植物Q&A

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植物の斑入りの葉

質問者:   中学生   永野浩志
登録番号0727   登録日:2006-06-01
植物の斑入りの葉はどのようにしてできるのですか?
永野 浩志 様

 本質問コーナーでこれまでに植物の葉や花の斑入りについて2回、ご質問があり、これについて、何が原因でどうして生ずるかなどについて、詳しく研究されておられる岡山大学・資源生物科学研究所・坂本 亘 教授からそれぞれ解説していただいています。学会ホームページの質問コーナーに、登録番号0235、登録番号0397に対する回答として掲載されていますが、ここに登録番号0397、登録番号0235の順にもう一度掲載しますのでご覧下さい。二つ目の解説は少し難しいかも知れませんが、よく読んで下さい。斑入りを単に眺めるだけでなく、それがなぜかといった疑問をもつことが科学にとって最も大切です。

  
(回答1)主に葉の斑入りについて
 斑入りの葉で、緑のところと白いところで何が違うかというと、細胞の中にある「葉緑体」が違っています。
 ふつう、緑の細胞の中には、光合成を行うための、膜でおおわれた器官が発達します。それが葉緑体です。葉緑体には光合成を行うための、(1)光エネルギーを受け取る装置、(2)光エネルギーを化学エネルギーに変える装置、(3)そのエネルギーで二酸化炭素から糖を合成する装置、があります。緑に見える理由は、上の(1)にクロロフィルなどの色素(葉緑素)があるからです(色素が吸収しない光が緑なので、緑色に見えるのです)。つまり、斑入りの葉には葉緑体がある細胞と、そうでない細胞とがかたまりになっているため、緑と白に見えるのです。白いところには、上の(1)(2)(3)がありません。
 では、白い細胞には何があるかというと、葉緑体のかわりに「白色体(プラスチド)」という器官があります。一般に、プラスチドは葉緑体の前駆体で、プラスチドに光が当たると、上に書いたような装置が発達して葉緑体になります。白い細胞では、葉緑体になることができなかったプラスチドがそのまま残っているか、あるいは、葉緑体が上の装置を維持できずに壊れてしまったプラスチドが残っています。
 葉緑体は、細胞内共生といって、植物の起源となった細胞にシアノバクテリアという光合成細菌が入り込んでしまったことに由来します。したがって、葉緑体は細胞内でバクテリアのように動きまわったり、増殖を続けたりしますが、細胞自体がそれをうまく制御しているのです。斑入りの植物でも、おそらく、このようなプラスチドは増殖していますが、葉緑体への分化、あるいは葉緑体を維持することがうまくいかない部分ができ、その結果、白と緑のところができてしまいます。緑のところは光合成をするので、デンプンが蓄積しますが、白のところでは蓄積しません。中学校の教科書では、デンプンを紫に染めるヨウ素反応でテストすると、緑のところだけ染まることが紹介されています。
 なぜ斑入りになるか、私はその専門家なのですが(>_<)、残念ながら、その理由はよくわかっていません。ただ、原因はある程度わかっています。解明されたものの多くは、突然変異、つまり遺伝子の働きが違うことでそのような斑入りになることがわかっています。また、生理的な理由、つまり、植物が病気にかかったときなどに症状として斑入りが現れることもわかっています。どちらにせよ、自然界にたくさんの斑入り植物が存在するので、植物が様々な環境条件(例えば、熱帯地方とか乾燥地帯など)に適応して繁殖するときに、有利になる場合があるのだと考えられています。
 植物の斑入りは、見るだけでもいろいろあって楽しいですが、科学的にわからないこともたくさんある面白い材料です。なぜ、自然界にいろんな斑のパターンができるのか、興味深いですが、同時にわからないことばかりです。

回答(2)どうして花や葉に斑入りが生ずるのか
 植物の斑入りがなぜおこるかについては、現在でもわかっていないことが多いですが、一般的な現象としては以下のような理由が挙げられます。
遺伝学的な理由:
 花色で最も有名な例は、絞りアサガオなどの斑入りで、これはトランスポゾンという、動く遺伝子の作用により引き起こされることがわかっています。トランスポゾンとはDNAの中を動くことができる(つまりあるDNAの領域から他の領域へ転移できる)遺伝子のことです。例えば、これが、花の色を紫にする遺伝子に入っていると、遺伝子が不活化されるため、全ての花弁が白い花になりますが、もし花弁の発達中にトランスポゾンが転移して遺伝子の働きが回復するとその部分だけが紫になります。転移性のトランスポゾンは、多くの植物に存在することが明らかになっており、トウモロコシ、イネ、ペチュニア、キンギョソウなどでよく研究されています。トランスポゾンが原因となる葉の斑入りは、あまり報告がないですが、ないことはないです。
 それから、細胞質ゲノムの突然変異による葉の斑入り、という例も知られています。遺伝子の殆どは核ゲノムの染色体にありますが、植物細胞では葉緑体とミトコンドリアにもDNAゲノムが存在し、遺伝子を持っています。1つの細胞にはたくさんの葉緑体とミトコンドリアが存在し、それぞれがDNAを持っています(つまり通常は突然変異があってもマスクされて出てきません)。ところが、葉緑体やミトコンドリアDNAに突然変異が生じ、それらが分離して蓄積すると、その変異が生じた部分が白い組織になってセクター状になる、という斑入りの例が知られています。
 以上のような例は、遺伝的に起こる斑入りの典型例ですが、一般的な斑入りがこのようなしくみでおこるかはわかっておらず、筆者らはむしろ例外的だと考えています。
生理学的な理由:
 上の様な例の他に、ある遺伝子が欠損することで葉に斑入りが起こる現象も多く知られています。この場合は、トランスポゾンと違って遺伝子が動くことはなく、均一に突然変異が起こりますが、葉緑体の機能が何らかの影響を受けることで一部の細胞は白くなり、一部の細胞は緑のままになります。原因となる遺伝子については、光合成の機能に関係すると言われていますが、様々な例があります。この場合、原因となる遺伝子についてはもっと詳しく話すことができますが(詳しくは参考文献を見て下さい)、ご質問のように「なぜ斑入りになるか」はよくわかっていません。
 植物の葉は、光や温度などの条件に応答して光合成やその他の代謝機能を変化させます。その結果として、強い光で育てると斑になったりすることがあります。また、外的要因の一つとして、ウイルスなどの感染に応じて組織に斑入りの様な「病候」を作ることもあります。これらは植物自体の適応反応として斑を作るわけですが、なぜそうなるかはよくわかっていません。植物は、生長点という分裂組織から再生するために、葉の一部が白くなって死んでも生き延びることができます。このように、植物は斑入りになることで劣悪な環境条件から自分自身を守っている、と考えることもできますが、科学的には証明されていません。
発生学的な理由:
  遺伝子の影響が詳しく調べられる以前の、教科書などに書いてある葉の斑入りには、例えば「周縁キメラ」という例が書いてあります。これは茎頂分裂組織(葉を作るもとの細胞)において、特定の領域で色素の形成や葉緑体の分化がおかしくなると、その結果として葉の周縁部のみが白い斑入りとなる例で、発生段階における変化が結果として斑入りとなる、ということが書かれています。このように、ある種の斑入りによっては「パターン」を示すので、発生学的に原因を考えるべきです。ただし、葉の発達には光が必要であり、そのような意味で上述した生理学的な理由とも関連するので、葉緑体の発達がどうして特定の段階で異常となり斑入りを生じるのかは、遺伝子のレベルではわかりません。
おわりに
 園芸植物や山野草などで斑入りの植物は珍重されていますが、斑入りといっても、いろいろなパターンがあるので一言でどのようなものを指すのかあいまいなことがあり、注意が必要です。さらに、花の斑入り、葉の斑入り、また、単子葉や双子葉植物の斑入りでは異なっています。ここではわかる範囲内でこれまでにわかっている斑入りのメカニズムについて書きましたが、他にも様々な現象があるかもしれません。筆者は、そのような植物の多様性が興味深いと思っています。
参考文献(少し古いですがもう少し遺伝子に興味があれば読んで下さい)
武智克彰・坂本 亘 (2002) 「斑入り」葉緑素突然変異体を用いた原因遺伝子の研究と最近の知見. 育種学研究. 4: 5-11.

坂本 亘(岡山大学資源生物科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2012-08-25
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