質問者:
会社員
臺 誠
登録番号0690
登録日:2006-05-19
光合成によって作られた炭水化物等の栄養素は、木本類の場合、主としてどんな形でまたどのような部位に貯蔵されているのでしょうか。みんなのひろば
木本類の栄養貯蔵はどこで行われるのでしょうか。
また、芽吹きとか開花時には、どのようなメカニズムで異化されていくのか教えてください。
臺 誠 様
新緑の木々の葉が美しい季節にふさわしいご質問ありがとうございます。新芽が出て葉が光合成を始められるようになるまで、葉を作り上げる栄養分をどのようにして木本植物が貯えているかについてのご質問ですが、この問題について京都大学生存圏研究所バイオマス形態情報分野の馬場 啓一 先生から次のような詳しい解説を頂きましたのでご覧下さい。
木本植物は、全身に栄養分を蓄えていますが、新しく生まれる葉からの距離によってその意味合いが変わってきます。既に大きくなっている葉やそのすぐ近くの枝は現金を財布に入れているようなもの、もう少し遠い幹は銀行の普通預金、もっと遠い根は定期預金や不動産、有価証券のような貯蓄の仕方だと考えればよいかも知れません。木本植物は何十年から何百年も生き続けるわけですから、いろんなレベルの「いざ」という時のための貯蓄を準備しているとも言えます。もちろん、根も成長しますし、幹や枝も木部を毎年形成して年輪を重ねて太っていく(肥大成長と言います)わけですから、春に備えてそのために必要な栄養分をその場その場で蓄えておく貯蔵もかなりの部分を占めます。
常緑樹と落葉樹では栄養分の貯蔵の主役に大きな違いがあります。落葉樹は一斉に葉を落とす時期(日本など温帯なら晩秋)があり、その時、葉にあった栄養分を一斉に枝や幹に引き上げてしまいます。木本植物の幹や枝には養分の貯蔵や傷害に対する応答など、いろんな役割を担っている「何でも屋さん」のような柔細胞という生きた細胞があり、そこに栄養分が貯蔵されています。柔細胞は二次師部(内樹皮)に多く、ここが落葉樹の貯蔵の主役を担っています。内樹皮はごわごわと堅い外樹皮の内側から木材(木部)との間にあります。甘皮(あまかわ)とも呼ばれ、食料に乏しい冬場のエサとして野生動物によってかじられることがままあります。
秋、落葉樹は次の春に芽吹くための冬芽を作りつつ葉の栄養分を枝や幹の柔細胞にため込みます。貯蔵している細胞の中を見ると、エネルギー源の貯蔵の仕方で2つのタイプに分けられます。デンプン型と脂質型であり、どちらかを主に貯蔵するかは樹種によって決まっているようです。その他の栄養分として、窒素・硫黄源としてのタンパク質、ミネラル源としてのフィチン酸を蓄積する点では両者とも変わりがありません。枝や幹がデンプン型と脂質型のどちらのタイプであっても、根には脂質はほとんど無くデンプンの形で貯蔵されています。デンプンはアミロプラストに、タンパク質とフィチン酸は液胞に貯蔵され、その様子はまるで登熟中の種子にそっくりです。種子では最後に液胞を分割してプロティンボディを作り脱水して長期の休眠に耐える構造を作り上げます。枝や幹の柔細胞はそこまではやりませんが、冬の落葉樹は種子そっくりに休眠します。冬芽が種子の胚に相当し、枝が胚乳に相当すると言ってもよいでしょう。春先、新芽が吹く時には、芽に近い枝先から順に栄養分は無くなります。デンプンを分解して得られた糖分はショ糖として、貯蔵タンパク質は分解されて遊離のアミノ酸、シトルリンやアラントインといったウレイドの形で、道管を通じて転流されます。葉のごく近くでは、若い葉に優先的に栄養分を運ぶために師部へ移動し、能動的に師管で運ばれるとする報告もあります。
一方、常緑樹では、貯蔵の主役は葉そのものになります。新芽を吹いたり木部を形成して太ったりして栄養分が足りなくなれば、その都度古い葉から転流させて使います。栄養分を吸い取られ始めた葉に再度栄養分を送って元に戻すことなく、そのまま栄養分は引き上げられ続けて最後には落葉します。常緑樹の葉も1つ1つを見ればずっと枝に着いているのではなく、数ヶ月からせいぜい2年の寿命で落葉していくわけです。常緑樹もやはり冬の間は芽の生長も止まり幹も太らず木部には年輪界が生じます。葉に蓄えておいた養分が一番使われるのは春が多く、従って常緑樹の落葉は春に最も多くなります。
馬場 啓一(京都大学生存圏研究所バイオマス形態情報分野)
新緑の木々の葉が美しい季節にふさわしいご質問ありがとうございます。新芽が出て葉が光合成を始められるようになるまで、葉を作り上げる栄養分をどのようにして木本植物が貯えているかについてのご質問ですが、この問題について京都大学生存圏研究所バイオマス形態情報分野の馬場 啓一 先生から次のような詳しい解説を頂きましたのでご覧下さい。
木本植物は、全身に栄養分を蓄えていますが、新しく生まれる葉からの距離によってその意味合いが変わってきます。既に大きくなっている葉やそのすぐ近くの枝は現金を財布に入れているようなもの、もう少し遠い幹は銀行の普通預金、もっと遠い根は定期預金や不動産、有価証券のような貯蓄の仕方だと考えればよいかも知れません。木本植物は何十年から何百年も生き続けるわけですから、いろんなレベルの「いざ」という時のための貯蓄を準備しているとも言えます。もちろん、根も成長しますし、幹や枝も木部を毎年形成して年輪を重ねて太っていく(肥大成長と言います)わけですから、春に備えてそのために必要な栄養分をその場その場で蓄えておく貯蔵もかなりの部分を占めます。
常緑樹と落葉樹では栄養分の貯蔵の主役に大きな違いがあります。落葉樹は一斉に葉を落とす時期(日本など温帯なら晩秋)があり、その時、葉にあった栄養分を一斉に枝や幹に引き上げてしまいます。木本植物の幹や枝には養分の貯蔵や傷害に対する応答など、いろんな役割を担っている「何でも屋さん」のような柔細胞という生きた細胞があり、そこに栄養分が貯蔵されています。柔細胞は二次師部(内樹皮)に多く、ここが落葉樹の貯蔵の主役を担っています。内樹皮はごわごわと堅い外樹皮の内側から木材(木部)との間にあります。甘皮(あまかわ)とも呼ばれ、食料に乏しい冬場のエサとして野生動物によってかじられることがままあります。
秋、落葉樹は次の春に芽吹くための冬芽を作りつつ葉の栄養分を枝や幹の柔細胞にため込みます。貯蔵している細胞の中を見ると、エネルギー源の貯蔵の仕方で2つのタイプに分けられます。デンプン型と脂質型であり、どちらかを主に貯蔵するかは樹種によって決まっているようです。その他の栄養分として、窒素・硫黄源としてのタンパク質、ミネラル源としてのフィチン酸を蓄積する点では両者とも変わりがありません。枝や幹がデンプン型と脂質型のどちらのタイプであっても、根には脂質はほとんど無くデンプンの形で貯蔵されています。デンプンはアミロプラストに、タンパク質とフィチン酸は液胞に貯蔵され、その様子はまるで登熟中の種子にそっくりです。種子では最後に液胞を分割してプロティンボディを作り脱水して長期の休眠に耐える構造を作り上げます。枝や幹の柔細胞はそこまではやりませんが、冬の落葉樹は種子そっくりに休眠します。冬芽が種子の胚に相当し、枝が胚乳に相当すると言ってもよいでしょう。春先、新芽が吹く時には、芽に近い枝先から順に栄養分は無くなります。デンプンを分解して得られた糖分はショ糖として、貯蔵タンパク質は分解されて遊離のアミノ酸、シトルリンやアラントインといったウレイドの形で、道管を通じて転流されます。葉のごく近くでは、若い葉に優先的に栄養分を運ぶために師部へ移動し、能動的に師管で運ばれるとする報告もあります。
一方、常緑樹では、貯蔵の主役は葉そのものになります。新芽を吹いたり木部を形成して太ったりして栄養分が足りなくなれば、その都度古い葉から転流させて使います。栄養分を吸い取られ始めた葉に再度栄養分を送って元に戻すことなく、そのまま栄養分は引き上げられ続けて最後には落葉します。常緑樹の葉も1つ1つを見ればずっと枝に着いているのではなく、数ヶ月からせいぜい2年の寿命で落葉していくわけです。常緑樹もやはり冬の間は芽の生長も止まり幹も太らず木部には年輪界が生じます。葉に蓄えておいた養分が一番使われるのは春が多く、従って常緑樹の落葉は春に最も多くなります。
馬場 啓一(京都大学生存圏研究所バイオマス形態情報分野)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2006-05-31
浅田 浩二
回答日:2006-05-31