一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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椿についての質問

質問者:   高校生   さちよ
登録番号0634   登録日:2006-05-07
私は椿について質問があります。
先日理科の実験をしていて疑問に思ったことが有ります。
まずどうして葉の気孔の数は、表と裏とであんなにも違うのですか?
また、椿の葉は落葉樹のように落葉しないのですか?
椿の造りや環境条件についてなどわかる事をいくつかしりたいです。
さちよ さん

椿についての貴方からのご質問への回答を、この問題に詳しい東京大学大学院理学系研究科の寺島一郎先生にお願いしました。ご参考にして下さい。
なお、時間があったら野外に出てみて下さい。新緑が美しい季節ですが、実は、この季節に常緑樹の落葉が見られます。


[寺島先生の回答]
たしかにヤブツバキの葉の表側には気孔が無く裏側だけにあります。カシや常緑広葉樹の葉を調べるとだいたいそうなっています。一方、草本植物の葉には表側と裏側の両方に気孔を持つものがたくさんあります。「気孔は葉の裏側にある」とよく言われますが、そうとは限りません。明るい野外で育てたヒマワリの場合には、表側と裏側の気孔密度(面積あたりの気孔の個数)はほぼ同じです。イネもそうです。また、水面に浮いているスイレンでは気孔は葉の表側にしかありません。

スイレンに表側にしか気孔がないのはすぐに理解できますが、どうして、葉の裏側に気孔を持つ植物もあれば、両側に持つ植物があるのか?気孔を表側にもつメリットとデメリットは何か?という問題は難しくまだ解答は得られていません。

両側に気孔があると、二酸化炭素がよく拡散するので、光合成に有利です。厚い葉の裏側に気孔があると、葉の内部にかなりの二酸化炭素濃度の勾配ができてしまいます。太陽光のよくあたる光合成を盛んにやっている細胞への供給される二酸化炭素の濃度が下がってしまって、葉の光合成には不利です。さかんに光合成をする陽地性の草本植物の葉には両側に気孔があるのは光合成に有利なためでしょう。

では、片側に気孔が有る場合、表側ではなく裏側にあるのはなぜでしょうか?葉の裏側の方が表側よりもわずかに温度が低く、そのために同じ面積の気孔を開いても、蒸散によって失う水の量がわずかに少なく、水の利用という面からは有利です。特に風がないとき、空気が暖まって上昇する場合、葉の裏側で空気が淀みますが、表側だと渦がまいて、蒸散が大きくなるようです。蒸発熱を奪って葉を適温に保つということを考えると、蒸散は必要ですが、水の少ない地域では水利用の効率は大切な問題です。もう一つは、特に長生きする葉では表側に孔があると、ゴミが溜まってしまいやすいという欠点も有ると思います(これは回答者の個人的な説ですが)。つまり、この問題については、植物学者全員が納得する説明とデータはまだありません。質問者の問いを突き詰めると、すぐに、誰も知らないところまで到達します!

ヤブツバキの葉も落ちます。常緑とは言っても木が常に緑であるというだけで、葉には寿命があります。一本の木の中でも明るいところの葉の寿命は短く、暗いところの葉の寿命は長いのが普通です。

寺島 一郎(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2006-05-10
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