質問者:
小学生
アルティメットたみたみ
登録番号6236
登録日:2025-08-09
インゲンマメの子葉の成分についてです。みんなのひろば
インゲンマメの子葉の成分について
学校で、子葉はでんぷんなのででヨウ素で紫に染まること、発芽して光合成ができるようになるまでのエネルギー源なのは習いました。
そこからでんぷんはエネルギー源として使われるようになるためにはブドウ糖などの小さな糖分になることまでは、自分でネットで調べてわかりました。
でも子葉はでんぷん「など」と書かれていて、その「など」がなんなのかまではわかりませんでした。
「など」というぐらいだからほとんどがでんぷんで、ちょっとの量で、成長に影響するほどのものではないのでしょうか。
それがきっかけで、「ほとんどがでんぷんなら、子葉を取り除いて胚軸と幼芽だけにしても、砂糖水で少しは発芽、成長するるかも?」と思って、夏休みの自由研究として実験をしています。
光合成すると、ブドウ糖を作り出してしまうので箱に入れました。
バクテリア繁殖しないように毎日水溶液を替えました。
(これらはここのQ&Aを参考にしてやりました)
砂糖ではなくて、ブドウ糖でつくりました。
ブドウ糖水溶液濃度は、0、1,2、3%ですが、一番成長するのは、子葉付き・子葉なしとも0%(水のみ)という結果で、2回やったけど同じでした。
農業用の肥料として1%のブドウ糖水溶液を与えることもわかりました。
浸透圧で濃すぎるとだめなのもわかりました。
リン、窒素、カリウムなども必要なのもわかりました。
でもここで、「子葉はナイスタイミングで成長を助けるのである。」とまとめるのはその通りすぎて、実験の意味がなかった、納得がいかないというか、こじつけの結論じゃないかと思っています。
一緒に実験を手伝ってくれた親は、
水を毎回変えることは、苗床を替えるのと同じで、成長を邪魔したのかな?とか、
農業用の1%って土からの吸収でそのまま1%で吸収するんじゃなさそうじゃない?とか、
そもそも1%って、光合成が始まってからの話じゃない?とか言います。
もしかして、それは最初の疑問の子葉の成分はでんぷん「など」の「など」が秘密のカギだったりしないでしょうか。
どのような本を読むと参考になるかも知りたいです。
よろしくお願いいたします。
アルティメットたみたみ 様
みんなのひろば、植物「Q&A」に質問をお寄せくださりありがとうございます。回答が遅くなってすみません。もしかして、もう新学期が始まって、回答が間に合わなかったのではないか、と心配しています。
1)子葉の成分
子葉には、デンプン(炭水化物の一種)の他に、タンパク質や脂質(脂肪)が含まれています。これらは植物の初期の成長に必要な物質で、種子に貯蔵されています。インゲンはマメ科植物なので、タンパク質の割合が高めです(登録番号2236に詳しく説明されています)。子葉を切り取ってしまうと、デンプン以外にも、成長に必要なタンパク質や脂質が失われるので、成長が大きく抑えられてしまうでしょう。
2)光合成の産物
光合成は大気中の二酸化炭素と水から炭水化物をつくる反応ですが、ブドウ糖(グルコース)はつくられません。光合成の最終産物はショ糖(いわゆるお砂糖)とデンプンです(専門的になりますが、糖にリン酸基が結合した物質を経て、ショ糖とデンプンがつくられます)。,
教科書では、光合成の反応式は、
6CO₂ (二酸化炭素) + 6H₂O (水) + 光エネルギー
→ C₆H₁₂O₆ (炭水化物) + 6O₂ (酸素)
とされています。C₆H₁₂O₆はブドウ糖の化学式ですが、これは、反応式を簡単にわかりやすくするためです。中学理科の教科書も、高校生物の教科書も、誤解を招く反応式を使っているのはとても残念です。
ショ糖はブドウ糖と果糖(フルクトース)が結合したもので、炭素原子12個(C12)の物質(C12H22O11)、デンプンはブドウ糖が多数重合したもので、(C₆H₁₀O₅)ₙと表します(nは最大で数千個)。光合成で作られたショ糖は新たに成長する器官(根、葉、果実)に輸送されます。デンプンも最終的にショ糖に変わって、他の器官に送られます(登録番号0128を参考にしてください;また「デンプンの分解」で植物Q&Aを検索してください)。
3)子葉でのデンプンの分解
種子が吸水すると、子葉のデンプンは様々な酵素の働きで、ブドウ糖にまで分解されますが、ブドウ糖は速やかに使われ(エネルギーに変換され)、蓄積しません。デンプンの分解で得たエネルギーは植物の成長に使われます。
4)どうしてブドウ糖が貯まらないのか。
ブドウ糖はその名の通り、ブドウの実にたくさん含まれています。ブドウ糖を貯める果実を除いて、植物の細胞中のブドウ糖の量は低く抑えられています。これは、ブドウ糖が、糖や炭水化物の蓄積量を検知するセンサーとして働いているからです(「炭水化物のシグナリング」と呼ばれています)。光合成を行っている葉の場合、ブドウ糖が増えると、光合成に関係する遺伝子の働きが抑えられます。一方、葉から送られてきた糖を蓄積する器官では、糖の代謝に関連する遺伝子の働きが促進されます。
5)発芽時にブドウ糖が多いとどうなるか。
吸水後の発芽と発根、子葉の展開に至るプロセスは、厳密にプログラムされています。必要な遺伝子が最適なタイミングで働き始め、デンプンの分解や成長を促す植物ホルモンが合成されます。実際に実験したことはありませんが、外からブドウ糖を与えると、このプログラムが乱されるのではないでしょうか。ブドウ糖ではなくショ糖(砂糖)を加えた方が、よかったと思います。寒天上で無菌的に種子を発芽させるとき、1%ショ糖を含む寒天を使います(寒天中だと、ショ糖が少しずつ種子に取り込まれる)。1%ショ糖の水溶液だと、ショ糖が濃すぎるかもしれません。
余談になりますが、イネの葉からブドウ糖を吸わせる実験をしたことがあります。ブドウ糖を吸わせると、光合成を活発に行っている葉と、新たに発達する葉(イネの基部の分裂組織)の遺伝子の働きが大きく変化しました。炭水化物シグナリングが働き、正常な生育が妨げられたのだろうと思っています。
6)農業用肥料としてのブドウ糖水溶液
ネットで販売されていましたが、使い方が書かれていませんでした。土壌にブドウ糖溶液を与えると、まず土壌中の微生物によってブドウ糖が使われます。その結果、微生物が増え、微生物が死んだあとの死骸が植物の肥料になる、という可能性が考えられます。植物の成長を助ける微生物(例えば、根粒菌や菌根菌)が増えれば、植物の成長が速くなる可能性もあります。費用を考えると、植物自身に光合成で炭水化物を作らせた方がずっと安上がりです。
切り花の栄養液には、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール(糖アルコール)などが含まれています(菌の繁殖を抑える抗菌剤も含まれています)。つぼみが開花するのは、花びらが水を吸うためです。花を長持ちさせるためのエネルギーとして糖を与えているのでしょう。
7)参考になる本
この回答は大学の講義で教える内容で、中学理科や高校生物の教科書にはまったく書かれていません。調べるとしたら、植物Q&Aで検索するか、かなり専門的になりますが、Web版光合成事典で検索してみるといいでしょう。
できるだけ易しく書くつもりが、かなり専門的になってしまったかもしれません。難しいところは親御さんに教えてもらってください。
夏休みの自由研究の発表に間に合うことを願って。
みんなのひろば、植物「Q&A」に質問をお寄せくださりありがとうございます。回答が遅くなってすみません。もしかして、もう新学期が始まって、回答が間に合わなかったのではないか、と心配しています。
1)子葉の成分
子葉には、デンプン(炭水化物の一種)の他に、タンパク質や脂質(脂肪)が含まれています。これらは植物の初期の成長に必要な物質で、種子に貯蔵されています。インゲンはマメ科植物なので、タンパク質の割合が高めです(登録番号2236に詳しく説明されています)。子葉を切り取ってしまうと、デンプン以外にも、成長に必要なタンパク質や脂質が失われるので、成長が大きく抑えられてしまうでしょう。
2)光合成の産物
光合成は大気中の二酸化炭素と水から炭水化物をつくる反応ですが、ブドウ糖(グルコース)はつくられません。光合成の最終産物はショ糖(いわゆるお砂糖)とデンプンです(専門的になりますが、糖にリン酸基が結合した物質を経て、ショ糖とデンプンがつくられます)。,
教科書では、光合成の反応式は、
6CO₂ (二酸化炭素) + 6H₂O (水) + 光エネルギー
→ C₆H₁₂O₆ (炭水化物) + 6O₂ (酸素)
とされています。C₆H₁₂O₆はブドウ糖の化学式ですが、これは、反応式を簡単にわかりやすくするためです。中学理科の教科書も、高校生物の教科書も、誤解を招く反応式を使っているのはとても残念です。
ショ糖はブドウ糖と果糖(フルクトース)が結合したもので、炭素原子12個(C12)の物質(C12H22O11)、デンプンはブドウ糖が多数重合したもので、(C₆H₁₀O₅)ₙと表します(nは最大で数千個)。光合成で作られたショ糖は新たに成長する器官(根、葉、果実)に輸送されます。デンプンも最終的にショ糖に変わって、他の器官に送られます(登録番号0128を参考にしてください;また「デンプンの分解」で植物Q&Aを検索してください)。
3)子葉でのデンプンの分解
種子が吸水すると、子葉のデンプンは様々な酵素の働きで、ブドウ糖にまで分解されますが、ブドウ糖は速やかに使われ(エネルギーに変換され)、蓄積しません。デンプンの分解で得たエネルギーは植物の成長に使われます。
4)どうしてブドウ糖が貯まらないのか。
ブドウ糖はその名の通り、ブドウの実にたくさん含まれています。ブドウ糖を貯める果実を除いて、植物の細胞中のブドウ糖の量は低く抑えられています。これは、ブドウ糖が、糖や炭水化物の蓄積量を検知するセンサーとして働いているからです(「炭水化物のシグナリング」と呼ばれています)。光合成を行っている葉の場合、ブドウ糖が増えると、光合成に関係する遺伝子の働きが抑えられます。一方、葉から送られてきた糖を蓄積する器官では、糖の代謝に関連する遺伝子の働きが促進されます。
5)発芽時にブドウ糖が多いとどうなるか。
吸水後の発芽と発根、子葉の展開に至るプロセスは、厳密にプログラムされています。必要な遺伝子が最適なタイミングで働き始め、デンプンの分解や成長を促す植物ホルモンが合成されます。実際に実験したことはありませんが、外からブドウ糖を与えると、このプログラムが乱されるのではないでしょうか。ブドウ糖ではなくショ糖(砂糖)を加えた方が、よかったと思います。寒天上で無菌的に種子を発芽させるとき、1%ショ糖を含む寒天を使います(寒天中だと、ショ糖が少しずつ種子に取り込まれる)。1%ショ糖の水溶液だと、ショ糖が濃すぎるかもしれません。
余談になりますが、イネの葉からブドウ糖を吸わせる実験をしたことがあります。ブドウ糖を吸わせると、光合成を活発に行っている葉と、新たに発達する葉(イネの基部の分裂組織)の遺伝子の働きが大きく変化しました。炭水化物シグナリングが働き、正常な生育が妨げられたのだろうと思っています。
6)農業用肥料としてのブドウ糖水溶液
ネットで販売されていましたが、使い方が書かれていませんでした。土壌にブドウ糖溶液を与えると、まず土壌中の微生物によってブドウ糖が使われます。その結果、微生物が増え、微生物が死んだあとの死骸が植物の肥料になる、という可能性が考えられます。植物の成長を助ける微生物(例えば、根粒菌や菌根菌)が増えれば、植物の成長が速くなる可能性もあります。費用を考えると、植物自身に光合成で炭水化物を作らせた方がずっと安上がりです。
切り花の栄養液には、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール(糖アルコール)などが含まれています(菌の繁殖を抑える抗菌剤も含まれています)。つぼみが開花するのは、花びらが水を吸うためです。花を長持ちさせるためのエネルギーとして糖を与えているのでしょう。
7)参考になる本
この回答は大学の講義で教える内容で、中学理科や高校生物の教科書にはまったく書かれていません。調べるとしたら、植物Q&Aで検索するか、かなり専門的になりますが、Web版光合成事典で検索してみるといいでしょう。
できるだけ易しく書くつもりが、かなり専門的になってしまったかもしれません。難しいところは親御さんに教えてもらってください。
夏休みの自由研究の発表に間に合うことを願って。
宮尾 光恵(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-08-26