一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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スイカなどのウリ科植物に摘心が必要な理由について

質問者:   大学院生   アンガス
登録番号6260   登録日:2025-09-18
家庭菜園でスイカを育てています。
どの育て方マニュアルでも親ヅルをある程度伸ばしたら摘心して、子ヅルを伸ばしていくようにと書いてあります。
その方が良い果実がとれるからという理由はわかるのですが、なぜ親ヅルを摘心すると良い果実になるのかの作用機序がよくわかりません。


牛であれば、搾乳前に乳頭を刺激することでオキシトシンが分泌され、乳汁排出が促進されるので、やはり植物もホルモンによる影響なのでしょうか?

・親ヅルを摘心することで起こる良い果実になる作用機序
・親ヅル1本仕立てだと雌花がつかないのか

について、教えていただければ嬉しいです。
アンガス様、

こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「スイカなどのウリ科植物に摘心が必要な理由について」にお答えします。
実際のスイカ栽培についてはよく知りませんので、色々調べてみました。生産者や品種によって栽培方法は様々なようですが、基本的には、親蔓を摘芯して子蔓を4本前後出させて、各子蔓に果実を1個または2個着けるようです。このような摘心が必要な理由について生理学の立場から考察を試みてみます。
スイカは雌雄異花ですから必要な数の雌花を確保するために花の総数(雌花と雄花の合計数)を増やす必要があるのでしょう。親蔓(主茎)を摘芯すれば頂芽優勢が打破されて子蔓(側枝)が出ますので、複数の子蔓に花が着けば一株あたりの総花数が増えます。また、スイカでは一般に雌花は親蔓には着きにくく、子蔓にできやすいとのことです。親蔓1本では総花数も雌花の割合も不足なので、これらを増やすには子蔓を出させればよいことになります。これが、摘芯が必要な理由であろうと思います。
あれだけ大きな果実を育てるには多量の光合成産物が必要なので、それを供給する葉も多数必要で、1本の子蔓に着いている葉が育てうる果実(商品価値のある大きく甘い果実)の数は1個または2個が限度なのでしょう。また、一株が育てうる果実の数にも限度があるでしょうから、子蔓の数も4本前後が適当なのでしょう。実際の栽培では、こうして育てるべき子蔓の数と果実の数を計算して、摘芯や摘果をしているのだろうと思います。
牛の搾乳前の乳頭刺激によるオキシトシン分泌が乳汁排出を促進するということから、スイカの果実生長の調節に関心を持たれたのだと思います。しかし、摘芯で引き起こされるのは子蔓の発生であって、摘芯すること自体が直接に良い果実(大きく甘い果実)を作るわけではありませんから、乳頭刺激と乳汁排出の間にある因果関係を説明する作用機序のようなものは想定しにくいと思います。摘心することで起こる子蔓の発生についての作用機序ならば頂芽優勢として説明でき、詳しく解析されています。本Q&Aコーナーの登録番号2586, 4185, 4351などをご覧ください。頂芽優勢とその打破には数種の植物ホルモンが関与し、花の性決定や果実生長にも植物ホルモンが関与しますから、摘芯も植物ホルモンを介して雌花形成や果実生長に影響するとお考えかもしれませんが、摘芯で子蔓が伸び出せば、やがて子蔓の先端でまた頂芽優勢が発生しますから、親蔓の摘芯は子蔓での雌花形成や果実生長にまで影響することはないでしょう。
「親蔓1本仕立てだと雌花がつかないのか」と疑問を呈されていますが、上述のように、親蔓には雌花が着きにくいということです。摘芯の問題とは離れますが、これは気になる問題です。上述のように花の性決定は植物ホルモンの支配を受けるので、親蔓と子蔓で内生植物ホルモンの定量や関連遺伝子の発現などを調べれば雌花が着く頻度の制御機構について重要な知見が得られると思います。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-10-18