質問者:
会社員
ちゅんちゅん
登録番号6258
登録日:2025-09-07
植物の簡単な鉢植ぐらいしか育てていない素人です。最近近所の神社の植物の面倒をボランティアでする様になり、下草刈りなどしています。みんなのひろば
針葉樹の胴吹きが無理ならば、継ぎ木で枝が作れないか?
鎮守の森の木を切るのは御法度の雰囲気があります。大木が多いのですが、藤の蔓も成長し放題で、今年のゴールデンウィークに他のつた類も含めて、巻きついたものを思い切って切りました。それらがひと通り枯れると緑でうっそうとしていた林は、実は巻きついた蔓ばかりで、巻き付かれた木々はかなり弱っている事に気づきました。
ここで、ご質問です。針葉樹である槇などは、成長してしまった幹部からの胴吹きはほぼ期待出来ないと過去からのQ&Aにも記載されておりました。
槇の木は胸元直径で、30〜50cmぐらいの木々で、頭頂部のみに葉が付いている状態です。例えば、同じ木から採取した若い枝を幹に接木するというような大胆な実験をした結果を、どなたかお持ちだったりしないでしょうか?
この様な事が出来れば、松なども背の低い位置から、擬似的にひこばえさせることができるのではないかと思います。突拍子な質問で、申し訳ないのですが、お時間掛かっても問題ありませんので、ご回答いただければ幸いでございます。
ちゅんちゅん様
日本植物生理学会・みんなのひろば・植物Q&Aに質問をおよせくださり有難うございます。
鎮守の森のマキはイヌマキでしょうか。スギも混ざっているかもしれませんね。いずれにせよ、針葉樹が割合と高い密度で生育しているものと思われます。
胸高直径30~50 cmというのはかなり立派な森です。これらの高木も、もとは稚樹や若木で、側枝も沢山つけていた時期もあったことでしょう。少なくとも幹の上部には側枝の跡が見られるはずです。樹木上部の葉によって森が覆われてくる(林冠の閉鎖)と、上部から漏れてくる光は限られますので、側枝の光合成生産は減少し、やがて個体への光合成産物の輸出ができなくなります。このような時期になると、側枝の付け根は幹に巻き込まれるようになります(巻き込み)。樹木上部で得られた光合成産物は側枝には転流されません。側枝はリストラされ、枯れてしまいます。
樹木は高さを稼ぐことで他の植物との光をめぐる競争には勝つのですが、高さを稼ぐために大きな幹をもたざるを得ません。もちろん幹の大部分は死んだ細胞ですが、表面近くには生きている細胞も多いので、樹木、とくに大木では、光合成を行う葉の量に対する光合成をしない枝・幹・根の生きている細胞の量が大きくなります。個体全体の光合成量(総光合成量)から植物体全体の呼吸を引くと純生産が得られます。大木では、この呼吸の総生産に対する比率が70-80%にも上ります。純生産が十分にないと個体は生存できません。つる植物は、フジ、テイカカズラ、ツルアジサイ、イワガラミのような木本植物でも、高さを稼ぐために樹木を利用しています。細いつるをもつことで、高さを稼ぐためのコストを著しく減らすことができます。光は林冠にさえぎられて弱いけれども、葉を拡げて光合成によって個体全体をまかなうことができるのです。
したがって、林冠が閉じた森の高木に、接ぎ木によって側枝を作れたとしても、その枝は枯死する運命にあるというのが回答です。林学分野では、挿し木や接ぎ木は、学生実習の重要な課題となっていますので、これらの技術については専門家にたずねることが可能です。今回は、まずは生産生態学の観点から回答しました。
胴吹きやひこばえの光合成生産量については、登録番号6147もご覧ください。また、胴吹きやひこばえに関しては、みんなのひろば「植物Q&A」にいくつかのすぐれた回答があります。登録番号1928, 3844, 4399, 4508をご覧ください。
日本植物生理学会・みんなのひろば・植物Q&Aに質問をおよせくださり有難うございます。
鎮守の森のマキはイヌマキでしょうか。スギも混ざっているかもしれませんね。いずれにせよ、針葉樹が割合と高い密度で生育しているものと思われます。
胸高直径30~50 cmというのはかなり立派な森です。これらの高木も、もとは稚樹や若木で、側枝も沢山つけていた時期もあったことでしょう。少なくとも幹の上部には側枝の跡が見られるはずです。樹木上部の葉によって森が覆われてくる(林冠の閉鎖)と、上部から漏れてくる光は限られますので、側枝の光合成生産は減少し、やがて個体への光合成産物の輸出ができなくなります。このような時期になると、側枝の付け根は幹に巻き込まれるようになります(巻き込み)。樹木上部で得られた光合成産物は側枝には転流されません。側枝はリストラされ、枯れてしまいます。
樹木は高さを稼ぐことで他の植物との光をめぐる競争には勝つのですが、高さを稼ぐために大きな幹をもたざるを得ません。もちろん幹の大部分は死んだ細胞ですが、表面近くには生きている細胞も多いので、樹木、とくに大木では、光合成を行う葉の量に対する光合成をしない枝・幹・根の生きている細胞の量が大きくなります。個体全体の光合成量(総光合成量)から植物体全体の呼吸を引くと純生産が得られます。大木では、この呼吸の総生産に対する比率が70-80%にも上ります。純生産が十分にないと個体は生存できません。つる植物は、フジ、テイカカズラ、ツルアジサイ、イワガラミのような木本植物でも、高さを稼ぐために樹木を利用しています。細いつるをもつことで、高さを稼ぐためのコストを著しく減らすことができます。光は林冠にさえぎられて弱いけれども、葉を拡げて光合成によって個体全体をまかなうことができるのです。
したがって、林冠が閉じた森の高木に、接ぎ木によって側枝を作れたとしても、その枝は枯死する運命にあるというのが回答です。林学分野では、挿し木や接ぎ木は、学生実習の重要な課題となっていますので、これらの技術については専門家にたずねることが可能です。今回は、まずは生産生態学の観点から回答しました。
胴吹きやひこばえの光合成生産量については、登録番号6147もご覧ください。また、胴吹きやひこばえに関しては、みんなのひろば「植物Q&A」にいくつかのすぐれた回答があります。登録番号1928, 3844, 4399, 4508をご覧ください。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-10-13
