の中に空気を送る通気組織を発達させる植物もありますが、そうでない植物の場合、土壌からの酸素の供給が断たれると根の吸水・通水機能が低下します。雨のすぐ後に晴れた場合に見られる植物のしおれは、晴れて葉温の上昇とともに増加する蒸散速度に根からの水の供給が追い付かないのが主な原因です。このような場合には気孔も閉じますが、気孔閉鎖が遅れるとしおれるのです。

地中海性気候帯は大陸西側の、温帯低緯度域の偏西風の吹く地域にひろがります。ヨーロッパの地中海沿岸、南カリフォルニア、チリ、南アフリカ、南西オーストラリアなどです。みんな、おいしいワインの産地です。夏、この地域の陸地は海よりもかなり高温となるので乾燥します。1970年代に、この地域の植物が真昼に気孔を閉じる現象が研究され、「昼寝現象」と名付けられました。外気の絶対水蒸気濃度は日中ほぼ一定の場合が多いのですが、葉の温度は真昼にはかなり上昇します。さきほども述べたように、気孔の開度が同じだと、蒸散速度は葉の飽和水蒸気濃度と外気の水蒸気濃度の差に比例します。飽和水蒸気濃度は、葉の温度の上昇とともにうなぎ上りに増加しますので、気孔開度が同じままだと真昼には蒸散量が非常に多くなってしまいます。葉温が高い真昼に気孔を閉じると水分保持に有効です。

地中海性気候帯で最初に見出された「昼寝現象」ですが、熱帯多雨林の樹木や、水田のイネなどでも起こっていることが明らかになりました。高温で乾燥する夏の日中、水田のイネの葉が巻くことがあります。イネは根に通気組織を発達させていますが、それでも吸水・通水が追いつかなくなります。気孔を閉じ、葉を巻くことによって蒸散面積も小さくして蒸散量を減らします。また、受光量も減少しますので葉温の上昇を防ぐ効果があります。典型的な高温・乾燥が起こるのは、フェーン現象が起こる場合です。

植物の光合成に光は必須ですが、強すぎる光は光合成装置を壊してしまいます。この「光阻害」現象による光合成速度の低下は野外ではよく見られます。登録番号6066 に解説がありますのでご覧ください。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-08-05