一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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花が咲く時の栄養素について

質問者:   一般   月花
登録番号6280   登録日:2025-11-10
花が咲く前から、咲くときに使われている栄養素について知りたいです。
主にバラについて。
蕾にはカリウムの欲求が高くなると本で読みましたが、その他どんな栄養素が使われているのか知りたいです。
微量要素もけっこう使われているのか?よろしくお願いします
月花さま

みんなのひろば、植物Q&Aに質問をお寄せくださりありがとうございます。

ご質問の「花が咲く前から、咲くとき」は、花芽(はなめ、かが)ができて開花するまで、として回答します。蕾が開く過程に必要な栄養については、過去の回答(登録番号1004)を参照してください。

植物の生育には、さまざまな無機栄養素が必要です。肥料三要素である、窒素、リン酸、カリウムに加え、カルシウム、マグネシウムなどの多量必須元素、鉄、マンガンなどの微量必須元素が必要です。
*これらの栄養素はすべて、植物細胞の構築と細胞内での生理反応に必要です。*
つまり、葉も根も花も、これらの栄養素を必要とします。農業では、窒素は葉肥(はごえ)、リン酸は実肥(みごえ)・花肥(はなごえ)、カリウムは根肥(ねごえ)と言われていますが、葉だけが窒素を、根だけがカリウムを必要とするわけではありません(登録番号2010参照)。

[リン酸]
リン酸が実肥・花肥と呼ばれるのは、植物の成長が栄養成長から生殖成長に転換し、花を咲かせる(花芽が形成され、花の各器官が発達し、開花する)とき、リン酸の要求性が高まるからです。リン酸は、ATP、核酸(DNAとRNA)、生体膜を構成するリン脂質などの重要な化合物の構成成分です。また、光合成、解糖系等、さまざまな代謝経路では、糖にリン酸が結合した糖リン酸が代謝中間体として使われています。

細胞分裂が活発な成長点(茎や根の先端、および、花芽)では、分裂のためのエネルギーとしてATPが多く消費されます。ATPは、他の器官から送られてきた糖を呼吸(解糖系とクエン酸回路)で分解する過程で産生されます。加えて、細胞分裂にともなって核酸であるDNAの量も倍加するので、リン酸の要求量が大きくなります。

ご質問にあったバラですが、市販のバラ用の化成肥料では、窒素:リン酸:カリウムの比が10:13:6でリン酸が多め、カリウムが少なめです。バラの追肥に使う、花・野菜用の液肥(ハイポネックス)では6:10:5でリン酸が多めです。花をたくさん咲かせるにはリン酸を多めに与える必要がある、ということでしょう。

「蕾にはカリウムの欲求が高くなる」?
カリウムは、細胞内の浸透圧やpHの調節に関わっています。また、40以上の酵素の反応に関わっています。当然、すべての細胞には高濃度のカリウム(実際はカリウムイオン)が含まれています。また、気孔の開閉にも関わっており、光合成にも影響を与えます。

細胞内のカリウムイオンは、主に細胞質と液胞に含まれており、細胞質のカリウムイオンの濃度は100mM程度に維持されています。液胞はカリウムの貯蔵器官としての働きをもち、カリウムの供給が多いと液胞内にカリウムイオンを蓄積し、細胞質のカリウムが不足するとカリウムイオンを細胞質に放出します。

カリウムが欠乏すると花芽形成や蕾の発達が抑えられる、という論文が多数公表されています。しかし、蕾のみがカリウムを必要とするわけではなく、カリウム欠乏で葉の発達が抑えられる、根からの水の吸収が抑えられる等、蕾以外の原因が多いようです。

蕾自体のカリウム要求性を考えるに当たって、蕾の発達過程をみてみましょう。まず花芽が形成され、花の各器官[花びら(花弁)、がく、雄しべ、雌しべ]が分化し、細胞分裂で細胞数が増え、それぞれの細胞が伸長・肥大していきます(「花が咲く原理」、登録番号5060参照)。細胞が大きくなると、細胞内のカリウムイオンの量が増えるため、蕾全体のカリウム量も増えます。何らかの原因で蕾に供給されるカリウムが足りなくなると、細胞の働きが阻害され、蕾の発達が抑えられると予想されます。

残念ながら、昔話の花咲か爺さんの灰のような、花芽の形成を引き起こす無機栄養素は存在しません。一方、植物は、条件が整うと、花芽の形成を促す植物ホルモン「フロリゲン」を自ら合成します。フロリゲンに関しては、植物Q&Aの過去の回答をご覧下さい(フロリゲンで検索してください)。
宮尾 光恵(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-11-25