一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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カラタチの棘について

質問者:   高校生   sudachi3
登録番号6273   登録日:2025-10-15
ミカン科植物の棘が茎針であるか葉針であるか葉序以外の視点で新たな裏付けができないかと模索して複数のカラタチの棘の断面を観察していた時に疑問に思ったことがあった為質問させていただきます。通常表皮細胞は単層であるのが一般であると思っていましたが表皮細胞の厚みが側によって明らかに違うことに違和感を感じ、高倍率で確認すると数層の細胞からなっているように見えました。以前他の方が質問されていたページに表記されている表皮細胞の葉の表と裏の厚みの違いについての内容を読ませていただいたのですがブナ科植物の一部には多層表皮を持つ植物があるということでした。カラタチの棘も多層表皮を持っている可能性があると解釈して良いのでしょうか。画像等を見ていただける訳ではないので明確な回答は難しいかもしれませんが、ご意見を頂けると幸いです。
sudachi3 様

日本植物生理学会みんなのひろば「植物Q&A」に質問をおよせくださり有難うございます。また、顕微鏡観察のスケッチもお送りくださり、有難うございます。今回は、研究のかたわら植物の顕微鏡写真のサイト(https://x.com/plantbymicro)を運営しておいでの、京都大学大学院農学研究科・日本学術振興会特別研究員の加藤優太博士と共同で回答します。以下の写真はすべて加藤さんが撮られたものです。

手近なところに、スダチがありましたので観察しました。

sudachi3さんのスケッチと我々の観察を合わせて考えると、一番高い可能性としては、老化した刺において切断時に脆くなった皮層の細胞が崩れることで、表皮が剥がれ、皮層組織の柔細胞が露出した結果、部分的に多層の表皮細胞に見えたのではないか、と推測しました。

若い時(緑)は縁がなだらかで、ワックス層が周縁部に確認できます。

一方で老化した刺を切断して観察すると、表皮は大半が剥がれおち、皮層細胞が疎らに残ることで、頂いたスケッチのように部分的な盛り上がりがあるように見えます。

ただ、ミカン科の刺が本当に多層表皮をもつかという点に関しては、可能性はあるかもしれないとも思いました。若い時の刺の表皮付近を拡大して見るとぶ厚いワックス層の下に薄い表皮細胞ともう一層葉緑体がほとんど発達しないように見える細胞も確認できます。これが表皮細胞由来の細胞層なのか、単に葉緑体の発達の乏しい皮層組織の柔細胞なのかは、単純な観察だけでは判断が難しいです。

多層表皮については、登録番号1331もぜひご参考ください。

ただ登録番号1331には第3段落に間違いがあります。サイトではすぐに訂正しますが、以下の()内が正しい記載です。

乾燥条件で展開した葉の表皮細胞どうしの境界は波状にくい込みますが、湿潤な条件では細胞はお互いにくいこまず境界はすなおな線になります(èこれは逆です。乾燥条件の方が食い込みが少ないです。また、陽葉と陰葉を比べると陽葉の方が食い込みが少ないです。)。表側表皮と裏側表皮を比べると表側の方がよりくい込む傾向にあります(èこれも逆で、裏側表皮の方が食い込みが顕著です)。

最後になりますが、今回sudachi3さんが観察したカラタチの実物は見ていないので、上記の推測は間違っている可能性もありますし、今回は詳細に書かなかったメロンの網目に生じるようなコルク層の発達の可能性もあると思います。引き続き、ぜひともご自身で観察を続けられて、元もとの観察目的である刺がどの器官に由来するのか、とげがどのように発達するのか等への理解を深めて貰えればと思います。まだふにゃふにゃした若い時期ならばきれいな切片が得られると思います。

加藤 優太(京都大学大学院農学研究科・日本学術振興会特別研究員)
JSPPサイエンスアドバイザー
寺島 一郎
回答日:2025-11-20