質問者:
会社員
ハナタケ
登録番号6276
登録日:2025-10-31
こんにちは。いつも参考にさせていただいております。植物が生成する薬効成分が自身へ作用することをどのように防ぐのか?
植物の中には植物に対して効果のある物質を作るものがいます。具体例でいうとコーヒーはカフェインを生成しますが、カフェインには細胞版形成を阻害する効果があります。自然界でコーヒーが優位に生育するためのアレロパシー物質としてカフェインを活用しているんだろうなと想像しています。
さて、ここからが私の疑問です。
カフェインはコーヒー自身の細胞分裂を阻害していません。生豆を種蒔きすれば発芽して生育することから明らかです。では、なぜコーヒーは自身のカフェインの影響を受けないのでしょう?コーヒーの細胞は多核体を作るというのは調べても見当たりませんでした。
よろしくお願いします。
ハナタケ様
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
ご存知のように、多くの植物は外敵からの防御、他の植物(異種)との競争のためにある種の有毒物質を生産し、また放出します。このような現象をアレロパシー(他感作用)といい、その物質をアレロケミカルといいます。アレロケミカルは植物の成長には阻害的に働くものです。ではなぜ自家中毒(autotoxicity)を起こさないかというと,それを避けるメカニズムをそれぞれに備えているからです。そのメカニズムは植物の種類によって多様です。アレロケミカルは植物にとって2次代謝産物です。最も一般的な場合は主に細胞内の液胞に、例えば他の物質と結合して無毒(不活性)化されて蓄積されているか、細胞内で他の化合物と結合して(例えば糖類など)無毒な形で存在するが、外敵によって細胞が傷つくとアレロケミカルは遊離する。あるいは、アレロケミカルを特別な膜輸送体によって体内の自家中毒に過敏な箇所から取り除く。あるいは、アレロケミカルが作られるのは、発生/成長のある時期だけであるとか、影響を受ける組織とアレロケミカルが作られる組織とは離れている。あるいは、植物はなんらかの生理的な適応によってそのアレロケミカルへの耐性を獲得している。等々。
さて、おたずねのコーヒー豆にあるカフェインの場合についてはどうでしょうか。カフェインはご質問にもあるように細胞分裂の過程にさまざまな負の影響をもたらします。その影響の仕方はカフェインの濃度にもよりますし、細胞の種類にもよります。ここではこれらのことについては説明を省き、コーヒー植物がカフェインの自家中毒にかからないのはなぜかを説明します。その理由についてはネット上で色々説明があるようですが、実験的に証明しようとした論文(*)が1つ見つかりましたので、紹介します。
まず、コーヒー豆を10mM濃度程度のカフェイン溶液中で吸水させて発芽させると、幼根の成長(細胞分裂は根の先端で起きる)が抑制され、体細胞分裂と細胞板の形成が抑制された。つまり染色体の倍数化が起きた。一方、種子の中で胚が埋没している胚乳(発芽時の栄養分)は、吸水すると40〜60mMという高濃度のカフェインが含まれている。10mMという低い濃度でも胚の成長(発芽)には阻害的なので、カフェイン濃度が高い胚乳の中では胚は成長を開始することはできないはずである。やはり、発芽(幼芽の成長)はなにかの仕組みによって自家中毒から守られていることは確かである。
そこで、発芽の進行の様子を詳しく観察してみると、幼根の先端で細胞分裂が起きるのは、幼根がカフェインの多い胚乳から外に押し出された後であること、そして幼根を押し出すのは下胚軸(根と子葉を繋ぐ茎の第一節間となる)の伸長であることが分かった。下胚軸の伸長は個々の細胞の伸長だけで起こり、細胞分裂は関与しないので、カフェインの影響は受けない。 他方、胚の子葉にもカフェインは含まれるが、このカフェインは子葉組織での細胞分裂が終わってしまってから、胚乳組織から流入する。
以上のことから、コーヒーの胚の成長(発芽)に際しては、細胞分裂が起きる場所とカフェインが作られる場所とが離れている。幼根では空間的に、子葉では時間的に隔離されているということになります。ふつうのコーヒーの植物体がカフェインの作用で倍数体になっていることはありません。いわば、物理的な隔離というメカニズムで自家中毒を回避していると言えましょう。
*J.Friedman and G.H.Waller Caffeine hazards and their prevension in germinating seeds of coffee(Coffea arabica L.) Journal of Chemical Ecology, 9:1099~1106(1983)
(NETでみられます。)
なお、アレロパシーについては本コーナーで沢山の質問が記載されていますので、「アレロパシー」で検索してください。その中で下記の3つは 「自家中毒」についても触れています。
・セイタカアワダチソウのアレロパシーと自家中毒について:登録番号4688
・植物のアレロパシーについて:登録番号3703
・植物の危機管理システムについて:登録番号0735
また、植物の自家中毒のことは、『植物はなぜ薬を作るのか』斎藤和季、文春新書(2017)の第5章 植物の2次代謝と進化の仕組みの中の「植物はなぜ、自ら作る毒に耐えれるのか?」にも色々な例が紹介さていますので、読んでみてください。
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
ご存知のように、多くの植物は外敵からの防御、他の植物(異種)との競争のためにある種の有毒物質を生産し、また放出します。このような現象をアレロパシー(他感作用)といい、その物質をアレロケミカルといいます。アレロケミカルは植物の成長には阻害的に働くものです。ではなぜ自家中毒(autotoxicity)を起こさないかというと,それを避けるメカニズムをそれぞれに備えているからです。そのメカニズムは植物の種類によって多様です。アレロケミカルは植物にとって2次代謝産物です。最も一般的な場合は主に細胞内の液胞に、例えば他の物質と結合して無毒(不活性)化されて蓄積されているか、細胞内で他の化合物と結合して(例えば糖類など)無毒な形で存在するが、外敵によって細胞が傷つくとアレロケミカルは遊離する。あるいは、アレロケミカルを特別な膜輸送体によって体内の自家中毒に過敏な箇所から取り除く。あるいは、アレロケミカルが作られるのは、発生/成長のある時期だけであるとか、影響を受ける組織とアレロケミカルが作られる組織とは離れている。あるいは、植物はなんらかの生理的な適応によってそのアレロケミカルへの耐性を獲得している。等々。
さて、おたずねのコーヒー豆にあるカフェインの場合についてはどうでしょうか。カフェインはご質問にもあるように細胞分裂の過程にさまざまな負の影響をもたらします。その影響の仕方はカフェインの濃度にもよりますし、細胞の種類にもよります。ここではこれらのことについては説明を省き、コーヒー植物がカフェインの自家中毒にかからないのはなぜかを説明します。その理由についてはネット上で色々説明があるようですが、実験的に証明しようとした論文(*)が1つ見つかりましたので、紹介します。
まず、コーヒー豆を10mM濃度程度のカフェイン溶液中で吸水させて発芽させると、幼根の成長(細胞分裂は根の先端で起きる)が抑制され、体細胞分裂と細胞板の形成が抑制された。つまり染色体の倍数化が起きた。一方、種子の中で胚が埋没している胚乳(発芽時の栄養分)は、吸水すると40〜60mMという高濃度のカフェインが含まれている。10mMという低い濃度でも胚の成長(発芽)には阻害的なので、カフェイン濃度が高い胚乳の中では胚は成長を開始することはできないはずである。やはり、発芽(幼芽の成長)はなにかの仕組みによって自家中毒から守られていることは確かである。
そこで、発芽の進行の様子を詳しく観察してみると、幼根の先端で細胞分裂が起きるのは、幼根がカフェインの多い胚乳から外に押し出された後であること、そして幼根を押し出すのは下胚軸(根と子葉を繋ぐ茎の第一節間となる)の伸長であることが分かった。下胚軸の伸長は個々の細胞の伸長だけで起こり、細胞分裂は関与しないので、カフェインの影響は受けない。 他方、胚の子葉にもカフェインは含まれるが、このカフェインは子葉組織での細胞分裂が終わってしまってから、胚乳組織から流入する。
以上のことから、コーヒーの胚の成長(発芽)に際しては、細胞分裂が起きる場所とカフェインが作られる場所とが離れている。幼根では空間的に、子葉では時間的に隔離されているということになります。ふつうのコーヒーの植物体がカフェインの作用で倍数体になっていることはありません。いわば、物理的な隔離というメカニズムで自家中毒を回避していると言えましょう。
*J.Friedman and G.H.Waller Caffeine hazards and their prevension in germinating seeds of coffee(Coffea arabica L.) Journal of Chemical Ecology, 9:1099~1106(1983)
(NETでみられます。)
なお、アレロパシーについては本コーナーで沢山の質問が記載されていますので、「アレロパシー」で検索してください。その中で下記の3つは 「自家中毒」についても触れています。
・セイタカアワダチソウのアレロパシーと自家中毒について:登録番号4688
・植物のアレロパシーについて:登録番号3703
・植物の危機管理システムについて:登録番号0735
また、植物の自家中毒のことは、『植物はなぜ薬を作るのか』斎藤和季、文春新書(2017)の第5章 植物の2次代謝と進化の仕組みの中の「植物はなぜ、自ら作る毒に耐えれるのか?」にも色々な例が紹介さていますので、読んでみてください。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-11-07
