一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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天然林の樹木栄養診断について

質問者:   大学生   Fusoon
登録番号0642   登録日:2006-05-08
はじめまして。初めて質問いたします。

天然林の物質循環について調べているのですが、栄養診断のことに対して、農業や人工純林ではいろんな方法がありますが、天然林では樹種がいっばいあって、なかなか難しいですので、何のいい方法があるんでしょうか?
いつも土壌のことばかりやっていますが、生理的なことはあまりよく分かりませんので、もしその面で何かがありましたら、是非教えてください。

外国人なので、変な日本語を使っていたかもしれませんが、どうぞ、よろしくお願いいたします。
Fusoonさん:

大変お待たせしました。登録番号0642天然林の栄養診断について森林総合研究所の野口享太郎先生に伺い次のような回答を頂きました。ご質問の内容は天然林という地域によっても内容の異なる複雑系を対象とするものですから、一般化された回答はなく、天然林をどのように取り扱うか研究する者が工夫をする必要があるかも知れません。


<回答>
「天然林の栄養診断」とのことですが、いくつかの可能性が考えられると思います。例えば、ある森林生態系と別の森林生態系を大雑把に比較するということでしたら、「養分利用効率」を調べることが考えられます。養分利用効率は、基本的には「養分吸収量に対する成長量」のように定義されます。しかし、樹木のように落葉時に養分を回収して再利用する性質を持つものに関しては、「落葉の養分濃度の逆数」を指標として使うことが提案されています。つまり、落葉により失われるバイオマスに対して、同時に失われる養分の量が少ないほど養分利用効率が大きいということになります。一般に養分利用効率は養分条件の悪い森林で大きいとされており、窒素利用効率を熱帯林から北方林まで広く比較した例では、全体の傾向として針葉樹林で大きく、温帯落葉広葉樹林、熱帯林の順に小さくなることが報告されています。
もう1つの可能性として、ある森林の樹木個体の栄養状態を知りたいかもしれません。本当は共通する栄養診断基準があればよいのですが、Fusoonさんもおっしゃるように、天然林は様々な樹種により構成されていますし、樹種の構成は環境条件により変化します。例えばブナやトチノキは水分や養分条件の良い場所を好みますし、マツやツツジ類は尾根筋などの乾燥しやすい場所に多く見られます。そのため、天然林の樹木全体に対して共通の栄養診断基準を設けることは難しいと思います。
 ただし、一般的には養分条件の良くない森林では地上部の成長が抑えられ、根への資源(光合成産物)の分配が増えると言われています。日本では多くの森林が山の斜面に沿って成立していますが、このような森林では斜面を下から上に登るにつれて、樹高が低くなり細根の量が増加します。これは、養分や水分の少ない斜面上部では、樹木が細根に多くの資源(光合成産物)を分配して、土壌中の少ない養分を効率よく吸収しようとした結果と考えられています。このような現象は落葉広葉樹林、クロマツ林、スギ林などで報告されていることから、樹種の違いによらない共通の反応である可能性があります。しかし、これらのケースでは、樹高の低下や細根の増加の原因が主に水分不足にあるのか養分不足にあるのかは、はっきりしていません。また、落葉広葉樹林において斜面の上部と下部で樹種が異なる場合には、樹高や細根量の違いは樹種間のもともとの性質の違いを表しているのかもしれません。

野口 享太郎(森林総合研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-06-06
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