一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物細胞 吸水力の定義について

質問者:   その他   佐藤 政雄
登録番号0769   登録日:2006-06-12
高校で生物を教えています。文科省の教科書検定の関係で、植物細胞の吸水力の定義が、次のようになったと聞きました。
専門家の方々は、どのようにお考えか教えて下さい。

 旧 細胞の吸水力=細胞内の浸透圧-膨圧=外液の浸透圧
 新 細胞の吸水力=細胞内の浸透圧-膨圧-外液の浸透圧

このような変化が起こると、例えばつぎのような大学入試問題の解答に違いが出てくると思います。

2005年度 名古屋大学 前期日程 生物 第1問
ある植物の培養細胞を、浸透圧が9気圧のスクロース水溶液に入れたところ、(a)原形質分離が起こった。

問1 下線部(a)において、細胞の変化が安定するまで放置したとき、この細胞の浸透圧、膨圧、吸水力はそれぞれ何気圧になっているか答えよ。

 旧による解答 浸透圧=9気圧、膨圧=0気圧、吸水力=9気圧
 新による解答 浸透圧=9気圧、膨圧=0気圧、吸水力=0気圧

と、吸水力の答えに違いが出てきます。このあたりで混乱していますので、お教え下さい。
佐藤 政雄さま

 回答が遅れてしまい申し訳ありませんでした。吸水力と膨圧の関係は、高校生物で一番とっつきにくい項目の一つだと思います。
 これについては、植物生理学の立場からは、水の化学ポテンシャルで考えるのが普通です。
 吸水力というのは、細胞内外の水の化学ポテンシャルの差にあたると考えられます。水の化学ポテンシャルの差は、水の濃度としての浸透圧差と、静水圧としての膨圧を考えることになります。従って、

 吸水力 = 細胞内外の浸透圧差 - 膨圧

が正しい定義になると思います。ここで言う「新」が正しいことになります (ただし、吸水力という言葉が日本語として意味するものとは、ずれがありますから、あまり良い表現とは思えません)。「旧」の定義は、前半は良く教科書に書かれているもので、古くから使われてきた式ですが、この後半は間違った理解です。いわゆる昔の教科書に良くあった体積ー圧力曲線で、吸水力とされているのは、 その状態の細胞を純水に浸した時にあとどれだけ水を吸収できるかという意味です(水の最大吸収力とでも言うべきものかもしれません)。しかし、通常、細胞がある溶液中に置かれて平衡状態になった時は、低張液でも高張液でも、平衡ですから吸水力はゼロです。水の最大吸収力としての吸水力を考える時に、純水の浸透圧はゼロですから、見かけ上「旧」定義の前半が成立することになります。しかし、それでは混乱があるので「新」定義になったものと思います。平衡状態の吸水力(常にゼロ)と、細胞が最大能力として持っている吸水力を混同しないことが重要です。

 名古屋大学の問題は、これまでの考え方なら最大吸収力としての 吸水力は9気圧、平衡状態の吸水力なら0気圧です。吸水力の定義をどう考えるかによりますが、どちらが正解になったのか、あるいはどちらも正解にしたかは判りません。
神戸大学
三村 徹郎
回答日:2006-07-06
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