一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ミニトマトはなぜ実の下から赤くなるのか?

質問者:   公務員   あーちゃん
登録番号6229   登録日:2025-07-29
小2の娘がミニトマトの観察をしていて、実が下から赤くなっていることに気がつきました。
「太陽は上から来てるのに…」と日光が上からきているから、上から(ヘタの方から)赤くなるというのが娘の予想でした。
また、茎側から栄養がくるので、ヘタの方から赤くなるという予想もたてました。
図書館で本を借りて親子で調べてみましたが、答えが出ませんでした。
なぜ、実の下部分から赤くなるのでしょうか?
あーちゃん 様

Q&Aコーナーに楽しい質問、ありがとうございます。すばらしい観察眼をお持ちの娘さんですね。仮説も説得力があり見事です。では、なぜ予想に反して下から赤くなるのか、その理由(仕組み)を、園芸学をご専門とする東海大学の岩井宏暁先生に教えていただきました。

【岩井先生の回答】

ご質問の通り、トマト果実はかつて雌しべがついていた部分、いわゆる「果実の下」から熟し始め、赤くなっていきます。そして、萼(ヘタ)がついている側が最後に熟します。この成熟パターンは、日光などの環境要因よりも、植物ホルモンを中心とした発達要因によって強く影響を受けています。

成熟に関わる因子は、果実が赤く色づく直前の段階において、ヘタ側から果実の下側に向かって濃度勾配を形成することが知られています。たとえば、成熟を促進する植物ホルモンであるエチレンに関連する因子は果実の下側で最も多く、ヘタ側で最も少なくなります。一方、成熟を抑制する植物ホルモンであるオーキシンに関連する因子は、逆に果実の下側で最も少なく、ヘタ側で最も多くなります。

このように複数のホルモンや因子が相互に関わりながら、果実の成熟は複雑に制御されています。特に果実サイズの大きい品種では、ヘタ側と下側の成熟の違いがはっきり観察されやすいのに対し、果実サイズの小さいミニトマトでは成熟が早いため、その差が目立ちにくい傾向があります。

さらに世界には、研究者や企業によって「一様に成熟するトマト品種」の開発も試みられており、今後の展開が期待されます。
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私の方から少し補足します。植物に限らず、生物の成長はあらかじめ決められた(プログラムされた)パターンに従って進みます。あまり良い例ではないですが、植物の茎(枝)にまず葉がつき、その後に花がつくのもその一例です。

一般に光は色素の蓄積を促進しますが、トマトの果実の色づきについては、岩井先生の説明にあるように、あらかじめ決められた成長プログラムの方が強く働くということです。また、植物では維管束が発達しており、栄養はこれに沿って体の隅々まで運ばれますので、先端側が栄養不足になるとは限りません。

最後に、観察に基づく素朴な疑問というのは、研究を進める原動力だと改めて感じました。ぜひ、植物の観察を続けていただければと思います。
岩井 宏暁(東海大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
長谷 あきら
回答日:2025-08-22