一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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森林限界には空気の薄さも関係しているのでしょうか

質問者:   高校生   Everyman
登録番号6307   登録日:2026-03-01
高校一年生です。森林限界について質問です。
先日生物基礎の授業で森林限界について勉強しました。
標高が高くなるにつれ、気温や湿度が低下し、木が成長できなくなる境界線だと教わりました。
しかしここで、空気の薄さは植物の生育に関係しているのかどうか疑問に思いました。標高が高い地域で酸素量が減り、植生に影響を及ぼすことはあるのでしょうか。
Everyman様

日本植物生理学会・みんなのひろば「植物Q&A」に質問をお寄せくださりありがとうございます。

標高は高くなると気圧が低くなります。しかし、気圧が低くなってもガスの組成はあまり変わりません。たとえばCO2の分子量は44で、N2は28なので高度が高くなるほどN2が相対的に多くなるような気もします。しかし、実は、エベレスト山の山頂でも相対比はほとんど変化しません。

水にとけるガス分子はその分圧に比例します。分圧は気圧に組成比をかけたものと考えてください。組成は変わらないけれども気圧は低下しますので、高山にいくほど葉緑体の基質部分(ストロマ)に溶けているCO2ガスの濃度は下がることになります。光合成は大丈夫なのでしょうか?実は大部分の植物の光合成はO2によって邪魔をされています。O2は葉緑体の祖先ともいえるシアノバクテリアなどが水を分解する酸素発生型の光合成を始めてから大気に蓄積しました。ですから、光合成生物は祖先の活動によって首を絞められていることになります。高山ではCO2分圧が低いのですが、邪魔をするO2の分圧も低くなるので、それほど光合成は影響されません。とくに気温が低い場合はそうです。また、植生がもっとも高い標高にまで発達する低緯度地域の高山でも、植物の生育する高さですと、気圧は地表の5割以上はあります。したがって、水浸しの状態などを除いた通常の条件で酸欠になることはないと思われます。

Terashima I, et al. (1995) Is photosynthesis suppressed at higher elevations due to low CO2 pressure? Ecology 76: 2663-2668. どなたでもダウンロードできます(https://www.jstor.org/stable/2265838)。

森林限界について興味を持っておられるのは素晴らしいです。どうして樹木が生育できない場所にも多年生の草本は生育できるのでしょうか?この問題にはまだ「スカッ」とする答えはないと思います。

太古の環境についても知見が蓄積しています。地球の植生がどのように変化してきたのか、そして地球環境が激変している現在から近未来にかけて植生はどうなるのか?過去の現象の正確な理解を基盤として将来を予測し適応策を練ることが必須です。是非物理や化学もしっかりと勉強して、樹木の分布という植物学の大きな課題に挑んでほしいものです。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2026-03-05