一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

葉の形について

質問者:   自営業   イケオジパパ
登録番号6232   登録日:2025-08-06
自分の子どもが平行脈をもつ植物はイネ科のように葉が長くなる、網状脈をもつ葉は葉が広がるものが多い、と言っておりました。確かに一部の例外はあるもののその傾向はあると思います。これについて「光合成をするとき根から吸い上げた水が必要だし、日光もできるだけ当たりたいのだから平行脈なら長い方が、網状脈なら広い方が有利な気がするね」と言っていました。この考え方は正しいと言えるのでしょうか。できれば解説お願いしたいと思います。
イケオジパパ 様

日本植物生理学会・みんなの広場「植物Q&A」に質問をおよせくださり有難うございます。回答が大変おそくなってしまい申し訳ありません。ひとえに回答者の怠慢のためです。

お子さんと葉についての議論をなさっている。素晴らしいですね。ぜひ、これからもお続けください。「~の方が有利な気がするね。」という「比較」は、非常に大切な視点です。比較には対照が必要で、生物の有利・不利は、究極的には比較対象の生物のどちらの個体の方が「その環境で残す生殖可能な子」が多いのかで判断します。「生物個体がその環境で生殖可能な子を何個体残すか」を「適応度」とよび、進化学・進化生態学では最も重要な概念です。

どのような環境にあってもある形の葉が大きな適応度をもたらすとすれば、全世界の全ての植物がそのような葉をもつようになるはずです。そうはなっていないので、環境によって有利な葉の形や大きさも違うはずです。ここでいう環境には、私たちが通常考えるような温度・水分・光の強さ・土壌のpHなどの物理的化学的環境要因に加えて、同種・異種の生物の存在も含めて考えます。

単子葉植物のイネ科の仲間が生えている草原といえばアフリカなどのサバナを思い浮かべます。サバナの重要な環境要因に草食動物の存在があります。イネ科の単子葉類では、葉をつくる分裂組織(シュート頂分裂組織、介在分裂組織)を地表面すれすれに保つこと「も」できます。こうして、食害から分裂組織を守ります。葉が食べられても分裂組織が残っていれば、次々と葉を展開できます。

日本でもシカの食害が厳しい金華山(宮城県)では食害に強いシバ(キンカシバまたはノシバ)が進化し、背丈の低いシバの草原が広がっています。双子葉植物でもオオバコなどのように地面すれすれに芽をもつ植物もあります。金華山のシバ草原のオオバコは芽を地面すれすれに保ち、葉もコンパクトな「変種」になっています。中途半端な高さの双子葉植物だと、大切な分裂組織を食べられてしまいます。

日本のように雨量が適当な地域では、と書いて最近の線状降水帯の問題が思い浮かびましたが、ここではこの問題は避けて先にすすみます。日本では植物が繁茂し、光を奪い合います。この場合には樹木が有利なので日本の代表的な植生は森林となります。ところが、実は森林の高木となる予備軍の樹木が育っていない地区が広がってきました。これはシカの食害のためなのです。食害が厳しくなければ、多くの幼木が食害をかいくぐって生育し機会をとらえて高木となるのですが、それがうまくいかないほどシカの食害がひどいようです。シカの存在は、森林の更新ばかりでなく、葉をつくる芽や分裂組織をどこにもつのが有利なのかを考えるうえでも、重要な(生物)環境要因です。

大きな葉をもつ植物も確かに存在します。では大きければいいのでしょうか。大きいと支持組織もしっかりしないといけないのでコストがかかります。また、葉のサイズが大きいと葉の周りに空気のよどみができます。よどみがあると光合成に必要な二酸化炭素が葉に到達しにくくなりますし、葉の温度も高くなってしまいます。したがって、暖かいあるいは暑い地域では、高温になりやすく光合成をしにくい大きな葉は不利になってしまいます。暖かい地方で育つバナナの大きな葉が、実は切れ切れになっているのはご存じだと思います。寒い地域では二酸化炭素の拡散を犠牲にしても、葉の温度が高いほうが光合成ができるので、大きな葉の存在が有利な場合があることが理論計算によって示されています。大きな葉の植物が寒い地方にみられることはこの関係で説明できると思います。これも環境によって有利・不利が違う例となります。

みんなのひろば植物Q&Aには、お子様との葉の形について役にたつかもしれない質問と回答がありますので是非ご利用ください。たとえば、以下の質問と回答は、今回の問題と関連が深いと思います。

登録番号5095「樹木の葉の大小」
登録番号4316「気孔と葉の大きさの関係について」
登録番号1613「平行脈と網状脈に分かれたことについて」
登録番号1710「植物の分布:単子葉類と双子葉類について」
登録番号4186「葉が体制の植物と羽状複葉の植物の進化について」
登録番号4353「陰葉と陽葉の大きさ」
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-09-16