質問者:
一般
だだ
登録番号6293
登録日:2025-12-22
樹上着生シダ類のシノブは、根茎を樹幹に張り巡らせて生育しています。シノブの根茎は「気根」であり、それで空気中の水分を得ている、と書かれた園芸記事(「しのぶ玉」の解説等)を散見するのですが、図鑑等においてはシノブの根茎を気根であると明記したものが見つかりませんでした。実際の着生のようすはツルアジサイなどにそっくりで、確かに気根の印象は強いのですが。鱗片に覆われたシノブが、その根茎で空気中の水分を得ているという実証はなされているのでしょうか。「しのぶ玉」を放置していても枯れないことがその実証だ、という意見も耳にしたことがあるのですが。ご回答よろしくお願い申し上げます。
みんなのひろば
シノブの根茎は気根と呼んでもよいものですか
だださま
日本植物生理学会・みんなのひろば・「植物Q&A」に質問をおよせくださり有難うございます。
器官学の立場でいうと、樹上を這っているのは茎ですから「気根」と呼ぶのは間違いです。匍匐茎、根茎、と呼ぶのが正しいです(熊沢正夫 植物器官学 裳華房 など)。岩波生物学辞典(第5版)の「気根」には、「空気中にある根の総称。地上の茎から出る不定根と地中から上向きに伸びて地上に出る根がある。」とあります。水の表面に飛び出している気根もありますので、地中から水中をへて空気中に出る場合もあるということになります。これらをすべて気根とよびます。シノブ類の根は匍匐茎(根茎)から出ているひげ根状のもので、匍匐茎の付着やよじのぼりを助ける「よじのぼり根、攀縁根、付着根」です。これは空気中にありますから「気根」とよんで差し支えありません。
Tsutsumi and Kato (2008) によりますと、シノブの根茎の鱗片は柄のある盾状のものです(この論文の写真をトレースした図を参照ください)。表面についた水滴を毛管力で狭い隙間によびこんで吸収することが可能な構造です。この構造はたとえばパイナップル科でエアープラントとして知られているTillandsia属の葉の盾状鱗片などにもよく似ています。Tillandsiaでは、放射性同位体でラベルしたアミノ酸溶液を葉面におくと、盾状鱗片の柄の基部でアミノ酸が吸収されることが証明されています(Benzingら 1976)。また、気温が露点に達しないような場合にも吸湿剤が吸水するようなメカニズムで水をいわば能動的に吸収することも提唱されています。それを裏付けるように、電子顕微鏡写真をみると柄の基部の細胞に多くのミトコンドリアが見られます。最近、Tillandsiaで、多くの盾状鱗片の協働により吸水や水の移動が可能であることも証明されました(Lian et al. 2025)。このような吸水はシノブでは実証されてはいませんが、Kato and Tsutsumi (2013) ではその可能性は十分あると議論しています。
熊沢正夫(1979)植物器官学 裳華房
Tsutsumi C and Kato M (2008) Morphology and evolution of epiphytic Davalliaceae scales. Botany 86: 1393-1403.
Benzing DH et al. (1976) The absorptive capacities of bromeliad trichomes. Amer J Bot 63: 1009-1014.
Kato M and Tsutsumi C (2013) Evolution of epiphyticsm in ferns and lycophytes with an emphasis on Davalliaceae. Acta Phytotax Geobot 64: 159-177.
Lian J et al. (2025) Directional water navigation and reallocation in Tillandia capitata. Proc Natl Acad Sci USA 122: e2421589122.
日本植物生理学会・みんなのひろば・「植物Q&A」に質問をおよせくださり有難うございます。
器官学の立場でいうと、樹上を這っているのは茎ですから「気根」と呼ぶのは間違いです。匍匐茎、根茎、と呼ぶのが正しいです(熊沢正夫 植物器官学 裳華房 など)。岩波生物学辞典(第5版)の「気根」には、「空気中にある根の総称。地上の茎から出る不定根と地中から上向きに伸びて地上に出る根がある。」とあります。水の表面に飛び出している気根もありますので、地中から水中をへて空気中に出る場合もあるということになります。これらをすべて気根とよびます。シノブ類の根は匍匐茎(根茎)から出ているひげ根状のもので、匍匐茎の付着やよじのぼりを助ける「よじのぼり根、攀縁根、付着根」です。これは空気中にありますから「気根」とよんで差し支えありません。
Tsutsumi and Kato (2008) によりますと、シノブの根茎の鱗片は柄のある盾状のものです(この論文の写真をトレースした図を参照ください)。表面についた水滴を毛管力で狭い隙間によびこんで吸収することが可能な構造です。この構造はたとえばパイナップル科でエアープラントとして知られているTillandsia属の葉の盾状鱗片などにもよく似ています。Tillandsiaでは、放射性同位体でラベルしたアミノ酸溶液を葉面におくと、盾状鱗片の柄の基部でアミノ酸が吸収されることが証明されています(Benzingら 1976)。また、気温が露点に達しないような場合にも吸湿剤が吸水するようなメカニズムで水をいわば能動的に吸収することも提唱されています。それを裏付けるように、電子顕微鏡写真をみると柄の基部の細胞に多くのミトコンドリアが見られます。最近、Tillandsiaで、多くの盾状鱗片の協働により吸水や水の移動が可能であることも証明されました(Lian et al. 2025)。このような吸水はシノブでは実証されてはいませんが、Kato and Tsutsumi (2013) ではその可能性は十分あると議論しています。
熊沢正夫(1979)植物器官学 裳華房
Tsutsumi C and Kato M (2008) Morphology and evolution of epiphytic Davalliaceae scales. Botany 86: 1393-1403.
Benzing DH et al. (1976) The absorptive capacities of bromeliad trichomes. Amer J Bot 63: 1009-1014.
Kato M and Tsutsumi C (2013) Evolution of epiphyticsm in ferns and lycophytes with an emphasis on Davalliaceae. Acta Phytotax Geobot 64: 159-177.
Lian J et al. (2025) Directional water navigation and reallocation in Tillandia capitata. Proc Natl Acad Sci USA 122: e2421589122.
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2026-01-13

