一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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新芽と根どちらの成長が優先されるか

質問者:   会社員   9630
登録番号6226   登録日:2025-07-25
自然環境で生育している新芽伸長中のクロマツを、根を50%ほどに切り詰めて鉢上げしました。
(根は主根と太い側根のみで細根はほぼありませんでした。)


鉢上げ後、2週間ほどで去年までの古葉が葉の先端から黄化→枯死しましたが、
新葉の様子は変わらず、伸長はほぼしていないですが、枯れる兆候も認められません。

古葉は下記目的で自然に枯れたのではと考察しています。
・根を切ったことによる葉からの過剰な蒸散の防止
・新葉や根への養分転流
上記考察が妥当な場合、古葉の転流は根と新芽の伸長どちらが優先されるのでしょうか。

また、古葉が枯死しきって、伸長しきっていない新芽と切り詰められた根のみになった場合、
下記新芽と根の関係はどのように考えれば良いでしょうか。
・伸長率50%ほどの新芽のみの光合成で、新芽自身と根の成長をまかなえるのか(新芽の成長は抑制される?)
・新芽の光合成、根からの栄養吸収いずれも能力低下が想定できるが、葉面散布にて糖やアミノ酸、その他必須元素を与えることは有効か(貯蓄養分が尽きれば枯死してしまうと考えられるが、少量でも葉面からの吸収でまかなえないか)
・根からの吸水能力は低下していると想定されるため、葉からの蒸散を抑えるために高湿度もしくは葉面散布すると、植物体には低ストレスだが根の伸長は抑制されるのではないか(根に求められる吸水量が少なくなるため?)

以上、考察の妥当性含めてご教示いただけますと幸いです。
9630 様

日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&Aに質問をお寄せくださり有難うございます。

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・質問1
鉢上げ後、2週間ほどで去年までの古葉が葉の先端から黄化→枯死しましたが、
新葉の様子は変わらず、伸長はほぼしていないですが、枯れる兆候も認められません。

古葉は下記目的で自然に枯れたのではと考察しています。
・根を切ったことによる葉からの過剰な蒸散の防止
・新葉や根への養分転流
上記考察が妥当な場合、古葉の転流は根と新芽の伸長どちらが優先されるのでしょうか。

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回答1
葉で光合成によってつくられた光合成産物や種々の器官に蓄えられた糖類などは、適切な器官に転流され、器官の成長のための素材、素材から植物体を構築するためのエネルギー、その器官の生活のためのエネルギーとして使われます。古葉が黄化したのなら栄養分は回収されたはずです。また、落葉には蒸散面積を減らすという意義もあります。根を切って鉢上げしたマツですから、光合成産物や貯蔵物質は根に優先的に転流され、まず、根の発生・伸長のために使われると思われます。ただ、それでも、全ての栄養分が根に転流するわけではありません。新葉の成長が旺盛ではないとしても、維持のための呼吸基質は確保しなければなりません。

植物は地上部で光合成をし、地下部で水分や栄養塩を吸収しています。湿潤な環境では多くの光合成産物が地上部に優先的に転流され地上部が繁茂します。一方、このような植物を乾燥条件におくと光合成産物は地下部に優先的に転流されるようになります。植物ホルモンやペプチドホルモンなどが関与してどちらに沢山転流するかを決めているようです。今後この仕組みがどんどん明らかになると思います。

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・質問2
また、古葉が枯死しきって、伸長しきっていない新芽と切り詰められた根のみになった場合、下記新芽と根の関係はどのように考えれば良いでしょうか。
・伸長率50%ほどの新芽のみの光合成で、新芽自身と根の成長をまかなえるのか(新芽の成長は抑制される?)
・新芽の光合成、根からの栄養吸収いずれも能力低下が想定できるが、葉面散布にて糖やアミノ酸、その他必須元素を与えることは有効か(貯蓄養分が尽きれば枯死してしまうと考えられるが、少量でも葉面からの吸収でまかなえないか)
・根からの吸水能力は低下していると想定されるため、葉からの蒸散を抑えるために高湿度もしくは葉面散布すると、植物体には低ストレスだが根の伸長は抑制されるのではないか(根に求められる吸水量が少なくなるため?)

以上、考察の妥当性含めてご教示いただけますと幸いです。

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回答2
すでに述べた光合成産物の分配の現象論などから想像すると、上記の3つの質問には以下のように回答することができると思います。

・当初は新芽の成長は抑制され根の成長が優先されますが、やがてバランスのよい成長を示すようになるでしょう。
・適切に行えば有効です。糖を葉面に散布すると微生物の繁殖が厄介だと思いますが、無菌状態ならば根や葉にショ糖などを与えてと成長を促進することができます。マツでも可能でしょう。また、野外でもアミノ酸の3つ連結したペプチドのグルタチオンなどが散布される場合があります。また、追肥のやり方に「top dressing」、すなわち肥料を植物体に文字通り「ぶっかける」方法もあります。
・ご指摘の通りの結果になると思います。蒸散抑制剤などの効力が失われ乾燥にさらされると、根の量が不足しているために枯れやすいと思います。日本は湿潤な国ですが、植物の乾燥死もあり得ます。たとえば、クロマツの芽生えには、梅雨の長雨の時期には根が十分に成長しないので、梅雨明けの日照りで枯れてしまうものがあります。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-08-09