一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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藍藻類のリンの取り込み機構

質問者:   その他   池山
登録番号0664   登録日:2006-05-12
カビ臭物質産生藍藻類のPhormidium tenueを、調査を目的として河川水で培養しています。
培地がリン制限となっているため、リンを0.005mg/L程度以上になるように添加すると、増殖しはじめるようですが、藍藻類のリンの取り込み機構や藍藻が取り込めるる有機態リンはどのようなものか教えて下さい。
池山さま

 どこまで細かく回答して良いのか良く判りませんが、とりあえず専門家にお答えするつもりで回答します。
 一般に環境には、生物が利用できるリン化合物として無機リン酸と有機リン酸が存在することはご存知の通りです。
 らん藻や細菌などの原核生物が、無機リン酸を細胞内へ取り込む仕組みには、高等動植物に類似の機構と原核生物に独自の機構が別々にあることが判っています。
 高等動植物に類似の機構として、細胞内外のH+の電気化学ポテンシャル勾配を利用して無機リン酸を細胞内に取り込むことができる共輸送系タンパク質の存在が知られています。また独自の機構としては、ABC輸送体と呼ばれるタンパク質によって、ATPの化学結合エネルギーを利用して無機リン酸を細胞内に取り込む仕組みがあります。特に、ABC輸送体による取り込みは、細胞がリン酸欠乏状態に置かれたときに発現してくるとされていて、極めて低濃度の無機リン酸(通常の河川や湖のリン酸濃度は0.003mgP/L以下の場合もあります)を効率的に細胞内に取り込むことができます。
 また、細菌やらん藻では、有機リン酸を無機リン酸との対向輸送で取り込む輸送体の存在が知られています。代表的なものとしては、グリセロール-3-リン酸を取り込む膜タンパク質があります。環境にこのような有機リン酸が十分にあるとは考えられませんし、リン酸との対向輸送のためリン酸自体の収支はゼロですから、この系は環境の栄養リンを取り込むことに有効に機能しているとは考えられません。細胞の代謝調節に働いているものと考えられます。高等植物では、このような有機リン酸化合物を直接細胞内に取り込むことができる輸送体の存在は全く知られていません。
 一方、らん藻、細菌、高等植物のいずれも環境の有機リン酸を生育に利用することができます。それは、細胞が有機リン酸を加水分解するホスファターゼを分泌し、それによって環境中の有機リン酸化合物(糖リン酸、ヌクレオチドリン酸、DNAなど)を分解して無機リン酸を作りだし、その無機リン酸を取り込むことによります。このホスファターゼを分泌もリン欠乏状態で誘導されることが知られており、湖水のホスファターゼ活性は、そこに存在する微生物のリン酸栄養状態を知るための指標とされています。従って、らん藻が直接取り込める有機態リンは存在しないとしても、環境中の有機態リンはホスファターゼで分解できる限り栄養に利用することができると言えます。
 環境中の無機リン酸の多くは、鉄やカルシウムなどのイオンと結合して難溶性の塩を作っています。この塩を溶解して無機リン酸を取り出すために、細胞から有機酸を放出する機構も知られています。放出された有機酸による酸性化と金属のキレート作用により、無機リン酸が可溶化され、らん藻などが利用できるようになります。
 環境からリンを取り込むためにどの作用がより強く働いているかは、それぞれの細胞の性質や環境条件によると思われます。
神戸大
三村 徹郎
回答日:2006-05-15
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