質問者:
会社員
のりたま
登録番号6247
登録日:2025-08-22
はじめまして。真夏に咲く藤の花
8月20日頃ですが近所の藤棚を見たら花が咲いておりました。
藤は5月位に咲く花だと思いますが、この時期に咲いているのを見るのは初めてです。
珍しい事なのか環境で変わる事があるのかはたまた温暖化等が影響しているのか。
疑問に思い質問を致しました。
宜しくお願い致します。
のりたま様、
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「真夏に咲く藤の花」にお答えします。
植物の多くは、種ごとに開花する季節が決まっていますが、開花時期が2回以上あったり、季節外れの時期に開花したりすることがあります。園芸植物の中には年2回またはそれ以上開花する品種が作られているものが少なくありません。このような花は年2回またはそれ以上咲くのが正常で、二季咲きまたは四季咲きと呼ばれています。一方、本来は年1回だけ咲くものが時には季節外れの時期にも咲くことがあります。狂い咲きと呼ばれるもので、サクラの秋の開花がしばしばニュースになります。
ご質問の8月のフジの開花は、二季咲き品種のものなのか狂い咲きなのかをまず知りたいです。両者の明確な区別がよく分からないのですが、開花最盛期以外に少数の花が咲くことがあるというのが狂い咲きだろうと思います。本Q&Aコーナーの登録番号5005では、季節外れの夏にも咲くモクレンの話題が取り上げられています。この場合は、春の開花が多く、夏に咲く花は少数だということで、時には夏にも咲くことがある狂い咲きと見なされています。お気づきになったフジの場合はこの時期に咲いているのを見るのは初めてとのことですので、モクレンと似たような狂い咲きと思われます。私も、ヤエヤマブキ、ヤマブキ、キンカンなどで似たような季節外れの少数の狂い咲きを観察しています。このような多くの例から、狂い咲きは珍しいことではないと言えます。
狂い咲きの仕組みはサクラでよく調べられています。登録番号1104に詳しい説明がありますのでご覧ください。要約しますと、花芽は夏に分化しますが、これを休眠させるアブシジン酸を作る葉が台風による風害や害虫の食害などで失われると花芽は休眠に入れずに、秋から初冬に高温の日があれば開花してしまうことがあるというものです。
狂い咲きは、多くの場合、上述のように説明されています。しかし、今回のフジや上述のモクレンの夏の狂い咲きも同じように説明してよいかどうか疑問です。夏の開花は早過ぎるように思うのです。サクラの狂い咲きは秋から初冬にかけてでした。花芽はこの時期には十分生長して開花できる状態になっているということですが、言い換えれば、この時期になるまでは未熟で開花できないということです。フジやモクレンの花芽の形成時期や生長速度の詳細は分かりませんが、サクラと大差が無いと仮定すれば、夏にはまだ開花できる状態にないことになります。しかし、現実には夏に開花しているのですから、その花芽は夏に分化したものではなく、前年に形成されて冬の休眠を経たものの、春の開花が遅れたと考えるのが合理的です。この仮説を検証するには、春の開花が終わった後に未開花の蕾が残っているかどうかを探せばよいのですが、そのような蕾の数はごく少ないはずなので、大変な仕事になりそうです。
ここまでは、サクラで分かっているように、花芽は前年の夏に形成され休眠するとの前提で考えてきました。しかし、四季咲きのバラは、花後の剪定で新しく伸び出した枝に次の開花が起こるようです。花芽の形成はいつでも起こり、休眠しないということです。フジやモクレンでも5月の開花の後に剪定をすれば二度目の開花が起こるかもしれません。これで開花が起これば、サクラの場合とは異なる狂い咲きを説明できます。何らかの要因によって茎頂がダメージを受けて側芽が伸び出すことがあれば、この枝に開花が起こるだろうということです。この仮説の検証は剪定をすればよいので容易です。もし、この仮説が正しければ、二度の開花の間には花成誘導と花芽生長の制御機構に違いがあることになるので、より難しい問題が発生します。
狂い咲きと一口に言っても、種によって様々です。キンカンでは1回目と2回目の開花の間隔が2か月と短いので開花の遅れが原因のようです。シモツケでは遅い時期の花は新梢に着くようですので新たな花芽形成と思われます。ミヤギノハギは春に萌芽して、9月に開花しますが、6月に少数の花が咲くことがあります。6月の開花はサクラで確立された説や上に述べた2つの仮説では説明できない開花です。現在のところ、その仕組みはよく分かりません。
よく分からないときは、「温暖化の影響でしょう」と言うと、もっともらしく議論を終わらせることができます。しかし、温暖化の何が、どうしたから、こうなったと言わなければ答になりません。様々な場面で頻繁に聞かれる「温暖化の影響でしょう」は便利で無意味な言葉です。
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「真夏に咲く藤の花」にお答えします。
植物の多くは、種ごとに開花する季節が決まっていますが、開花時期が2回以上あったり、季節外れの時期に開花したりすることがあります。園芸植物の中には年2回またはそれ以上開花する品種が作られているものが少なくありません。このような花は年2回またはそれ以上咲くのが正常で、二季咲きまたは四季咲きと呼ばれています。一方、本来は年1回だけ咲くものが時には季節外れの時期にも咲くことがあります。狂い咲きと呼ばれるもので、サクラの秋の開花がしばしばニュースになります。
ご質問の8月のフジの開花は、二季咲き品種のものなのか狂い咲きなのかをまず知りたいです。両者の明確な区別がよく分からないのですが、開花最盛期以外に少数の花が咲くことがあるというのが狂い咲きだろうと思います。本Q&Aコーナーの登録番号5005では、季節外れの夏にも咲くモクレンの話題が取り上げられています。この場合は、春の開花が多く、夏に咲く花は少数だということで、時には夏にも咲くことがある狂い咲きと見なされています。お気づきになったフジの場合はこの時期に咲いているのを見るのは初めてとのことですので、モクレンと似たような狂い咲きと思われます。私も、ヤエヤマブキ、ヤマブキ、キンカンなどで似たような季節外れの少数の狂い咲きを観察しています。このような多くの例から、狂い咲きは珍しいことではないと言えます。
狂い咲きの仕組みはサクラでよく調べられています。登録番号1104に詳しい説明がありますのでご覧ください。要約しますと、花芽は夏に分化しますが、これを休眠させるアブシジン酸を作る葉が台風による風害や害虫の食害などで失われると花芽は休眠に入れずに、秋から初冬に高温の日があれば開花してしまうことがあるというものです。
狂い咲きは、多くの場合、上述のように説明されています。しかし、今回のフジや上述のモクレンの夏の狂い咲きも同じように説明してよいかどうか疑問です。夏の開花は早過ぎるように思うのです。サクラの狂い咲きは秋から初冬にかけてでした。花芽はこの時期には十分生長して開花できる状態になっているということですが、言い換えれば、この時期になるまでは未熟で開花できないということです。フジやモクレンの花芽の形成時期や生長速度の詳細は分かりませんが、サクラと大差が無いと仮定すれば、夏にはまだ開花できる状態にないことになります。しかし、現実には夏に開花しているのですから、その花芽は夏に分化したものではなく、前年に形成されて冬の休眠を経たものの、春の開花が遅れたと考えるのが合理的です。この仮説を検証するには、春の開花が終わった後に未開花の蕾が残っているかどうかを探せばよいのですが、そのような蕾の数はごく少ないはずなので、大変な仕事になりそうです。
ここまでは、サクラで分かっているように、花芽は前年の夏に形成され休眠するとの前提で考えてきました。しかし、四季咲きのバラは、花後の剪定で新しく伸び出した枝に次の開花が起こるようです。花芽の形成はいつでも起こり、休眠しないということです。フジやモクレンでも5月の開花の後に剪定をすれば二度目の開花が起こるかもしれません。これで開花が起これば、サクラの場合とは異なる狂い咲きを説明できます。何らかの要因によって茎頂がダメージを受けて側芽が伸び出すことがあれば、この枝に開花が起こるだろうということです。この仮説の検証は剪定をすればよいので容易です。もし、この仮説が正しければ、二度の開花の間には花成誘導と花芽生長の制御機構に違いがあることになるので、より難しい問題が発生します。
狂い咲きと一口に言っても、種によって様々です。キンカンでは1回目と2回目の開花の間隔が2か月と短いので開花の遅れが原因のようです。シモツケでは遅い時期の花は新梢に着くようですので新たな花芽形成と思われます。ミヤギノハギは春に萌芽して、9月に開花しますが、6月に少数の花が咲くことがあります。6月の開花はサクラで確立された説や上に述べた2つの仮説では説明できない開花です。現在のところ、その仕組みはよく分かりません。
よく分からないときは、「温暖化の影響でしょう」と言うと、もっともらしく議論を終わらせることができます。しかし、温暖化の何が、どうしたから、こうなったと言わなければ答になりません。様々な場面で頻繁に聞かれる「温暖化の影響でしょう」は便利で無意味な言葉です。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-09-07