一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

発芽促進物質について

質問者:   その他   川田隆夫
登録番号0653   登録日:2006-05-11
もう20年も昔のことですが、植物種子の発芽を促進させる物質についての文献を読んだことがあります。
現在ではそういった研究も進んでいると思うのですが、適当な文献、参考書等ないでしょうか?
また、種子の種類によって発芽促進効果のある物質は異なるのでしょうか?
川田隆夫 さん:

種子の発芽は多くの場合2種の植物ホルモン(アブシジン酸とジベレリン)の作用で説明されています。種子は、雌しべの基部にある子房の中の卵細胞が受精して発達した次世代の幼植物(胚)が一時的にその後の成長を停止し乾燥したものです。種子胚の成長発生が一時停止した状態を休眠と呼んでおり、種子形成の後半におこる乾燥に耐える状態へと変わります。種子休眠は発芽を抑制する植物ホルモンであるアブシジン酸が種子に蓄積するためにおきるとされています。一般的にアブシジン酸量は胚が成熟し種子全体が乾燥すると低下しますので、収穫した乾燥種子を発芽条件下におくと発芽するわけです。ところが種子によって休眠の深さが違い、休眠が破れるまでに長い時間を必要とするものがあります。一つの原因は乾燥後もアブシジン酸量が高く、発芽条件下においてもその減少が遅いことや、発芽を促進するジベレリン量の増加がおきにくいことにあります。また発芽を阻害する物質を種皮などに含んでいる場合もあります。このような種子では、アブシジン酸の量が低下するまで、あるいはジベレリン量が増加するまで発芽しないため発芽が大幅に遅れることになります。種子形成の段階で胚休眠のおきない(アブシジン酸蓄積の少ない)品種もあり、この場合は種子が母植物上にあって、乾燥する前に発芽してしまます(穂発芽)。しかし、種子休眠は上に説明したほど簡単ではありません。例えば、胚の休眠がおきていなくても種皮が厚いためになかなか胚の吸水ができなかったり(ハス、クルミなど)、吸水して成長しようとしても厚い種皮に妨げられて簡単に発芽できなかったり、種皮に発芽阻害物質が含まれ吸水で阻害物質が溶け出すまで発芽しなかったり(黒皮のヒマワリなど)といろいろな条件が重なって成り立っています。
種子休眠を破る方法は昔からいろいろ工夫されていますが、多くの休眠種子ではジベレリンを種子に与えると容易に発芽することが分かっています。乾燥種子を長期間保存したり、種子に吸水させながら冷蔵庫内に長時間おいたり(リンゴ種子など)、エチレンガス処理をしたりすると種子休眠が破れる場合があります。厚い種皮の種子では種皮に傷をつけたり、人為的に種皮を取り除くと容易に発芽するものもあります。

「参考資料
「新しい植物ホルモンの科学」小柴共一、神谷勇治編 講談社サイティフイック」
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-05-15
植物 Q&A 検索
Facebook注目度ランキング
チェックリスト
前に見たQ&A
入会案内