質問者:
高校生
おちゃちゃ
登録番号6271
登録日:2025-10-12
こんにちは。みんなのひろば
紅色硫黄細菌はなぜ水を電子供与体にできないのか
高校の生物の授業で、植物の光合成の仕組みを習いました。そのなかで、明反応では光化学系を二つ使い、片方(光化学系Ⅱ)が光Eを受け取った後に水を分解し、もう片方(光化学系Ⅰ)が光EをNADPの還元に用いることを習いました。そして光化学系Ⅱが水を分解するのは光化学系Ⅱの反応中心クロロフィルが光Eを受け取り励起状態になった際に水から電子を奪って基底状態に戻る為ということを学習しました。
これとは別に、光合成細菌についても学習し、紅色硫黄細菌は光化学系Ⅱに相当する系1つしか持っていないため水を分解できないという記述を資料集にて読みました。
そこで質問なのですが、なぜ紅色硫黄細菌は光化学系Ⅱに相当する系を持っているのに水を分解できないのでしょうか?光化学系Ⅱが励起されると自分より還元力が強い水から電子を奪えるのならば、光化学系Ⅱを持つ紅色硫黄細菌においても光Eを受けて水を分解することは可能なのではないかと疑問に思いました。
なにか私が理解/解釈を誤っている点があったら申し訳ないです。回答よろしくお願いします。
おちゃちゃ さま
みんなのひろば、植物Q&Aに質問をお寄せくださりありがとうございます。
光合成の反応式は、高校生物の教科書等では以下のように示されています。
植物
6CO2 + 12H2O → C6H12O6 (有機物)+ 6H2O + 6O2 (高校生物教科書)
光合成細菌(H2Sを利用するのは紅色硫黄細菌と緑色硫黄細菌)
6CO2 + 12H2S → C6H12O6 (有機物)+ 6H2O + 6S (高校生物資料集)
これらの反応式は、100を優に超える光合成の過程を、わかりやすく簡潔にまとめたものです。反応式だけを見ると、紅色硫黄細菌ではH2Oの代わりにH2Sを使っているように思えますが、H2Sの酸化は光合成とは別のプロセスです(光化学反応中心で酸化されるわけではありません)。
すべての種で関与するタンパク質(酵素)がわかっているわけではありませんが、一部の種では、原形質膜に結合しているフラボシトクロムc(flavocytochrome c;リボフラビンを結合しているタンパク質とシトクロムcを2個結合しているタンパク質のダイマー)がH2Sを酸化することがわかっています。H2Sから引き抜かれた電子は、細胞質内のシトクロム等の電子伝達体を経て、反応中心まで伝達されます。また、SQR(sulfide:quinone oxidoreductase)と呼ばれるタンパク質もH2Sの酸化に関与することも報告されています。
紅色光合成細菌(紅色硫黄細菌と紅色非硫黄細菌)の光化学系は、植物の光化学系Ⅱに相同なタイプ2です(緑色光合成細菌の光化学系は植物の光化学系Ⅰに相同なタイプ1)。しかし、光エネルギーを補足する光合成色素(集光性色素、アンテナ色素)はクロロフィルではなく、バクテリオクロロフィルです。クロロフィルは680 nm近辺の赤色光を吸収するのに対し、バクテリオクロロフィルは700 nm以上の近赤外線を吸収します。吸収する光の波長が長いと光エネルギーは弱くなるので、光合成細菌は弱い光エネルギーを利用できるように適応したと考えられます。光合成細菌の反応中心を構成しているのも、クロロフィルではなくバクテイロクロロフィルです。反応中心の酸化還元電位は、光化学系Ⅱ反応中心(P680)が+ 1.1~1.2 Vと強い酸化力をもつのに対し、紅色細菌Rhodobacter sphaeroidesの反応中心(P870)では+0.5 Vです(光化学系Ⅰ反応中心P700の酸化還元電位も+ 0.5 V)。光合成細菌が水を電子供与体にできないというより、光化学系Ⅱ反応中心が、H2Oを酸化できる強い酸化力を獲得したと考えるのが妥当でしょう。
以上のように、「紅色硫黄細菌は光化学系Ⅱに相当する系1つしか持っていないため水を分解できないという記述」は誤りです。
なお、光合成におけるクロロフィルの役割については、登録番号2477を参照してください。
みんなのひろば、植物Q&Aに質問をお寄せくださりありがとうございます。
光合成の反応式は、高校生物の教科書等では以下のように示されています。
植物
6CO2 + 12H2O → C6H12O6 (有機物)+ 6H2O + 6O2 (高校生物教科書)
光合成細菌(H2Sを利用するのは紅色硫黄細菌と緑色硫黄細菌)
6CO2 + 12H2S → C6H12O6 (有機物)+ 6H2O + 6S (高校生物資料集)
これらの反応式は、100を優に超える光合成の過程を、わかりやすく簡潔にまとめたものです。反応式だけを見ると、紅色硫黄細菌ではH2Oの代わりにH2Sを使っているように思えますが、H2Sの酸化は光合成とは別のプロセスです(光化学反応中心で酸化されるわけではありません)。
すべての種で関与するタンパク質(酵素)がわかっているわけではありませんが、一部の種では、原形質膜に結合しているフラボシトクロムc(flavocytochrome c;リボフラビンを結合しているタンパク質とシトクロムcを2個結合しているタンパク質のダイマー)がH2Sを酸化することがわかっています。H2Sから引き抜かれた電子は、細胞質内のシトクロム等の電子伝達体を経て、反応中心まで伝達されます。また、SQR(sulfide:quinone oxidoreductase)と呼ばれるタンパク質もH2Sの酸化に関与することも報告されています。
紅色光合成細菌(紅色硫黄細菌と紅色非硫黄細菌)の光化学系は、植物の光化学系Ⅱに相同なタイプ2です(緑色光合成細菌の光化学系は植物の光化学系Ⅰに相同なタイプ1)。しかし、光エネルギーを補足する光合成色素(集光性色素、アンテナ色素)はクロロフィルではなく、バクテリオクロロフィルです。クロロフィルは680 nm近辺の赤色光を吸収するのに対し、バクテリオクロロフィルは700 nm以上の近赤外線を吸収します。吸収する光の波長が長いと光エネルギーは弱くなるので、光合成細菌は弱い光エネルギーを利用できるように適応したと考えられます。光合成細菌の反応中心を構成しているのも、クロロフィルではなくバクテイロクロロフィルです。反応中心の酸化還元電位は、光化学系Ⅱ反応中心(P680)が+ 1.1~1.2 Vと強い酸化力をもつのに対し、紅色細菌Rhodobacter sphaeroidesの反応中心(P870)では+0.5 Vです(光化学系Ⅰ反応中心P700の酸化還元電位も+ 0.5 V)。光合成細菌が水を電子供与体にできないというより、光化学系Ⅱ反応中心が、H2Oを酸化できる強い酸化力を獲得したと考えるのが妥当でしょう。
以上のように、「紅色硫黄細菌は光化学系Ⅱに相当する系1つしか持っていないため水を分解できないという記述」は誤りです。
なお、光合成におけるクロロフィルの役割については、登録番号2477を参照してください。
宮尾 光恵(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-10-14
