一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物細胞におけるDNAの複製、転写、翻訳

質問者:   大学生   サンサン
登録番号6227   登録日:2025-07-26
植物細胞におけるDNAの複製、転写、翻訳に関して質問いたします。

以前、大学の講義においてDNAの複製、転写、翻訳の分子メカニズムを大腸菌を例に学び、また大腸菌は原核生物であるため、真核生物における分子メカニズムとは異なる部分があることも学びました。そこで、講義後に自分で本を読みながら真核生物における分子メカニズムを学びましたが、動物細胞を例に書かれているものが多く、植物細胞でも同じ仕組みなのか、はたまた違う仕組みなのかが分かりませんでした。

前置きが長くなりましたが、植物細胞における遺伝子複製、発現の仕組みは動物細胞と同じと考えて良いのでしょうか。それとも植物特有の仕組みがあるのでしょうか。教えていただけますと幸いです。
サンサン 様

Q&Aコーナーに質問、ありがとうございます。植物生理学を専攻することを考えられているとのこと、長年、同分野で研究に携わってきた者として大変うれしく思います。

さて、ご質問の件ですが、生物は、細菌、古細菌、真核生物という3つのドメインに分類されると習ったかと思います。興味深いことに古細菌は、単細胞で核を持たないにも関わらず、DNA複製や転写、翻訳の仕組みについては細菌より真核生物に近いと言われています(興味があれば「古細菌」をキーワードにして色々調べてみてください)。

大腸菌は典型的な細菌ですから、真核生物である植物は、細菌よりは同じ真核生物である動物に近いということになります。実際、複製、転写、翻訳の分子メカニズムについて両者の間に大きな違いはありません。とはいえ、細かく見ると様々な違いはあるようです。植物の分子生物学に詳しい竹中瑞樹先生(京都大学大学院・理学研究科)に色々と教えていただいたので、かいつまんで紹介します。

1. DNA複製;植物ではエンドリプリケーション(エンドサイクル)が顕著
分化細胞でも核DNAを倍加させて有糸分裂を省略する現象が植物で広く見られます。一方動物では限られた組織に限定されています。
2. プロモーター構造;植物はTATA型が多く、CpGアイランド依存性が低い
植物プロモーターにはTATAボックスと植物特異的なY-patchが多く見られ、哺乳類で典型的なCpGアイランド型プロモーターはほとんど観察されません。
3. 植物特有のRNAポリメラーゼ;Pol IV/V と RdDM 経路
植物ではPol IV/Vが小分子RNAを介したRNA誘導性DNAメチル化(RdDM)を担います。動物にはこのポリメラーゼ群と典型的RdDM経路は存在しません。
4. 翻訳関連;植物はリボソームタンパク質(RP)パラログが多く機能分化
植物ではRP遺伝子ファミリーが拡大し、環境応答などに応じたリボソームの多様化(スペシャリゼーション)が議論されています。動物にもパラログはありますが、植物ほど大規模ではありません。

他にも色々とあるようです。難しい内容が多いと思いますが、興味があれば調べてみると面白いかと思います。
長谷 あきら(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-08-09