一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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耐塩性植物について

質問者:   大学生   クリハラ
登録番号0697   登録日:2006-05-21
はじめまして。大学生です。

授業の中で砂漠化の防止・改善に関して耐塩性植物を学び興味を持ちました。
遺伝子組換え技術によって植物に耐塩性を付加するらしいのですが、いまひとつ理解できませんでした。
一つの遺伝子を変えることで劇的に耐塩性を変化させる方法やイオン輸送に関与する液胞膜の強化など様々あるようですが、現在どんな研究が主流なんでしょうか。
また耐塩性植物の開発は機構がまだ判明していないようですがどんな点が難しいでしょうか?

つたない文章ですいません。
よろしくお願いします。
クリハラ 様

このコーナーに質問をお寄せ下さり、ありがとうございました。ご質問には、耐塩性の研究に第一線で取り組まれている名古屋大学大学院・生命農学研究科の高倍鉄子先生からご回答を頂きました。ご参考にして下さい。


[回答]
 植物の耐塩性機構に興味を持っていただき、とてもうれしく思います。ご存知のように、食料需要が供給を上回るという憂うべき状態が2〜3日前の新聞報道にありますように、既に出てまいりました。そこで、砂漠化の影響を受けた土地でも、農業ができるような作物の育種が急がれます。
 ご指摘のように、これまでは1個の遺伝子で浸透圧調節機構を強化したり、細胞の中に流入した塩を排出したり、液胞に隔離したりするような遺伝子工学がなされてきました。それぞれ、そこそこの耐塩性の強化に成功しています。私の分野では、グリシンベタインを蓄積しないイネに、塩湖の藍藻から得ためずらしい遺伝子を使って、オオムギ並みのグリシンベタインを蓄積させたりすることに成功しています。しかしながら、これらの研究はまだ唐突です。グリシンベタインを植物個体レベルでどの組織にどれくらい蓄積させるのが有効かという地味な研究がないままで行われているためです。無用なところでも蓄積させて、植物はエネルギーの無駄使いをすることになります。今は、少し後戻りして、原点から遺伝子工学を考え直しております。
 一方で、ゲノム解析が終了した作物については、これまで役割の分かっていなかった遺伝子の機能解析が進んでいます。マイクロアレーという方法で、塩ストレスで発現が変化する遺伝子を染色体の上にマッピングして、耐塩性遺伝子を多く含む部位をごっそり入れ変えようとするような育種も考えられています。大きく染色体レベルで入れ変えると、都合の悪い遺伝子も含まれてきますので、戻し交配をして、除くというステップも必要になるようです。
 以上のように耐塩性作物の育種には、まだ超えなければならないハードルが多くあります。人類の食料確保のために是非若い皆さんにも大勢この分野に参加して頂きたいと思います。ちなみに、私の研究室の何人かの大学院生は、食糧難ということに関わって生きるのを自分の人生の舞台として選びましたと申しております。私も襟を正して、共に歩もうと決意しています。

高倍 鉄子(名古屋大学大学院生命農学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤公行
回答日:2006-05-25
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