一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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気孔

質問者:   中学生   化学
登録番号0708   登録日:2006-05-26
気孔のまわりにだけ葉緑体があるのは何故ですか?
化学 さん

お待たせしました。先日のご質問への回答です。
 この質問には、気孔開閉の仕組みの解明に第一線で取り組まれている九州大学の島崎研一郎先生から回答をいただきました。中学生には少し難しいところがあるかも知れませんが、もし不明なところがありましたら再度質問を寄せて下さい。また、最近、関連した質問がこのコーナーに寄せられ、回答がすでにホームページに掲載されておりますので参考にして下さい。


[回答]
気孔の周りの一対の細胞を孔辺細胞と言います。孔辺細胞は、植物の体の表面を被う表皮細胞が分化してできたものです。表皮細胞の中では、孔辺細胞にだけ葉緑体があることが多いです。孔辺細胞は気孔の働きを調節する大切な役目をしており、この細胞が膨らんだり、収縮したりすることによって、気孔が開いたり、閉じたりします。

 では、この細胞にだけ葉緑体があるのは何故でしょうか。気孔が開く際には、外部から大量のカリウムが孔辺細胞に取り込まれることが知られています。カリウムの蓄積によって水が細胞内に吸収され、細胞の体積が増大することによって気孔が開くと言う仕組みになっています。しかし、カリウムの濃度は細胞の外よりは内の方がずっと高いので、濃度に逆らってカリウムを細胞内に取り込むためにはエネルギーが必要です。孔辺細胞の葉緑体は、カリウムの取り込みに必要なエネルギーを作り出すのに一役買っているものと考えられています。

 葉をつくる大部分の細胞では、光を受けた葉緑体の働きによって、二酸化炭素からショ糖やデンプンなどが作られることを学びましたね。ところが、面白いことに、孔辺細胞の葉緑体は少し変わっていて、二酸化炭素の固定をあまり行わないようです。しかし、孔辺細胞に光を当てるとカリウムを取り込む能力が増大することから、葉緑体が気孔の開閉と関連した特別の役割を果たしていると考えられているのです。昔から、孔辺細胞の葉緑体がショ糖を合成し、それが気孔を開かせる働きをするとの考えがありましたが、私は、合成されるショ糖の量は気孔を開かせるには足りないと思っています。

 以上のことは、比較的良く調べられているソラマメやツユクサを用いて得られた結果で、これが全ての植物に当てはまるかどうかは調べて見ないと分かりません。

 植物の葉を顕微鏡で観察すると直ぐに目につく気孔の孔辺細胞の葉緑体一つをとってみても、以上のように、その役割が完全に解き明かされたとは言い切れません。植物の世界には興味深い謎が沢山あります。これらの謎を解明する研究に取り組んでみると、時として長い時間がかかることもありますが、正解が得られたときには、やった人にしか味わえない大きな喜びがあるものです。

島崎 研一郎(九州大学大学院・理学研究院・生物科学部門)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2006-05-31
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