質問者:
会社員
Tomoki
登録番号6238
登録日:2025-08-09
植物における自殖弱勢の強さと、ランナー・鱗茎・塊茎などのクローン生成器官の有無との間には、進化的な関連があるのでしょうか。みんなのひろば
植物における自殖弱勢と栄養繁殖の進化的背景
例えば、イチゴやタマネギ、サツマイモのように自殖弱勢が強い種では、これらの器官による栄養繁殖が一般的に行われています。
私の仮説は、自殖弱勢が強いことによって、性繁殖で近縁交配が生じた際の適応度低下を回避するために、クローン生成器官の進化や維持が促進された可能性がある、というものです。
この点について、進化生態学的な観点からの知見や、関連する事例・文献があればご教示いただけますでしょうか。もし植物生理学の分野外であれば、恐縮です。
P.S. 私は32歳のイチゴ生産者(6年目)です。なぜイチゴがランナーを出すように進化したのか(野生原種でもランナーが形成されるようです)、またそれが自殖弱勢と関係しているのではないかと(栽培作業をしているときに)ふと疑問に思い、調べてみました。しかしこの分野に詳しくないため、ぜひ専門家のご意見を伺いたいと考えております。動物とは全く異なる進化や生存戦略の歴史と、現在の育種や栽培現場とのつながりに興味を持ち、とても面白く感じております。どうぞよろしくお願いいたします。
Tomoki 様
Q&Aコーナーに興味深い質問、ありがとうございます。回答が遅れて申し訳ありませんでした。植物の遺伝、繁殖などに詳しいチューリッヒ大学の清水健太郎先生にご意見を伺いました。先生いわく「この質問、生物学的にも重要な質問で、大筋で正しい仮説だろうと思います。」とのことでした。
【清水先生の回答】
近交弱勢(自殖弱勢とほぼ同じ意味)の強さとクローン生成器官の有無に関連があるという仮説は、生物学的にたいへん意味があり、おそらく正しいのではないかと考えられますが、現在までに強く支持するだけのデータ・研究が足りていないと思われます。今後の研究が重要だろうと考えられます。
進化的な方向性としては、近交弱勢の強い他殖性から、近交弱勢がある程度まで取り除かれた自殖性に進化することが多いことが知られています。そう考えると、自殖性に進化すると、クローン繁殖の有利な面が減り、クローン繁殖が失われる傾向にある、という仮説が考えられます。
たとえば、モデル植物のシロイヌナズナ属を例にとると、他殖性のハクサンハタザオArabidopsis halleriなどはクローン繁殖を頻繁に行いますが、自殖性を進化させたシロイヌナズナArabidopsis thalianaにはクローン繁殖が見られません。
=====
専門分野ではないのですが私なりに整理すると、そもそも植物は他殖性を成立させるために自家不和合性という複雑な仕組みを進化させましたが、他殖による繁殖が難しい局面では、クローン繁殖(近交弱性強)や自殖(近交弱性弱)が有利になると理解すれば良いようです。クローン繁殖と自殖の関係については上にある通りです。
自殖、他殖、クローン繁殖などについては、本コーナーでも多数のやり取りがありますので、興味があれば検索されると良いかと思います。なお、自家不和合性の生理学的な仕組みについては詳しい研究が行われていますが、進化という観点での議論は違った難しさがあるように感じました。
Q&Aコーナーに興味深い質問、ありがとうございます。回答が遅れて申し訳ありませんでした。植物の遺伝、繁殖などに詳しいチューリッヒ大学の清水健太郎先生にご意見を伺いました。先生いわく「この質問、生物学的にも重要な質問で、大筋で正しい仮説だろうと思います。」とのことでした。
【清水先生の回答】
近交弱勢(自殖弱勢とほぼ同じ意味)の強さとクローン生成器官の有無に関連があるという仮説は、生物学的にたいへん意味があり、おそらく正しいのではないかと考えられますが、現在までに強く支持するだけのデータ・研究が足りていないと思われます。今後の研究が重要だろうと考えられます。
進化的な方向性としては、近交弱勢の強い他殖性から、近交弱勢がある程度まで取り除かれた自殖性に進化することが多いことが知られています。そう考えると、自殖性に進化すると、クローン繁殖の有利な面が減り、クローン繁殖が失われる傾向にある、という仮説が考えられます。
たとえば、モデル植物のシロイヌナズナ属を例にとると、他殖性のハクサンハタザオArabidopsis halleriなどはクローン繁殖を頻繁に行いますが、自殖性を進化させたシロイヌナズナArabidopsis thalianaにはクローン繁殖が見られません。
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専門分野ではないのですが私なりに整理すると、そもそも植物は他殖性を成立させるために自家不和合性という複雑な仕組みを進化させましたが、他殖による繁殖が難しい局面では、クローン繁殖(近交弱性強)や自殖(近交弱性弱)が有利になると理解すれば良いようです。クローン繁殖と自殖の関係については上にある通りです。
自殖、他殖、クローン繁殖などについては、本コーナーでも多数のやり取りがありますので、興味があれば検索されると良いかと思います。なお、自家不和合性の生理学的な仕組みについては詳しい研究が行われていますが、進化という観点での議論は違った難しさがあるように感じました。
長谷 あきら(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-09-02