一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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光屈性の起源について

質問者:   高校生   ハル
登録番号6264   登録日:2025-10-01
授業で植物の屈性について学び、定義的には植物とされていない藻類(昆布など)が光屈性を示すのであれば植物の進化の歴史の中でいつ頃光屈性の仕組みを得たのかを知りたいと思いました。
質問内容
光屈性を得たと考えられている時期はいつなのか。
ハル 様

興味深い質問、ありがとうございます。本コーナーにも「光屈性」に関する記事がたくさんありますが、進化に関する質問はハルさんが初めてかと思います。植物の光屈性研究の第一人者である飯野盛利先生に回答をお願いしました。

【飯野先生の回答】

まず「光屈性」の定義ですが、植物などの器官が光の方向(太陽や光源の方向やより強い光が入射する方向)に応答して屈曲し、かつその屈曲の方向が光の方向に依存している生理現象を光屈性と呼んでいます。屈曲の方向としては、光の方向に屈曲する「正の光屈性」とその反対方向に屈曲する「負の光屈性」が知られています。葉の表面を光の方向に向けるなど、正と負では区別できない光屈性もあります。光屈性は、種子植物、シダ植物、コケ植物、藻類(藻類も植物です)で、さらにはカビ類の胞子嚢柄でも、観察されています。また、植物の光屈性は多細胞の器官のみならず、単細胞(一部の藻類、シダ植物の原糸体など)にも見られます。

※長谷注※
「植物」の定義がゆれている点については、本コーナーの登録番号2768の回答を参照ください。

さて、質問の趣旨が陸上植物はいつ光屈性という生理現象を獲得したかということでしたら、現存する多様な植物種で観測されることから、植物が誕生した初期段階にはすでに光屈性を獲得していたと考えられます。一方、質問の趣旨が陸上植物で見られる多様な光屈性の遺伝的起源に関することでしたら、ほとんど研究されておらず、それに関する知見も少なく、明確なことは言えない状況です。以下、少し考察してみます。

まずは、藻類などの単細胞でみられる光屈性と種子植物の多細胞器官でみられる光屈性は、屈曲のメカニズムが根本的に異なるので、同起源とは考え難いです。

種子植物の光屈性を考えると、双子葉植物では、胚軸、茎、葉、および根において、単子葉植物では、幼葉鞘(イネ科植物のみがもつ)と葉において光屈性が観察されています。一般に、胚軸、茎、幼葉鞘、単子葉植物の葉は正の光屈性を、根は負の光屈性を示します。胚軸と茎の光屈性(青色光が最も有効で、特にフォトトロピンが光受容体であることが遺伝的に証明されたもの)は類似点が多く、遺伝的に同一起源であると考えて良いでしょう。また、双子葉植物胚軸とイネ科植物幼葉鞘の光屈性の光受容から屈曲反応に至るメカニズムも極めて類似していることが明らかになっていて、同一起源である可能性が高いです。

根の光屈性ですが、フォトトロピンを光受容体とするものは、地上部器官の光屈性と同一起源である可能性が考えられますが、別起源である可能性も否定できません。なお、実験室レベルでは、フィトクロムを光受容体とする光屈性の存在も芽生えの地上部で示されていますが、フォトトロピンを光受容体とする主要な光屈性とは別起源でしょう。また、シダ植物の原糸体に見られ、フィトクロムが光受容体であることが示された光屈性もフォトトロピンを光受容体とする光屈性とは別起源でしょう。

さて、種子植物の光屈性(フォトトロピンを光受容体とする主要な光屈性)の起源はどの植物まで遡れるか。興味深い研究課題ですね。シダ植物の葉に見られる光屈性は、私の知る限りほとんど研究されていませんが、種子植物の地上部器官の光屈性の起源は、少なくともこの器官にあるのではないかと推測しています。また、種子植物の地上部器官と根の光屈性が同一起源かを論じるにあたっても、シダ植物の根が負の光屈性を示すかどうかも興味がもたれます。高校生でも挑戦できる研究課題でしょう。
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飯野 盛利(大阪公立大学 名誉教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
長谷 あきら
回答日:2025-10-21