一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ネギの花序について

質問者:   その他   つつつん
登録番号0748   登録日:2006-06-06
花序に関する試料によるとネギ、ニラは散形花序の代表例としてと記載されています。
しかし、散形花序の語彙解説は無限花序(総穂花序)とされ、開花順序が求心的と記載されています。
この解説ではニラは確かに求心的に開花しますが、ネギの場合、遠心的に開花するためネギは散形花序ではないことになってしまします。
植物の花序は有限花序と無限花序に2大別され、その下位に散形花序などの分類が位置しているのではないのですか?

また、ネギとは別件になりますが、イネやムギの花序は穂状花序ではないという話も耳にしました。
穂状と言っているにもかかわらず、これらが穂状花序ではないとなると複雑過ぎます。
どうかこれらの花序に関する疑問にシンプルに答える方法があれば教えてください。
参考書籍などもよろしくお願いします。
つつつん様

 みんなの広場へのご質問ありがとうございました。このような質問に植物生理学会は弱いので、生理学会の会員ではない、東京大学付属植物園の邑田 仁教授にご回答をお願いいたしましたところ、以下のようなご回答をお寄せ下さいました。どうやら頂いたご質問は専門家にも難しい質問のようですが、邑田教授のご回答がご参考になれば幸いです。


邑田先生からのご回答
 まず、イネやムギの花序が穂状花序ではないという点について。これは花序の定義上明白です。すなわち、穂状花序とは(極端に短縮していない)中軸に「無柄の花」がならんでつく花序(単花序)と定義されます。ところがイネ科の花序は1対の苞穎とその内側(上側)につく1〜数個の花からなる小穂(これがすでに花序である)を単位としており、ムギの中軸に並んでいるのは小穂すなわち「無柄の花序」ということになります。したがってイネ科の花序は複花序であり、穂状花序の定義から外れます。

 ネギとニラの問題は正直にいって私にもわかりません。このような問題はバラ科のワレモコウ属でよく知られており、いずれも穂状花序をもつタカネトウウチソウやエゾノトウウチソウでは花序の基部から先端に向かって開花が進み、カライトソウやシロバナトウウチソウでは先端から基部に向かって開花します。これらは互いに近縁であり、花序の構造が異なるとは思われません。無限花序と有限花序というのは花の形成(発生)順を意識して捉えられており、開花の順番が花の形成順序を反映している場合には大変有効な概念ですが、ネギとニラとかワレモコウ属などの場合はおそらく特殊であり、開花の順番は必ずしも花が形成される順番と一致していないのではないのでしょうか。つまり、いったん花(蕾)が形成された後、何らかの情報(たとえばホルモンの傾斜など)によって、開花の順序が決まるのではないかと思われます。そうであれば、ネギの花序を、通常は求心的に開花すべき「散形花序」に含めてもよいような気がします。

 開花順の生理的なメカニズムについて私はまったく勉強しておりません。意外によくわかっているのかも知れず、この程度で回答とするのははずかしいことなのかもしれませんが、思いつく範囲でお答えします。

邑田 仁(東京大学付属植物園)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2006-06-12