一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ライ麦の茎に出るベタベタした物質について

質問者:   一般   豊後梅
登録番号6233   登録日:2025-08-07
はじめまして。趣味で麦藁細工を作成する為に3年ほどライ麦、大麦、小麦を自家栽培しています。茎の部分を使う為、それぞれ節から切り離した状態にしてから洗浄、乾燥させて保管しています。
洗浄の方法によって、ライ麦の茎にベタベタする物質が出てくることがわかってきました。大麦や小麦は出てきません。
お鍋で20分ほど煮た時は発生せず、60度くらいの熱い湯で30分以上置いたり水で洗っただけにした時は干している間に表面がベトベトとしてきます。オレンジ色のプツプツとしたものが浮いていることもあります。夏場の高温の外気の中で干した方が、屋内のエアコンの効いた部屋で乾かしたものより出てきているようです。念の為洗っていない茎をそのまま干してみましたが変化はありませんでした。
登録番号0128と登録番号5970を読ませて頂いて、この物質はイネ科のショ糖なのかと思い、舐めてみましたが、特に味は感じませんでした。ライ麦の茎に付いている白っぽい粉がワックス形質と書いてあった本もあるのでワックスなのかとも思いましたが、白い粉が付いていないものでもベタベタが発生するようです。また種が成熟する前に収穫したものの方が発生率が高いかと思います。
生物の勉強も学生時代に避けて通ったので専門的なお話は全くわかりませんが、ここ3年ずっと悩み続けてこの質問コーナーに辿り着きました。どうぞよろしくお願い致します。
豊後梅様

Q&Aコーナーのようこそ。歓迎いたします
 ライ麦の茎からでるネバネバ物質についての学術的な研究論文については調べられませんでしたが、その主な原因物質は水可溶性のペントサン(pentosans)であると思われます。ペントサンとはデンプンのような多糖類(糖のポリマー、ポリサッカライド、plolysaccharidfe)の仲間です。ご存じかと思いますが、多糖類はグルコースなどの単糖がたくさん繋がったポリマーで、デンプンはグルコースが単位となっています。因みにセルロースも同じです。グルコースの多糖類をグルカンと総称します。グルコースは炭素(C)が6個から成る糖で、果物に多く含まれるフラクトース(果糖)も6単糖です。ヘキソース(hexose)と総称されます。多糖類は一種類の糖だけでなく、複数の糖で構成されているものも多いです。
 糖には5個の炭素からなるものもたくさんあって、ペントース(pentose)と総称されます。ペントサンはペントースのポリマーです。ライ麦のネバネバに関係するペントサンはアラビノキシラン(arabinoxylans) で、キシロース(xylose)とアラビノノース(arabinosose)というペントースからできています。キシロースの主鎖にアラビノースの側鎖がついた構造です。アラビノキシランは細胞壁の主要構成分子の一つで、穀類の種子胚乳にも含まれています。特に籾殻に多いようです。ライ麦粉を温水で練った時の粘性はこのアラビノキシランのよるところが大きいようです。茎葉を温水で処理すると、細胞壁に多量に含まれるアラビノキシランは水に溶けやすいため、多量に溶出されると思われます。
 ちなみに、アラビノキシランはいわゆる食物繊維の一種です。さらに詳しい事をお調べになりたい場合は、アラビノキシラン、ペントサンなどの用語でネット検索をなさってください。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-08-10