一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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花の染色について

質問者:   小学生   ココ
登録番号6240   登録日:2025-08-12
 夏休みの自由研究として、家に咲いたミニヒマワリの切り花を染色しました。まずはどんな材料で染まるかを調べるため、色の付きそうなアイシングカラー、食用色素、絵の具、墨汁、コーラ、朱肉の6種を使いました。墨汁とコーラは何も混ぜず、ほかはそれぞれ水と混ぜて液体を作り、お花をさしました。
 結果、アイシングカラーと食用色素は色が染まりました。染まらなかった絵の具は、過去の質問から、色素が粒子の大きな「のり」に溶かされるなどして、道管を通らないからだと分かりました。残る3つの墨汁、コーラ、朱肉について理由を教えてください。
 墨汁の原料は、カーボンブラック、水、樹脂とありました。調べると色素となるカーボンブラックは「水に溶けない」とあったので、墨汁の色素は水に溶けないから染まらないのかなと思いました。
 朱肉は原料が鉱物性油、赤色調色材とありました。切り花をさす液体をつくるとき、そもそも水と混ざらなかったので、これも、色素が水にとけないからかなと考えました。
 コーラの色は、糖類に水を加えてつくるカラメルの色だそうです。砂糖は熱湯でないと水に溶けないため、こちらも、水に溶けないが、理由でしょうか?よろしくお願い致します。
ココ様、

 こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「花の染色について」にお答えします。
同じような質問がいくつか本Q&Aコーナーに寄せられています(登録番号1348, 2719, 3872, 5166, 5434)。それらをまとめると、切り花が染色されるのは、水に溶けた色素が水と一緒に茎の切り口から吸いあげられ、道管をとおって花弁にまで達するからということになります。色素によっては花弁の細胞内に取りこまれるものもあるということです。

このことから、切り花を染めることができる色素は、水にとけ、茎の切り口から吸いあげられ、道管をとおって花弁にまで達することができるものということになります。花弁の細胞の中にまで取りこまれなくてもいいようです。
吸いあげられるものとしては、水に完全にとけ、分子の大きさが小さい食紅のようなものがあげられています。一方、吸いこまれないものとしては、水彩絵の具やある種のインク、墨のように、分子の大きなにかわやアラビアゴムのような物質につつまれていたり、微粒子になっていたりするものがあげられています。

あなたが使った材料のうち、ミニヒマワリの切り花を染めることができたアイシングカラーと食用色素は、水に完全にとけ、分子の大きさが小さいので、水といっしょに茎の切り口から吸いあげられ、道管をとおって花弁にまで達したわけです。花弁が染まらなかった絵の具については、その色素がのりのような分子の大きな物質につつまれていたり、微粒子になっていたりして、道管をとおることができなかったということです。

さて、ご質問の墨汁が切り花を染めることができなかった理由ですが、その色の成分であるカーボンブラックは煤(すす)で、炭素の粒子です。水には溶けません。しかし、墨汁の主成分は水で、炭素の微小な粒子が水に浮遊している状態のものなので、水といっしょに動けそうです。そこで、墨汁と比較のための食紅を買ってきて調べてみました。はたして墨汁は道管に吸いあげられました。ただし、途中でとまってしまって、花弁まで達することはありませんでした。炭素粒子は食紅とくらべれば大きい粒子なので、先端に行くほど細くなる道管の途中でつまってしまったのかもしれません。あるいは、墨汁には膠(にかわ)が混ぜてありますので、これが道管をふさいで炭素粒子の移動をさまたげたのかもしれません。この結果から、墨汁で花弁が染まらなかった理由は、炭素粒子は道管の中を動きにくいからではないかと思います。

次に、朱肉についてですが、これは、「そもそも水と混ざらなかった」のですから、色素が水にとけないからと考えていいです。

最後に、コーラについてです。コーラの色は着色料として使っているカラメルの色で、カラメルは水によく溶けます(砂糖は熱湯でないと溶けないということはないですし、カラメルは砂糖そのものではありません)。カラメルは十分小さい分子なので、食用色素と同じように道管に吸いあげられて花弁まで達することができるのではないかと思います。ですから、花弁が染まらなかった理由はほかにありそうです。コーラは原液をそのまま使ったとのことですが、コーラは炭酸や糖類などいろいろなものを含み、酸性でもあるので、これらが植物にダメージを与えたかもしれません。コーラにさしたミニヒマワリはしおれたりしませんでしたか?
いろいろな材料が道管に吸いこまれたかどうか、吸いこまれたならば花弁まで移動したか、それとも途中で止まってしまったかは、茎をいろいろな場所で輪切りにして切断面を見れば、道管が染まっているかどうかで調べることができます。ぜひ試してみてください。

 ところで、墨汁とコーラ以外の材料は水と混ぜて実験したとのことですが、混ぜる水の割合はどのくらいでしたか? 材料の濃さを薄くしすぎると、花弁に吸いこまれたとしても、色が薄くて見えないことがあります。逆に、濃すぎると有害になることもあります。いろいろな濃さで試してみると正しい答えが見つかります。 
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-08-22