一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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核型分析 解離

質問者:   大学生   鈴木
登録番号0631   登録日:2006-05-06
私は、モチノキ属(モチノキ・タラヨウ)の核型分析を行っています。
今は1Nの塩酸、60℃で12分間解離しています。
押しつぶして検鏡すると、細胞がばらばらにならず、観察にもなりません。

樹木の染色体観察に、最も有効な解離方法があれば、是非教えて頂きたいと思っております。
また、モチノキ属という粘性の強い樹木なので、他の植物とは違う解離手法が必要なのかとも思っております。
この点におきましても、ご存知の方がいらっしゃいましたらご教授おねがいします。
鈴木さま

 みんなの広場へのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を植物細胞分類学がご専門の大阪市立大学植物園の岡田 博先生にお願いいたしましたところ、以下のような詳しい回答をお寄せ下さいました。きっと参考になると思います。


岡田先生からのご回答
ご質問について、まずどこを材料とされたのかで、処理の仕方が違うのです。普通のやり方では、材料にはよく生長している(つまり細胞分裂を盛んにしている)根端を用います。そのためには材料となる植物(この場合は木本植物ですが)を鉢植えして、根の成長を待ちます。よく生長している根端であれば、60℃の1NHClに20秒も入れておけば大体、解離は大丈夫です。このときによく失敗するのはよく生長している根端がすでに切れてなくなっているのに気付かず、生長していないけどまだ白い根を使うことです。よく生長しているところはやわらかくて折れやすいのです。これだと、質問されているような状態になります。ついでに、もし解離がうまくいっても、カバーグラスに気泡がたくさんはいることがありますが、これは根端の周りにあった細かい砂の粒子が残っているために起こります。これを防ぐために、実態顕微鏡で根を掃除してやります。細かい筆を使って、根を拭いていくとごみを取り除くことができます。これらの操作中根に絶えず固定液を加えて、乾燥しないようにします。(乾燥したらその根は捨てます)

もしも、若い葉、または芽を使うやり方の場合ですと、使える時期があります。大体今頃がいいのですが、成葉の20分の1くらいの小さい若い葉を使います。このときには固定液に工夫が必要です。経験的に適しているのは固定する直前に作ったEtOH :クロロフォルム:氷酢酸 = 2:1:1(5℃)です。これの20ccくらいに芽を最多で3-4個くらい、固定します。この液は作り置きをしてはいけません。酢酸とアルコールでエステルができてしまい、固定力が落ちます。材料が適していて、固定が適切に進んでいると、葉緑素がどんどん溶け出して固定液は緑色に、材料は白くなります。こうならないときには材料がすでに古いか、あるいは生長していないかのどちらかです。葉緑体が残っている材料では細胞分裂はもうやらないで、伸長生長だけしています。

いずれにしても、コルヒチンなどでの前処理が必要です。

詳しくは最近出た本を参考にしていただけばいいと思います。
福井希一・向井康比己・谷口研至編著:クロモソーム 植物染色体研究の方法.養賢堂.(2006) ¥6,930(税込み)

なお、経験のある方より直接、方法を習うほうがいいと思います。文章にかけない、口でも説明できないような細かいノウハウがかなりたくさんありますので。

岡田 博(大阪市立大学理学部附属植物園)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2006-05-08