一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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GABA(ギャバ)について

質問者:   その他   立原哲
登録番号0069   登録日:2004-05-20
発芽玄米などで話題のGABAですが、他にギャバロン茶の例もある通り、窒素充填したり、さらには水につけたりして嫌気呼吸させることで産生するようです。
このGABAとは植物にとって何なのでしょう?
私には「いじめる」と出来る、人間でいうと乳酸みたいなものにおもえるのですが。
植物はこれを何のために作るんでしょう?
よろしく回答ください。お願いします。
立原 哲さま

 植物の代謝を専門にされている農林水産省の坂野勝啓博士から以下の回答をいただきました。ご参考にして下さい。少し専門用語が多くて難しいかもしれませんが、ご不明のことがありましたら、またご連絡下さい。

 GABAは植物でもグルタミン酸の脱炭酸反応によって生成します。グルタミン酸からGABAを生成する反応はプロトンの消費反応であり、これを触媒するグルタミン酸脱炭酸酵素は至適pHが酸性側にあるため、細胞質が酸性化すると反応が促進されます。つまり低酸素、低温などのストレスによって細胞質が酸性化するとき、この反応はプロトンを消費することによって細胞質の酸性化を抑制し、細胞にとって重要な細胞質pHを中性付近に維持する、といえるでしょう。この反応が細胞質pH調節機構として無視できない理由は、基質であるグルタミン酸の細胞内濃度が高いこと(1-5mM)、さらにそのアミドであるグルタミン(細胞内濃度は10mMに及ぶ)もまたGABAの前駆体となりうることでしょう。

 少し詳しく述べます。GABAはコハク酸セミアルデヒドを経てコハク酸に変換され、TCA回路に入って代謝されます。この内、最初の反応を触媒するトランスアミナーゼは中性乃至アルカリ側に至適pHを持ち、細胞質の酸性化で反応は遅くなります。つまりGABAの細胞内レベルは動的平衡にあり、植物が無酸素、低酸素、低温などのストレスに曝されて細胞質が酸性化すると蓄積します。実際、シャジクモでは無酸素条件以外にもpH5位の酢酸緩衝液に曝すだけで大量のGABAが生成します。
 こうして、植物におけるGABA生成の意味の一つは細胞質pHの調節にあると考えることができます。グルタミン酸は細胞質(pH7.5付近)では一価の陰イオンですが、これが脱炭酸してできるGABAの電荷はゼロですから、「GABA生成反応はプロトンを消費する反応である」ことが分かります。
Glutamate- + H+ → GABA + CO2
ですから、「ストレスによって細胞質が酸性化すると、この反応がプロトンを消費し細胞質の酸性化を抑制する」といえます。この反応が細胞質pH調節機構として無視できない理由は、基質であるグルタミン酸の細胞内濃度が高いこと(1-5mM)、さらにそのアミドであるグルタミンもGABAの前駆体となり得、場合によっては10mM以上になるのでプロトン消費の許容能力が大きいことです。
 植物でも嫌気条件下でATPを作るためにグルコースから乳酸ができますが、この反応はプロトンを生成するので細胞質を酸性化します。しかし、グルタミン酸からのGABAの生成はプロトンの消費反応ですから、両者のpHに関する効果は全く逆です。しかし嫌気条件下では乳酸生成の過程でできたプロトンをGABA生成反応が消費することによって細胞質の酸性化を引き起こすことなくATP生産を行っている可能性も否定できないでしょう。GABAは動物では神経伝達に関わる重要な物質ですが、植物の情報伝達において何らかの役割を果たしているのかどうか、現在はっきりしたことは何も分かっていないと思います。

 坂野 勝啓(農林水産省、農業生物資源研究所)
広報委員長、神戸大学
三村 徹郎
回答日:2007-07-27
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